第197話 仇討ちのために

「私だけならともかく、マオが魔法学園を抜け出すのは難しいと思う」

「うっ……やっぱりそうなのかな」



昼休みにてマオは屋上でミイナから学園を脱出する方法を問うが、彼女によればマオ一人では学園の外に脱出するのは難しいらしい。少し前までならば外に出る事も難しくなかったが、今は事情があって学生寮で暮らす生徒は無暗に外に抜け出す事ができない。


冒険者狩りの一件で現在の王都は警戒態勢に入っており、腕利きの冒険者を殺害するような凶悪犯が城下町に潜んでいる可能性がある以上、生徒の安全のために現在の魔法学園は生徒の外出を禁じている。これまでは生徒は休日の時は自由に外に出る事ができたが、学園長の判断で現在は外への出入りが禁じられた。


学園を出るには自力で脱出するしかなく、マオはかつてバルルから逃げるために学園の外にまで抜け出したミイナから脱出方法がないのかを尋ねた。しかし、ミイナによれば彼女の脱出方法は身体能力が優れている獣人族でなければ真似できないらしい。



「私の場合は防壁を乗り越えて外に脱出してるけど、人間のマオが真似するのは無理だと思う」

「頑張れば何とか……」

「無理」



魔法学園は防壁に取り囲まれており、獣人族であるミイナは自力で壁をよじ登って学校を脱出してきたらしい。彼女の場合は人間離れした身軽さと建物の屋根の上を跳び回る跳躍力を誇り、そんな彼女だからこそ防壁を乗り越える事ができるという。


人間のマオではいくら身体を鍛えても獣人族のように動き回る事はできず、ミイナの扱う脱出方法では外に抜け出す事はできない。しかし、何としても外にでなければならないマオは他の脱出方法を考える。



「僕の氷塊で空中に足場を作って、それを利用して防壁を乗り越えるのはどうかな?」

「できなくはないと思う。でも、それだと時間が掛かり過ぎる。見回りの教師に見つかる可能性もある」



マオはかつて空中に固定した氷塊を足場にして建物の屋根の上を跳び移った事もあり、氷塊を利用すれば防壁を越える事もできなくはない。しかし、その方法だと彼が防壁を乗り越えるまでにどれだけ時間が掛かるか分からない。


脱出を行うとすれば夜の時間帯になるが、夜間の間も学園は教師が見回りを行う。学生寮からこっそり抜け出したとしてもマオ達が防壁を乗り越える場合、他の教師に見つからないように迅速に行動しなければならなかった。



(先生に見つかる前に防壁を乗り越えて脱出する方法を考えないと……)



何としても師匠バルルの仇を討つため、マオは確実に学園の外を脱出する方法を考える――






――学園を脱出する方法を見つけるまでの間はマオは表向きは真面目な生徒として振舞い、教師から怪しまれないように真面目に勉学に励む。この際に他の生徒と交流する事もあった。



「うわぁっ!?ほ、本当に乗れたぞ!!」

「凄い凄い!!」

「こ、こら!!何をやってるんだお前達!!」

「あ、先生……」



教室の中で一年生の生徒達はマオに群がり、彼が作り出したアイスの魔法に興味津々だった。空中に固定した氷の円盤に触れたり、生徒の中には円盤に乗り込む者もいた。



「マカセ先生、これ見てよ!!こんな事をしても平気だよ!!」

「ば、馬鹿!!そんなところで飛び回るんじゃない!!危ないだろう!?マオ君もすぐに辞めるんだ!!」

「あ、はい……すいません」



一年生の生徒は教室の中でマオが作り出した氷塊の円盤を足場にして飛び回り、それを見たマカセは慌てて引き留める。教師に注意されたマオは魔法を解除するが、この時に彼は他の一年生が自分の氷塊の上を跳び回っても問題ない事を確認する。



(空中に固定した氷塊なら足場に利用できる。でも、問題はあの高い防壁を乗り越えるまでどれくらいの時間が掛かるか……途中で足を滑らせたら大変な事になるし、もっと他に良い方法はないかな?)



氷塊を足場にして防壁を飛び越える方法は色々と危険性リスクも高く、もっと安全で確実に防壁を乗り越えられる方法をマオは考えた。


学園の何処かから長いロープのような物を調達し、それを氷塊に括り付けて防壁の頂点部まで氷塊を移動させる事でロープを伝って壁を登る方法をマオは思いついた。しかし、この方法だと相当な長さのローブを用意する必要があり、それにロープを使って壁を登るにしてもかなり体力を必要とする。ましてや時間を掛けずに壁を登り切れるのかと言うと自信はない。



(道具を使って登るのは無理そうだな。となると、頼れるのはやっぱりこれだけか……)



自分の作り出した氷塊にマオは視線を向け、魔術師である自分が最後に頼れるのは魔法だけであると再認識する。杖を手にするだけで彼はどんな氷を生み出す事もできるため、不用意に脱出の証拠になるような道具を扱う必要性はない。



(氷を足場にするだけじゃ駄目だ。それなら……あれしかないか)



マオは考えた末に数か月前の自分ではどうする事もできなかった方法を試す事にした。以前に賞金首の盗賊を捕まえる際、マオは氷塊を利用した移動法をもう一度試す事にした。

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