第198話 移動法
――本日分の授業を終えた後、マオは学生寮の自分の部屋に戻ると他の人間に見られないように窓のカーテンを閉めて扉にも鍵を掛ける。準備を整えるとマオは小杖を取り出してまずは氷塊を作り出す。
「よし、大きさはこれくらいで十分だな……」
1メートル程の大きさの氷塊を作り出すとマオはその上に乗り込み、座禅を行いながら集中する。自分の作り出した魔法の氷の上に乗る事は初めてではないが、今回はこの状態から氷塊を動かす事に集中した。
前にも氷塊に乗り込んだ状態で操作した事はあったが、予想以上に操作が難しくて精神的な負担が大きかった。しかし、この数か月の間にマオは精神鍛錬の修行を行い、以前よりも魔力操作の技術と魔力を回復させる術を身に付けていた。
(今の僕ならきっとできるはず……)
氷の円盤に乗り込んだ状態でマオは意識を集中させ、氷塊を浮上させようとした。盗賊を捕まえた時のマオだったならば大した速度は出せなかったが、以前よりも技術を磨かれたお陰で氷塊は格段に速度を増して動かす事ができた。
「あいたぁっ!?」
軽く浮上するつもりが勢いあまってマオは天井に頭をぶつけてしまい、痛みのせいで危うく氷塊の円盤の操作が疎かになって落ちかけてしまう。しかし、どうにか頭を抑えながらもマオは氷塊を操作すると、驚いた様子で天井を見上げる。
(やった、前よりも移動速度が上がってる……けど、あんまり早く動かしすぎると堕ちそうだな)
氷という性質上、表面は滑りやすいので氷塊を動かす際に転落する危険性があった。以前にマオが氷塊を足場に利用した移動法を試した時も滑って転んだ事を思い出す。
(ただ氷の上に乗るだけだと危ない。滑らないように足元を固定する事ができれば……)
考えた末にマオは自分が乗り込む氷塊の形を変え、彼が思いついたのは両足の部分を固定するわっかを作り出す。氷塊の円盤に立つ際にマオは続けて二つの氷塊を作り出し、それを半分に割ったわっかのような形に変形させ、自分の足元に移動させて氷塊同士を合体させる。
円盤の上に立ったマオの足元にわっかの形にした氷塊が結合した事で足元を固定させる事に成功した。わっかの部分に両脚を嵌めた事で安定性が増し、これならば余程の速度を出さない限りは振り落とされる心配はない。
「おっとと……よし、これなら大丈夫そうだ」
足元を固定した事で円盤を操作しても落下の危険性はなくなり、あとは氷塊を操作する時にバランスを保つ練習を行う。氷塊に乗り込んだ状態での移動はかなり集中力を必要とするため、長時間の飛行はできない。それでも数か月前と比べれば移動速度も安定性も増した。
(この調子で練習すれば防壁もすぐに飛び越えられる……頑張るぞ!!)
それからしばらくの間はマオは部屋の中で氷塊の浮上と降下の練習を行い、コツを掴むまでは彼は練習に没頭した――
――それからさらに数日後、マオはミイナに脱出の準備を整えた事を話す。彼女はマオの言葉を信じて今夜のうちに学園を脱出し、まずはバルルに傷を負わせた犯人の手掛かりを掴む方法を考える。
「闇雲に探しても犯人が見つかるとは思えない。それに子供の私達が外を出歩いているだけでも怪しまれると思う」
「それならどうしたらいいの?」
「……出来る限り目立たないようにこっそりと移動する」
「まあ、それしかないよね……」
ミイナの言葉にマオは頭を悩ませ、明るい時間帯は二人とも授業があるので抜け出す事はできない。しかし、夜に抜け出す場合も子供の二人が城下町を探索するだけでも目立ってしまう。
城下町の方も現在は警備が厳しく、子供が夜に出歩いてる姿を警備兵に見られたら間違いなく補導されてしまう。しかし、夜以外の時間帯に学園の外を抜け出す事は難しく、どうにか警備兵に見つからないように行動しなければならない。
「前の時みたいに建物の屋根を飛び越える必要があるかもしれない。私だけなら逃げ切れる自信はあるけど、マオは大丈夫?」
「う、う〜ん……自信はないかな」
賞金首の捜索の時のように建物を跳び回る方法は人間のマオの場合は魔法の力を頼らなければならない。しかし、その方法だと魔法を多用する事になるので魔力の消費が激しい。だが、この数か月の間にマオも成長しており、他に方法もないのでミイナの提案に乗る。
「……他に方法もないし、頑張るよ」
「分かった、いざという時は私がマオを守る」
「大丈夫だって……でも、そうだな。僕達だけだと探すのは難しいかもしれない」
闇雲に探しても犯人が見つかるとは思えず、どうにかマオは犯人の足取りを掴む方法がないのかを考える。城下町の知り合いはギルドマスターのランファは居るが、流石に彼女もバルルの弟子だと言っても子供の二人に情報を提供するはずがない。
他に知り合いがいるとすればバルルとは昔から付き合いがある冒険者のトム達だが、ランファと同様に彼等の力を借りるのは難しいと思われる。自分達を子供扱いする相手に下手に相談するわけにもいかず、他に心当たりがないかとマオは考えた時、不意に彼は自分の三又の杖を見てある人物の顔を思い浮かべる。
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