第213話 魔杖

「スラッ……うあっ!?」

「先輩!?」

「……どうしたの?」



バルトは魔法を使おうとした瞬間に声を上げ、マオとミイナが何事か起きたのかと心配する。バルトは杖を落として腕を抑え、冷や汗を流しながら床に落とした杖を見下ろす。



「な、何だこれは……俺の魔力を無理やり奪い取ろうとしやがった」

「ど、どういう意味ですか?」

「魔法を使おうとした瞬間、まるで吸魔石みたいに魔力を吸い上げようとしやがった。しかも吸引力が半端じゃねえ……もしも魔力操作の技術が碌に使えない奴が扱っていた大変な事になっていたぞ」



恐る恐るバルトは杖を拾い上げると、不用意に魔法を使用しないように注意した。この杖はただの杖ではなく、所有者が魔法を使おうとした瞬間に強制的に魔力を吸い上げるらしい。


普通の杖も魔力を吸い上げる事で魔法を発現させるが、マオが回収した杖は魔力の吸引力が桁違いであり、魔力操作の技術が未熟な人間が扱えば根こそぎ魔力を奪われてしまう危険性があった。魔法学園の中でも指折りの風属性の魔法の使い手であるバルトだからこそ咄嗟に危険を察して杖を手放したが、もしも彼でなければ今頃は大変な事になっていた。



「こいつの正体……分かったぞ、これは魔杖だな」

「魔……杖?」

「何それ?」

「俺も見るのも触るのは初めてだが、前に授業で聞いた事がある。魔術師が扱う杖の中には所有者の負担をかける一方で強力な効果を発揮する杖があるってな……それらの杖は魔杖と呼ばれているんだ」



バルトは三年生の授業の中で「魔杖」と呼ばれる特殊な杖がある事を学んだことがあった。魔杖は従来の杖とは違い、使用者に大きな負担を与える。その反面に普通の杖よりも強力な魔法を生み出せるらしく、マオ達の回収した魔杖は風属性の魔力を吸い上げる事で真の効果を発揮する。



「こいつは多分、通常以上の魔力を吸い上げる事で二回分の魔法を繰り出せる仕組みになっている。その冒険者狩りとやらがスラッシュを同時に二回も撃ちこめたのはこの杖のお陰だな」

「でも、マオの杖も二つの魔法を繰り出せる。効果は同じじゃないの?」

「いや、この杖は単純に魔法を二回分放つだけじゃなくて合体させた状態で撃ち込むんだろ?単純に考えれば威力が二倍にもなるんだ。坊主の杖とは効果が少し違う」

「な、なるほど……」



マオがかつて使用していた二又の杖は魔法を同時に二つ発動する事ができたが、こちらの魔杖は二つの魔法を組み合わせた状態で撃ちこめるため、正確には二つの魔法を合体させて打ち込める。


魔法を合体させる事はマオもできるが、彼の場合は氷塊同士を結合させているだけに過ぎず、実際の所は強度はそれほど変わりはない。しかし、この魔杖の場合は文字通りに二つの魔法を合成させる事で威力も効果も2倍に跳ね上がっているらしい。



「この魔杖はちょいと危険過ぎるな。効果は凄いだろうが、その分に負担もでかい……こいつはさっさと処分するか、それか先生方に渡すしかないな」

「でも、それを話したら私達が冒険者狩りと戦った事がバレる」

「そうなると師匠も凄く怒るだろうな……」



魔杖の存在はバルル達に打ち明けるべきかマオ達は悩み、真実を話すとなるとバルルに叱られる事は明白だった。だが、こんな危険な魔杖を黙っておくわけにもいかず、バルルと次に会う時にマオ達は報告する事にした――






――同時刻、病室にてバルルは白銀に光り輝く魔法腕輪を見つめていた。この魔法腕輪はバルルが冒険者時代に購入した代物であり、白銀冒険者になったときにドルトンに製作してもらった代物である。



「……まさか、こいつを取り出す日が来るとはね」



バルルは自分の右腕に視線を向けると、彼女は意識を集中させる。しかし、右腕に刻まれたはずの魔術痕が浮き上がる事はなく、彼女はため息を吐き出す。


奇跡的に右腕は繋がったが、一時的にとはいえ腕が切り離されたせいか魔術痕が完全に効力を失ってしまった。魔術痕の効果が消えた以上はもうバルルは自力では魔法は発動できず、かつてのように魔法腕輪を使用しなければならない。



「ただの記念品のつもりだったのにね」



彼女が最初に白銀級冒険者に昇格した際、仲間達がバルルのために白銀製の魔法腕輪を用意してくれた。魔術痕がある彼女にとっては魔法腕輪など不要だったのだが、装飾品としての価値もあるので仲間達はバルルに腕輪を渡した。彼女にとっては思い出深い代物だが、背に腹は代えられない。



「あの程度の相手に苦戦するなんてあたしも腕が鈍ったね……弟子達の面倒だけじゃなくて、自分自身も鍛え直さないとね」



もう二度と弟子達に心配をかけないようにバルルは強くなることを誓い、彼女は鈍った勘を取り戻すために病み上がりの状態にも関わらずに鍛錬を開始した。





※治癒魔導士「安静にしてろと言ったのに……」壁|д゚)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る