第214話 魔杖の効果

――バルトから魔杖の存在を教わったマオ達はとりあえずはバルルに相談する事を決めたが、現在の彼女は入院中なので気軽に会う事はできない。学園長に相談するという手もあったが、学校に戻って来た時に学園長は用事があると言っていたので結局はマオが魔杖を管理する事になった。


その日の夜にマオは魔杖に視線を向け、バルトから聞いた話を思い出す。この魔杖は風属性の魔法の使い手が扱おうとすれば魔力を強制的に吸い上げ、通常以上の魔法効果を発揮する。逆に言えば風属性の適性を持つ人間以外には扱えないはずだった。



「魔杖か……そんな物もあるんだな」



魔杖を手にしたマオは触れた感じでは普通の杖と大差はないように思えるが、バルトによれば魔法を使おうとした瞬間に吸魔石や吸魔腕輪のように魔力を強制的に吸い上げるらしい。



「風属性の使い手から魔力を吸い上げるか……僕には反応しないのかな?」



風属性の適性を持つバルトには魔杖は反応したが、風属性と水属性の両方の性質を併せ持つ氷属性のマオの場合、魔法を使えばどう反応するのか彼は気になった。学園長によればマオはエルフの血を継いでいるので風属性の適性寄りらしいが、彼は試しに魔法を使おうとする。



アイス



杖を握りしめた状態でマオは魔法を唱えると、最初の内は魔杖は何も反応は示さなかった。その事からマオは自分には魔杖が扱えないのかと思ったが、異変が発生したのは数秒後の出来事だった。



「ん?何だ?」



マオが杖を握りしめた状態でいると、唐突に杖先が光り輝く。それを見たマオは驚いて杖の先端に埋め込まれている四つの極小の魔石に視線を向けると、いつの間にか色合いが緑色から青色に変化していた。


魔石の色合いの変化に驚いたマオは戸惑い、先ほどまでは確かに魔杖に取り付けられていた魔石は「風属性」だった。しかし、マオが魔法を唱えた途端に色合いが変化し、まるで水属性の魔石に変化したように見える。



「色が変わった?まさか、風属性から水属性の魔石に……いや、何か違う気がする」



色が変色した魔石を見てマオは違和感を抱き、彼は三又の杖を取り出す。マオが扱う三又の杖には水属性と風属性の魔石が嵌め込まれており、マオは二つの杖を並べてみ比べると魔石の色合いが微妙に異なる事に気付く。



「水属性の魔石はだけど、こっちの杖はだ。どうなってるんだ?」



些細な違いではあるが魔杖に搭載された魔石の色合いは水色というよりも青色と表現した方が正しく、三又の杖に取り付けられている魔石よりも色合いが濃い。魔石は魔力量に応じて色が薄くなる事はあるが、それでも魔杖の方の魔石は水属性の魔石とは異なる事が分かった。



「これってもしかして……僕の言葉に反応して魔石の性質が変化した。いや、そんな馬鹿な……」



マオが魔法を唱えた瞬間に魔杖に搭載された魔石が変化したようにしか思えず、試しにこの状態で魔法をもう一度使う事にした。しかし、部屋の中で魔法を使うと大変な事態に陥るかもしれず、マオは場所を変えて試す事にした――






――氷板スノボを利用してマオは夜の学校の屋上へと移動すると、誰にも気づかれずに訓練場に降り立つ。冒険者狩りの一件が解決した事で夜間の見回りもなくなり、誰にも邪魔されずにマオは訓練する事ができた。



「よし、試してみるか……」



魔杖を手にしたマオは事前に用意した「氷人形」を置く。こちらはマオが三又の杖を利用して生成した氷塊を合体させて作り出した人形であり、外見は赤毛熊を参考にしている。


赤毛熊の氷像を練習台に見立ててマオは魔杖を構えると、緊張しながらも魔法を放つ準備を行う。バルトの話では魔法を使おうとした瞬間に凄まじい勢いで魔力が吸引されるらしく、魔力操作が未熟な魔術師では到底扱えない代物だと聞いている。



(大丈夫、今まで練習してきたんだ。きっとできる!!)



魔力操作の技術の鍛錬は毎日欠かさずに行っており、今のマオの技術力は魔法学園の上級生どころか教師にも劣っていない。自分ならばできると信じてマオは魔杖を扱う。



アイス!!」



魔法名を告げた瞬間、魔杖の先端に取り付けられた極小の四つの魔石が光り輝いて「十字」の形をした氷塊が誕生した。三又の杖で造り出す氷塊よりも大きく、しかも凄まじい勢いで氷塊は氷像に衝突した。


三つの氷塊を結合させて作り上げた赤毛熊の氷像は魔杖が作り出した氷塊に衝突した瞬間、粉々に砕け散ってしまう。その光景を見たマオは唖然とするが、手にした魔杖を見てマオは一言呟く。



「使え……た?」



魔杖を使用する事に成功したマオだったが、彼が一番に驚いたのは魔法を使う際に吸引されるはずの魔力を無駄に吸い込まれる事を阻止できた事だった。確かに三又の杖で普通に魔法を使うよりは魔力を吸収されたが、それでも想像以上に魔力の消費量は抑えられていた。


これまでの鍛錬のお陰でマオは魔杖から余分な魔力を吸い込まれないように制御し、必要な分だけの魔力を与えて魔法を発動させる事に成功する。彼の努力は無駄ではなく、バルトでさえも扱う事ができない魔杖をマオは扱えう事ができた――

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