第194話 バルルの思い出
――バルルがまだ白銀級冒険者だった頃、彼女の傍には3人の冒険者が常に居た。彼等はバルルと同期の冒険者であり、一緒に黄金冒険者を目指す大切な仲間達だった。
最初の頃は6人の仲間がいたが、銅級冒険者になった時に仲間を一人失い、更に銀級冒険者に昇格した後に仲間の一人が引退した。引退の理由は魔物との戦闘で片腕を失い、もう冒険者活動は続けられないという理由で冒険者集団を去った。
残された仲間達と共にバルルは黄金級冒険者を目指し、もう誰一人欠ける事なく全員で黄金冒険者になる事を誓う。彼女の夢は自分が黄金冒険者になる事ではなく、仲間達と共に全員で黄金冒険者になる事が夢だった。
『あんたら、あたしよりも先に死んだら許さないからね!!』
『はっ、お前の方こそ勝手にくたばったらぶっ殺すぞ!!』
『おいおい、飲み過ぎだぞお前等……』
『別にいいんじゃない?こんな日ぐらい、好きに飲ませてあげましょうよ』
バルルの仲間は彼女と同じ格闘家の男性と、盾役を担う剣士の男性、そして魔術師の女性がいた。魔術師の女性の方はバルルよりも年上で魔法学園を卒業していた。この3人と共にバルルは白銀級冒険者に昇格し、夢を叶えるまであと一歩という所まで辿り着く。
『この調子で行けばあたしらも来年には黄金冒険者の昇格試験を受けられるはずだよ!!このまま4人全員で黄金冒険者になってやろうじゃないかい!!』
『おいおい、そんなに上手くいくわけないだろう?』
『あら、目標を掲げる事は悪くないわよ』
『へへへ、俺は乗ったぜ。だけどよ、もしも試験にしくじって誰か一人でも落ちたらどうする?確か黄金冒険者は一年に一度しか昇格試験を受けられないんだよな?』
『はっ、その時はその時さ!!とりあえず、今は依頼をこなしてあたしらの評価を上げるよ!!』
黄金冒険者を目指してバルル達は数多くの依頼を引き受け、着実に夢に向けて近付いていた。その過程でバルルは仲間達との絆を深め、その内の一人と恋仲の関係にまで発展したが、悲劇は突如として訪れた――
――白銀級冒険者に昇格してから数か月後、バルルは血塗れの状態で森の中で倒れていた。彼女の周りには仲間達が倒れており、彼女と同様に全員が酷い傷を負っていた。
『なあっ、おい……誰か、生きてるかい?』
『…………』
『頼むよ、返事をしてくれよ……起きろっ!!ゴウケン、タルク、アルドラ!!』
バルルは片足がもがれた状態で仲間達の死体の元まで必死に這いつくばり、一人一人呼びかけるが返事はない。血の涙を流しながらバルルは仲間の死体に縋りつき、彼女は泣き叫ぶ。
『や、約束したじゃないかい……皆で一緒に黄金冒険者になるって、言ったじゃないかぁああっ!!』
『おい、こっちで声が聞こえたぞ!!』
『大丈夫か!?』
『こ、これは……すぐに治癒魔導士を呼べ!!』
仲間の傍で絶叫するバルルの声を聞き付け、遅れて到着した他の冒険者集団が彼女を保護した。バルルは冒険者に助けられたが、残りの3人は残念ながら既に死亡していた――
――昔の夢から目を覚めたバルルは自分が酒場で眠っている事に気付いた。ランファの元から去った後、彼女は魔法学園や自分の宿に戻る気になれず、馴染みの酒場で飲んでいた事を思い出す。
「……夢か、くそっ。最近は見てなかったのに」
「ようやく起きたのか、もう閉店時間だぞ」
頭を抑えるバルルの元に水が入ったコップを持った老人が現れる。この老人は酒場の店主であり、アルルやドルトンと同様にバルルとは昔からの付き合いだった。
「ああ、悪かったね……勘定はいくらだい?」
「そんな事よりも大分うなされていたぞ。また、昔の夢を見ていたのか?」
「……金はここに置いておくよ」
店主の言葉に応える事はなく、彼の差しだした水を飲むとバルルは金を置いて去っていく。そんな彼女の後姿を店主はため息を吐いて見送る。
店を出たバルルは頭痛に苛まれながらも夜道を歩き、もう時刻は深夜を迎えていた。かなり酒を飲んでいたはずだが昔の夢を見たせいで頭が覚めてしまい、彼女は無意識に月を眺めた。
「……あんた達に会いたいよ」
亡き仲間達の姿を月の中に思い浮かべた彼女は頬に涙が伝わるが、すぐに彼女は顔を拭って涙を振り払う。誰かに見られる前にバルルは立ち去ろうとした時、彼女は路地裏を通りがかろうとすると物音を耳にした。
(……何だ?)
路地裏の奥から確かに音が聞こえたバルルは訝しみ、彼女は慎重に足音を立てずに奥に向かう。奇しくも彼女が立ち寄った路地裏はかつてマオが通り魔に襲われた場所だった。
嫌な予感を抱きながらもマオは路地裏を進むと行き止まりに辿り着き、そこには誰もいなかった。自分の勘違いかとバルルは安心仕掛けたが、彼女は後方から物音を耳にして振り返る。
「なっ……誰だいあんたはっ!?」
「……元白銀級冒険者のバルルだな?」
振り返ったバルルの視界には全身をフードで覆い隠した人物が立っており、咄嗟に身構えようとしたバルルだったが、フードの人物の声を聞いて目を見開く。
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