第218話 リオン王子
リオンはこの国の王族であり、彼には二人の兄が存在した。一番上の兄は聡明な人物で次期国王として周囲の人々からも期待されていた。国王も彼の事を信頼し、いずれはこの国を背負う人間だと誰もが思っていた。
しかし、第一王子はある時に病で死亡してしまう。第一王子が死んだ際に誰もが涙を流し、国王でさえも一時の間は政務がまともに執り行えない状態だった。だが、弟であるリオンは違った。彼は兄が死ぬ直前に約束を交わす。
『兄上!!しっかりして下さい!!』
『リオン……私はこれまでのようだ』
『そんなっ……約束したではないですか!!私に剣を教えると!!』
『……ああ、そうだったな』
アルトが病にかかった時は今よりもリオンは幼く、ベッドに横たわる彼に縋りつく。そんな弟にアルトは自分の剣を託した。
『リオン、お前にこの剣を受け取ってほしい』
『こ、この剣は兄上の……』
『我が国に代々伝わる家宝だ……お前ならばきっと使いこなせる』
『ですが兄上、この剣は……』
『お前に任せるぞ、弟よ』
剣をリオンに託すとアルトはそのまま息を引き取り、彼から王家に伝わる家宝の剣を受け取ったリオンはこの日に決意する。それは死んだ兄の代わりとして相応しい人物になると彼は心の中で誓った――
――昔の事を思い出しながらもリオンは廊下を歩いていると、玉座の間に繋がる通路に大勢の兵士が集まっている事に気付く。それを見たリオンの側近のジイは兵士達に声をかけた。
「お前達、そこで何をしている!!さっさと退かんか!!」
「こ、これはリオン王子!?それにジイ殿まで……お戻りになられていたのですね」
「ええい、いいからさっさと道を開けんか!!」
リオンに気付いた兵士達はその場に跪くと、ジイは彼等に早く退くように促す。しかし、そんな彼等の前に兵士達の中から一人の青年が現れた。
「おおっ!!誰かと思えばリオンじゃないか!!いつ城に戻ってきたんだ?」
「あ、貴方様は……!?」
「……ラギリ兄上」
兵士達の後ろから姿を現わしたのはリオンと少し顔立ちが似た青年であり、彼が現れると慌ててジイも跪く。一方でリオンは面倒くさそうな表情を浮かべ、そんな彼にラギリは親し気に肩に手を置く。
「お前が急に姿を消すから心配していたぞ。全く、今まで何処にいたんだ?」
「ご心配をかけて申し訳ございません」
「いやいや、こうしてお前が戻ってきただけでも嬉しいぞ」
ラギリは馴れ馴れしくリオンに肩を伸ばし、この時に彼は怪しい瞳を向けた。そんなラギリの態度にリオンは苛立ちを抱き、一番上の兄と違って二番目の兄は彼はどうしても好きになれなかった。
二人の雰囲気が怪しくなった事に兵士もジイも冷や汗を流し、昔からこの二人の仲が悪かった。表面上は親し気に接しているラギリも内心ではリオンを見下し、その証拠にラギリは他の人間には聞こえない声量で語り掛ける。
「あまり父上を困らせるなよ、側室の子の分際で……」
「……肝に銘じておきます」
リオンはアルトとラギリと違い、彼は国王と側室の子供だった。アルトは正妻との間に生まれた子だが、後に彼の母親は死亡して新しく正妻に選ばれた女性の子がラギリである。この国の王子たちはそれぞれが別々の母親の間に生まれ、ラギリは正妻の子である自分がこの国の継承者に相応しいと考えていた。
「これまでは子供のやる事だからと大目に見てきたが、お前はもうすぐ13才だ。いつまでも子供気分で自由に遊び回れると思うなよ」
「ラギリ王子!!リオン様は決して遊んでいたわけでは……うぐっ!?」
「家臣の分際で口を挟むな!!」
ラギリの言葉に流石に黙っていられなかったジイが口を挟もうとするが、そんな彼にラギリは平手打ちを行う。その彼の行為に兵士達は驚き、一方でリオンは彼を止めた。
「兄上、ジイは長年この国に仕える騎士です。どうかご容赦を……」
「ふんっ!!まあ、いいだろう……弟の顔に免じて許してやる」
「はっ……申し訳ございませんでした」
リオンに止められた事でラギリは仕方ない風にジイを許したが、ジイは謝罪を行いながらも内心では腸が煮えくりかえる思いをしていた。
(何が正妻の子だ……貴様の母親があくどい手を使って正妻になっただけではないか!!)
現在の国王の正妻であるラギリの母親は前の正妻が死亡した後、あらゆる手を使って彼女は正妻となった。本来であればリオンの母親が正妻に選ばれてもおかしくはなかったが、ラギリはリオンの母親を脅して正妻の地位を辞退させた。
アルトが生きている間はラギリは大人しかったが、彼が病死した途端に自分こそが王位に就く人間に相応しいと思い込み、尊大な態度を取るようになった。また、あくまでも噂だがアルトが急に病に侵された原因はラギリの母親が関係しているのではないかと囁かれている。
実際にアルトの死には色々と謎が多く、アルトの母親が亡くなった際にラギリは彼に親身に接していたが、その行動も実に怪しかった。もしかしたら母親を失って傷心中のアルトに近付き、彼に毒を盛ったのではないかと疑う人間も多い。しかし、ラギリの母親がアルトを殺した証拠は見つからなかった。
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