第199話 生徒会の見回り

「そうだ、ドルトンさんに協力して貰うのはどうかな?」

「ドルトン?あの鍛冶師のおじさん?」

「他に手を貸してくれそうな知り合いはいないし……」

「でも、もしも断られたらどうするの?」

「その時は……その時だよ」



城下町でマオ達に協力してくれそうな人間は最早ドルトンしか残っておらず、彼に協力を拒まれた場合は二人だけで犯人を探すしかない。もしかしたらドルトンが魔法学園に二人が外に抜け出した事を伝える可能性もあるが、それでもマオ達は諦めるわけにはいかない。


ドルトンが協力してくれることを祈ってマオとミイナは今夜のうちに脱出する事を計画する。夜を迎えればミイナが女子寮から抜け出し、男子寮のマオを迎えに行く事が決まる。脱出する時は二人一緒でなければならず、その点はミイナは何度も脱出の経験があるために心強い味方だった。



「夜になったらマオの所に迎えに行く。それまではマオはゆっくりと休んでて」

「分かった。けど、ミイナは平気なの?」

「大丈夫、授業中にたくさん昼寝したから眠くない」

「それはそれでどうかと思うけど……」



どうやら二年生の授業に混ざってもミイナは昼寝で真面目に受けていなかったらしく、やはり彼女に教育指導を行えるのはバルルだけらしい。彼女は学園長と何かしらの関係があるらしく、バルル以外の教師はあまり彼女に強く出られない。



(こうして考えるとミイナも謎が多いな……学園長とどんな関係なんだろう?)



今更ながらにマオはミイナと学園長の関係は気になったが、その話は今度にして今夜の脱出計画を話し合う――






――脱出計画の相談を終えると、マオは学生寮に戻って準備を行う。今回は魔法学園の生徒だと気付かれないように私服に着替え、ついでに姿を隠した目にアルルから受け取った赤毛熊のマントと、万が一の場合に備えて二つの小杖も携帯しておく。


三又の杖を奪われる場合を想定して予備の武器を用意しておき、他に用意するべき物は仮面だった。脱出の際に正体が気づかれないようにミイナからお手製の仮面を渡され、マオは犬の顔を模した仮面を手に取る。



「こんなので上手く誤魔化せるかな……まあ、仕方ないか」



装備を身に付けたマオは仮面を頭に被せ、脱出の際は仮面を被って顔を隠す。あとはミイナが迎えに来るのを待つが、約束の時間を迎えても彼女は訪れない。



(おかしいな、まだかな?)



ミイナが時間を迎えても訪れない事にマオは不安を抱くが、彼はカーテンの隙間から外の様子を伺う。昼間の話し合いではミイナは学生寮に忍び込み、マオの部屋まで迎えに来る約束をしていた。しかし、窓から外を覗いてもミイナの姿は見当たらない。


彼女に何かあったのかとマオは不安を抱くと、外の方から足音が鳴り響く。ミイナがやって来たのかと思ったが、それにしては足音の数が多い事に気付く。



(何だ?)



カーテンの隙間からマオは学生寮の裏庭の様子を伺うと、そこには「猫の仮面」を被った少女が走ってきた。その仮面を一目見ただけでマオは少女の正体がミイナだと知り、すぐに窓を開けて声をかける。



「ミイ……うわっ!?」

「早く出て!!」



ミイナはマオに気付くと彼の腕を掴んで無理やりに窓から引っ張り出し、急いで窓を閉めて彼の腕を掴んで駆け抜ける。ミイナの行動にマオは戸惑うが、直後に二人の背後から強い光が放たれる。



「見つけました!!あそこです!!」

「副会長!!もう一人誰かいます!!」

「仲間か!?」



後方から聞こえてきた声にマオは背筋が凍り付き、彼は振り返るとそこにはマオ達よりも上級生の生徒が数名追いかけていた。その先頭を走るのは生徒会の副会長を任され、学園長の信頼も厚いリンダと呼ばれる生徒である事を知る。


リンダはマオの顔見知りでもあり、彼女は腕利きの魔拳士である事も知っている。そんなリンダが数名の生徒を率いて連れている事を知ったマオは事情を察した。



(ミイナ、もしかして見つかったの!?)

(生徒会の見回りしているのは知らなかった……ごめん)



女子寮から抜け出す際にミイナは生徒会の人間に見つかってしまい、ここまで逃げてきた事を話す。夜の見回りは教師だけではなく、生徒会の生徒も行っていた事は彼女も初耳だった。



(ど、どうするの!?)

(とりあえず、生徒会から逃げ切らないと脱出もできない。どうにか振り切るしかないけど……マオは付いてこれる?)

(……が、頑張るよ!!)



まずは生徒会の生徒を振り切らなければ脱出は結構できず、正体が気づかれないように二人は気をつけながら逃走する。しかし、そんな二人に対して生徒会の生徒達は容赦なく攻撃を仕掛けてきた。



「副会長!!魔法の許可を下さい!!」

「このままだと逃げられます!!」

「……仕方ありませんね、ですが大怪我をさせてはいけませんよ」

『了解!!』



副会長であるリンダが許可を与えると、追跡していた生徒達は杖と魔法腕輪を装着した。それを見たマオは相手が魔法を使うつもりだと察し、ミイナはマオに注意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る