第216話 疑心暗鬼
『リク、お前の失態だ。どう責任を取る?』
『シチを殺した犯人はもう見つけたのだろうな』
『……まだだ』
『おいおい、そりゃないだろ。相棒が殺されたのに犯人すら見つかっていないのか?』
予想通りにシチが死亡した事の責任を追及されたのはリクだった。彼はシチと協力関係を築いていたため、彼女が死んだとなれば一番に責任を問われるのはリクである。
他の七影はこの機会にリクを責め立てると、彼は内心では怒りを抱きながらも表面上は冷静さを保つ。ここで感情を爆発させるわけにはいかず、あくまでも冷静に話を続ける。
『シチを殺害した相手は必ず俺が見つけ出す。だが、一番の問題はシチが殺された事ではない』
『何が問題なんだ?』
『シチが所有していた杖が奪われた……現在も見つかっていない』
『魔杖か……』
魔杖が奪われた話をすると他の七影も黙り込み、シチが所有していた魔杖の価値はこの場の誰もが知っている。彼女が暗殺者として何十年も正体を晒さずに生きる事ができたのはあの魔杖のお陰である事は誰もが知っていた。
『リクよ……魔杖を奪ったのはシチを殺した人間で間違いはないのか?』
『あ、ああ……警備兵の報告書によれば現場には魔杖は残っていなかったらしい。だが、魔法が使用された痕跡は残っていた』
『それはシチが魔法を使ったという事か?』
『いや、シチだけではない。現場には壁や地面の一部が凍っていたらしい』
『凍っていただと?』
シチの死体が発見された路地裏では彼女の魔法以外に何者かが魔法を使用した痕跡が残され、恐らくだが「氷」の魔法を扱う魔術師が現場に存在したと考えられる。また、シチの傍には情報屋の男の死体も倒れていた。
『シチは自分の事を嗅ぎまわる情報屋を始末するために出向いた。しかし、その途中で恐らくは魔術師と交戦し、逆に返り討ちにされた』
『とても信じられんな。魔杖を持つシチが一方的に殺されたというのか?』
『いや、魔術師とは限らん。魔拳士の可能性もあるだろう』
『もしくは特別な魔道具を所持していたか……少なくともシチを殺せるだけの実力を持っているという事か』
魔術師かあるいは魔拳士にシチが殺されたと聞いて七影に動揺が走り、リクも彼等と同じ気持ちだった。魔杖を持つシチが簡単に敗れるとは思えないが、現実に彼女は殺されている。
何者がシチを殺したのかは判明しておらず、現場を調べた兵士でさえもシチを死に追いやった犯人の行方は掴めなかった。しかし、どんな手を使ってもリクはシチを殺した犯人を見つけ出し、報復しなければ彼に未来はない。
『リク、シチを殺した犯人を見つけ出して魔杖を奪い帰せ。もしもあれが他の魔術師の手に渡れば大変な事になる』
『ああ、分かっている』
『必ず犯人を探し出して我等の前に首を持ってこい。最悪でもあの魔杖だけでも回収しろ』
『それができなければ……お前はもう我々にとっては不要な存在だ』
一方的に言いつけるとリク以外の七影は席から立ち上がり、暗闇の中へと姿を消す。残されたリクは悔し気な表情と冷や汗を流し、すぐに彼は自分の管理する酒場へと戻る――
――酒場へ戻ったリクはすぐに自分の配下を集めると、シチを殺した犯人の手掛かりを掴むために調査を命じた。彼は何としても犯人を殺し、魔杖を奪い返さなければ未来はない。
「いいか、どんな手を使ってもシチを殺した犯人を見つけ出せ!!見つけ出した者には望んだ額の報酬を渡す!!」
『はっ!!』
命令を受けた配下は即座に行動を開始すると、彼等が出て要った後にリクはこれまでの情報をまとめる。シチが死亡する前の行動を羊皮紙に書き込み、彼女が殺し損ねたという「バルル」という魔法学園の教師に注目した。
(あのシチが獲物を殺し損ねるなど信じられん。この女に何か秘密があるのか……そういえばこの女を殺すように頼んだのは奴だったな)
少し前にリクはバルルに暗殺を依頼したタンという教師も魔法学園に勤めていた事を思い出し、彼を利用してリクは魔法学園の内部情報を得ようとした。しかし、結果から言えば掴んだ情報は偽物でしかもシチを殺される事態になった。
今回の一連の出来事がただの偶然とは思えず、リクは自分とシチが嵌められたのではないかと考えた。もしも最初から罠に嵌められていた場合、リクは罠にかけた人物は一人しか心当たりがない。
「おのれ……あの女の仕業か」
リクは魔法学園の学園長の顔を思い浮かべ、盗賊ギルドにとって彼女はこの国の国王よりも厄介で恐ろしい存在だった。
「……必ず仇は討つぞ」
死んだシチの事を思い浮かべながらリクは酒をグラスに注ぎ、一気に飲み込む。リクにとってはシチはただの仕事仲間などではなく、自分を七影に取り立ててくれた恩人でもあった。不愛想ではあるが決して仕事は手を抜かず、そして仲間を売るような人物ではなかった。そんな彼女のためにリクは復讐を誓う。
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