第217話 退院

――後日、バルルが無事に退院するとマオとミイナはバルトと共にいつもの教室で待機する。退院した当日にバルルは教師として復帰し、彼女が戻ってくるとマオ達は正直にこれまでの経緯を話す。


バルルは自分が書きこ残した言い付けを破ってマオとミイナが仇討ちをしようとした事を知り、危うく犯人に殺されかけたと聞いて黙り込む。マオとミイナはバルルの前で正座すると、冒険者狩りから回収した「魔杖」を差し出す。



「師匠、本当にすいませんでした」

「ごめんなさい」

「ま、まあ……こいつらも反省してるし、あんまり怒らないでくださいよ」

「…………」



話を聞き終えたバルルは黙り込み、3人を見つめたまま何も話そうとはしない。そんな彼女の態度が逆に不気味で怖く、いつものバルルならば怒鳴り散らしている所だった。



「あの、師匠?」

「はあっ……まあ、あんた達ならあたしの言う事を聞かずに動くことは薄々勘付いていたけどね。でも、もっと早くに言って欲しかったよ」

「す、すいません……入院中に余計な心配事を掛けさせたくなくて」

「たくっ、そういう所で変に気を回すんじゃないよ。まあいい、言いたい事は色々あるけど問題なのはこっちだよ」



困った表情でバルルはマオが回収した魔杖に視線を向け、これをどのように扱うべきか悩む。彼女は一目見ただけでこれがただの杖ではない事を見抜き、扱いに困ってしまう。



「こいつが冒険者狩りが使用していたという杖だね?効果は魔力を吸い上げる事で通常以上の魔法を発揮する、だったかい?」

「はい、試しに使ってみたらいつもよりも大きな氷塊を作り出せました」

「俺が使った時は魔力を吸収されて上手く扱えなかったけどな……」

「なるほどね、しかしこんな物を持ち返るなんて……あんたら、やらかしてくれたね」

「あの時は焦って冷静に考えられなかった」



犯人から奪った杖を持ち返ってきてしまった事はマオもミイナも後に後悔し、もしも今になって魔杖を警備兵に渡せば色々と問題になる。冒険者狩りが死亡したのは彼女自身が自害した結果だが、その場に存在したマオ達は止められなかった。


しかし、もしもマオ達が逃げずに現場に残っていれば警備兵に連行され、事情聴取を行われただろう。故意にではないとはいえ、冒険者狩りが死んだ理由はマオに敗れたからでもある。その場合はマオは色々と取り調べを受ける羽目になり、しかも魔法学園から抜け出した事が知られてしまう。



「警備兵に捕まらなかったのは幸いだけど、この杖を持ち返ったのは大問題だね。今更これを渡せばあんた達の仕業だと判明するし……本当にまいったよ」

「なら私達が偶然拾った事にして警備兵に届ければいい」

「馬鹿を言うんじゃないよ、あれから三週間も経っているんだろう?もしもこの杖の事を誰かに知られたら怪しまれるよ。それに恐らくはこの杖は盗賊ギルドが関係しているだろうからね、奴等もきっと探し回ってるよ」



バルルは冒険者狩りが盗賊ギルドの人間であり、そんな彼女が所有していた魔杖を盗賊ギルドが放置するはずがないと判断する。こちらの魔杖は魔術師にとっては大変に価値のある代物であるため、盗賊ギルドが諦めるわけがない。



「この魔杖はとりあえずはあたしが預かっておくよ。機会が会ったら先生に話を伝えておく」

「す、すいません……」

「ありがとう」

「良かったな、お前等。叱られなくて……」

「何言ってんだい、お説教はここからだよ!!あんたらは罰として一週間は放課後学校内の清掃をするんだよ!!」

『ええ~っ!?』



バルルは最後に3人に罰を与えると、彼女は魔杖を懐にしまって立ち去ろうとした。しかし、この時に彼女は魔杖の変化には気づいていなかった。彼女が手にした途端に魔石は光を失っている事を――






――同時刻、王都の王城では一人の少年が城内の一室に居た。彼は部屋の中に飾られている肖像画に視線を向け、黙ったまま肖像画の人物を見つめ続ける。



「…………」



少年が視線を向ける肖像画は彼とよく似た容姿の青年が描かれており、その青年が腰に差している剣は少年が身に付けている剣と同じ代物だった。そんな彼の後ろから老人の騎士が声をかける。



「リオン様、国王陛下がお待ちです。そろそろ参りましょう」

「……ああ、そうだな」



声を掛けられたリオンは振り返ると、彼は立派な衣服をまとっていた。マオと初めて遭遇した時と違い、現在の彼は肖像画の青年と同じくこの国のに相応しい恰好をしていた。




――リオンの本名は「リオン・ソウド」この国の第三王子で王位継承権を持つ王族だった。彼が眺めていた肖像画の人物の正体は第一王子である「アルト・ソウド」であり、本来であればこの国の王となるはずだった人物である。

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