第221話 学園長の秘密

――月の徽章を持つ生徒には一般生徒にはない特権がいくつか与えられ、その内の一つは学園長に直々に指導を受けられる事だった。学園長が指導を受けられるのは最上級生の中でも成績上位の者だけだが、例外として月の徽章を持つ生徒の場合は下級生でも学園長の指導を受ける事ができる。


晴れて月の徽章を得たバルトと共にマオは学園長室に赴く。緊張した様子でバルトは扉の前に立ち、そんな彼にマオは不思議そうに尋ねた。



「どうしたんですか先輩?気分が悪いんですか?」

「ば、馬鹿!!これから学園長と会うんだぞ!?お前の方こそなんでそんなに落ち着いていられるんだ!!」

「えっと……割と頻繁にここにくるので」



マオは学園長室には度々訪れ、学園長とは割と普段から会話をしている。月の徽章を持つマオは学園長と対面が許されており、しかも彼の担当教師であるバルルはちょくちょく学園長の元に訪れているため、バルルに用事がある時は学園長室に赴く事が多かった。



「たくっ、お前を見ていると緊張しているこっちが馬鹿みたいだな……」

「先輩、そろそろ中に入りましょうよ」

「わ、分かってるって……よし、行くぞ。本当に行くからな?行っていいんだな?」

「……代わりにノックしましょうか?」



いつまでも扉の前で緊張して入ろうとしないバルトの代わりにマオは扉をノックしようとした時、勝手に扉の方が開いて部屋の中からマリアの声が欠けられる。



「部屋の中まで聞こえてるわよ。遠慮せずに早く入りなさい」

「うわっ!?が、学園長!?」

「あれ!?今、どうやって……」



学園長はソファに腰かけた状態で二人に話しかけ、この時にマオは部屋の中に他の人間がいない事に気付いて驚く。扉は部屋の中から開かれたにも関わらず、マリアは部屋の中央にあるソファに座っていたので扉に手が届かないのは確かだった。


勝手に扉が開いた事にマオは戸惑い、部屋の外側と内側から確認するが特に扉に仕掛けが施されているようには見えず、いったいどうやって扉を開いたのか気になったマオはマリアに問いかける。



「学園長、今どうやって扉を開いたんですか?」

「こうやってよ」



マリアは小杖を取り出すと軽く腕を振りかざし、その行為だけで部屋の中に風圧が発生して扉を閉じた。その後にマリアはもう一度小杖を振ると、今度は扉の取っ手の部分に風が渦巻き、勝手に扉を開いてしまう。



「扉が勝手に!?」

「す、すげぇっ……今の、魔法じゃなくて風の魔力だけで開けたんですよね!?」

「ええ、貴方も慣れればこれぐらいの事はできるようになるわよ」

「いや、それはちょっと……」



バルトはマリアの言葉に苦笑いを浮かべ、彼はマリアと同じく風属性の適性を持つが彼女のように魔法を使わずに自分の魔力だけで風を操る事はできなかった。しかし、この時にマオはある疑問を抱く。



「あれ……学園長、今のって風の魔法ですよね?」

「ええ、そうよ。私は貴方と同じ風属性の適性を持つのよ」

「でも……前に僕達が試合した時、確か火属性の「ボム」で結界を破壊したと師匠から聞いてたんですけど、どうして学園長は風属性以外の魔法も扱えるんですか?」

「お、お前……相手は学園長だぞ、よくそんな気軽に話しかけられるな……」

「別に構わないわ。貴方も緊張し過ぎよ、とりあえずは二人とも座りなさい」



マオの質問にマリアは特に気分を害した様子もなく、彼女は自分と向かい側に二人を座らせる。この時に彼女は手にしていた小杖を置くと、二人に差し出す。



「これをよく見なさい」

「あれ、これって……」

「魔石?しかもこんなにたくさんの?」



小杖には複数の属性の魔石が装着されており、それを見たマオとバルトは顔を見合わせる。確かに杖に魔石を取りつける事自体は別に普通なのだが、問題なのはその数だった。


小杖には風、火、水、雷、地の属性の魔石が嵌め込まれていた。マオですらも風と水の魔石しか杖に装着していないにも関わらず、マリアは5つの属性の魔石を取りつけた小杖を扱っている事になる。



「この小杖は私が普段持ち歩いてる物だけれど、貴方達の杖と違う点は何か分かるかしら?」

「え?いや、えっと……」

「魔石の数ですよね」

「その通りよ」



マリアの言葉にバルトは口ごもるがマオは率直に答えると、マリアは頷いて小杖に嵌め込まれた魔石を一つずつ取り外す。机の上に並べられた5つの魔石にマオ達は注目し、どうして彼女が風属性を除いて適性のない魔石を杖に取り付けているのかマオは気になった。



(僕の場合は氷属性だから風と水の魔石をどちらも扱えるけど、学園長は確かに風属性に適性があると言った。普通なら適性がない魔石を扱う事はできないはずなのに……)



この世界においては魔術師が扱える魔法は自分の適した属性魔法しか操れず、例外があるとすればマオのように各属性の中間に位置する属性(氷など)ならば二つの魔石を扱える。しかし、マリアの場合は生粋の風属性の使い手らしく、本来であれば他の属性は扱えないはずだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る