第223話 各属性の魔力の操作法

「学園長の話だと、さっきの魔法は魔石だけの魔力で作り上げたんですよね」

「そうね」

「じゃあ、もしも魔石が無かったら……」

「当然、魔法は使えないわ。私はバルルと違って火属性の魔力をする事はできないのだから」



マリアは小杖から火の魔石を取り外した後、念じるように目を閉じて小杖を構える。しかし、いくら時間が経過しようと杖の先端部に変化はなく、魔光すらも発生しない。



「ふうっ……見ての通り、魔石を外せばこの通りよ。世間では天才魔術師と言われようと、魔石がなければ私だって適性のない魔法は編み出せない。この魔術痕も火属性の魔力を操る事しかできないわ」

「あ、じゃあ……もしかして僕達の試合に時に使用した「ボム」という魔法は火の魔石から魔力を利用して作り出したんですね」

「ええ、その通りよ。あの時は急いでいたから魔石の魔力を使い切ってしまったわ」

「ま、魔石を一回で使い切ったんですか!?」

「安物だから気にしてはいないわ」



さらりととんでもない発言をしたマリアにバルトは驚愕し、この世界における魔石は高級品で宝石と同程度の価値が存在すると言っても過言ではない。マリアは二人の試合の際に火属性の魔法を使用するためだけに魔石一つ分の魔力を使い切ったという。


バルトはマリアの魔石の使い方に驚いたが、マオとしてはむしろ魔石一つ分の魔力を一度に引き出して攻撃に利用したマリアの魔力操作の技術に驚きを隠せない。彼女は本来ならば適性がないはずの火属性の魔力を巧みに扱い、普通ならば使用する事もできない魔法を繰り出した事になる。



(やっぱり学園長は凄い……けど、どうして利き手じゃない方に魔術痕を刻んでるんだろう?)



魔拳士であるバルルは利き手に魔術痕を刻んでいるのに対してマリアの場合は明らかに利き手ではない方に左手に魔術痕を刻んでいた。以前にバルルは利き手とそうではない手では魔法(魔拳)を扱う際の感覚が異なるため、基本的に魔術師は利き手で魔法を発動させると聞いていた(マオも両手で魔法を扱えるが、彼の場合は両利きなので両手で魔法を扱える)。



「もしかして先生も両利きなんですか?」

「いえ、私は右利きよ」

「え?それならどうして左手に魔術痕を……」

「属性が異なると操る魔力の感覚も違うのよ。私の場合は右手は風属性の魔法を扱う時だけ、それ以外の属性の場合は左手で使うように心掛けているの」

「んんっ!?ど、どういう事ですか?」

「話せば少し長くなるのだけど……」



マリアは生まれた時から風属性の適性を持ち合わせ、魔法を扱う際は常に右手で使用していた。しかし、ある時に彼女は他の属性魔法を習得するために身体に魔術痕を刻む。


魔術痕を刻んだ事でマリアは魔石を利用して他の属性魔法も扱えるようになった。しかし、彼女は実は魔術痕を刻む前から左手でも風属性の魔法が扱えたという。



「実は私も子供の頃はマオ君ほどではないけど利き手ではない方の腕でも魔法を扱えたわ」

「そうなんですか?」

「流石は学園長……ん?子供の頃は?」



妙な言い回しをしたマリアにバルトは不思議に思うと、彼女は左手を眺めながら過去の出来事を思い返す。まだ彼女が10代だった頃、魔術痕を刻んでからしばらくした後に気付いた出来事を話す――






――魔術痕を刻んだ後、マリアは左手で火属性の魔法を扱う訓練を行う。最初の頃は悪戦苦闘していた彼女だったが、時が経過するにつれて少しずつではあるが火属性の魔力の扱い方を掴んできた。


しかし、火属性の魔法の感覚を掴み始めるのと同時に彼女は左手で何時の間にか風属性の魔法が上手く扱えないようになっていた。この時にマリアは風属性と火属性の魔力の操作法が異なる事に気付き、どうして利き手ではない方の腕に魔術痕を刻まれたのか理解する。


マリアに魔術痕を刻んだのは彼女の師匠であり、最初は彼女は利き手に魔術痕を刻もうとした。だが、師匠はそれを許さずに左手に魔術痕を刻む。理由は教えてくれなかったがどうやら師匠は属性ごとに魔法を扱う操作法が異なる事を知っていた様子だった。



『マリア、貴女は確かに私を越える魔法の才を持ちます。しかし、どれだけの才があろうと道を誤れば終わりなのです。何時の日か貴女が私の言葉を思い出す時がくるでしょう』



マリアに魔法の基礎を教えたのは彼女の母親であり、魔術痕を刻んでから一年経過した後にマリアは母親の言葉を理解した。もしも彼女が不用意に利き手に魔術痕を刻んでいた場合、彼女は風属性の魔法を扱う事ができなくなっていたかもしれない。だからこそ母親はマリアの利き手ではない方の左腕に魔術痕を刻み、彼女が利き手で魔法を扱えなくなる事態を避けた。


その後にマリアは左手で火属性の魔法を扱えるようになり、彼女は風と火の魔法を扱える事で戦略の幅が大きく広がった。マリアは母親のお陰で魔術師として成長した事を思い出し、無意識に笑みを浮かべる。

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