第195話 冒険者狩りの正体
「あんた、まさか……!?」
「恨みはないがここで死んでもらう」
「ちぃっ!?」
相手の言葉を聞いてバルルは即座に身構えると、フードの人物は彼女にゆっくりとした動きで近付く。バルルは迫りくる相手に対して拳を構え、魔術痕を発動させて「爆拳」の準備を行う。
(こいつが冒険者狩りか!?あたしを狙うなんて良い度胸だね!!)
拳に魔力を込めていつでも攻撃態勢に入ったバルルは相手が近付くのを待つ。ランファの情報によれば冒険者狩りの正体は腕利きの剣士と考えられ、相手が剣士ならば必ず剣で斬りかかるはずだった。
バルルは相手が剣で斬りかかって来た時を狙い、敢えて接近するのを待つ。相手が近付いてきた瞬間に自分も拳を繰り出し、最悪でも相打ちで仕留める覚悟はできていた。
(さあ、どう来る!?)
剣士との戦闘はバルルも初めてではなく、冒険者の仕事をしている時は腕利きの剣士と幾度も手合わせしてきた。時には盗賊や傭兵と戦った事もあり、剣士を相手に本気の命のやり取りをしてきた。
如何に相手が数十年も辻斬りを行う犯罪者であろうと、自分の爆拳を叩き込めば相手が巨人族であろうと仕留める自信はあった。しかし、バルルの予想に反してフードの人物は一定の距離まで詰めると、そこから先は立ち止まって近付こうとしない。
「はっ、どうしたんだい!?怖気ついたのか!?」
「……もう終わっている」
「何を言って……!?」
あと一歩踏み込めばバルルの爆拳の間合いに入るという所でフードの人物は立ち止まり、普通の剣士にはあり得ない武器を取り出す。それを見たバルルは目を見開き、彼女は咄嗟に両腕で腕を交差して身を守ろうとした。
「まさかっ!?」
「終わりだ」
――次の瞬間、バルルの身体に衝撃が走ると彼女は後方に派手に吹き飛ぶ。この際に彼女の魔術痕が刻まれた右腕が切り落とされ、全身が血塗れになりながら地面に転がり込む。
咄嗟に両腕で胸元を庇った事で胴体を守る事はできたが、代償としてバルルは右腕を切り落とされ、もう片方の腕にも深い切り傷が残る。彼女は意識が半ば飛んでしまい、そんな彼女の元にフードの人物は見下ろす。
「……任務遂行」
バルルが動かなくなった事を確認すると、その人物は彼女が死んだと判断して立ち去ろうとした。しかし、フードの人物が立ち去った後にバルルは目を見開く。
「がはぁっ!?げほっ、げほっ……」
奇跡的に息を吹き返したバルルは身体を起き上げようとするが、身体に力が入らなかった。切り落とされた右腕から血が噴き出し、残された左腕にも力が入らない。
(まずい、このままだと死ぬ……)
身体を震わせながらもバルルは切り落とされた自分の右腕に気付き、魔術痕が刻まれた右腕は切り落とされてしまった以上は彼女は魔拳は使えない事を理解する。しかし、残された力を振り絞ってバルルは自分の腰に装着していた小杖を掴む。
「はっ……こんな物に頼る日が来るとはね」
バルルは腰に装着していたのは「小杖」であり、この小杖は彼女が旅に出る際にちょっとした炎が欲しい時によく愛用していた。魔拳士ではあるがバルルは下級魔法の「火球」を扱い、炎を燃やしたい時に薪がない時は火球を使用していた。
意識を完全に失う前にバルルはフードの人物の正体を記すため、必死に残された腕で杖を掴み、最後の魔力を振り絞って建物の壁に構える。杖先から赤色の光が灯り、もう火球を作り出す事もできず、せいぜい杖先を加熱させる事しかできない。
「ぐううっ……!!」
力を振り絞ってバルルは小杖を動かし、壁に焦げ跡を残す。自分の血で文字を残す事もできたが、彼女は敢えて魔術師らしく壁に文字を刻む。
(あたしからの最後の教え……あんたらに託すよ)
文字を書き切るとバルルは満足そうな表情を浮かべ、自分の弟子であるマオとミイナの顔を思い浮かべながら彼女は意識を失った――
――数分後、路地裏を通りがかった住民がバルルを発見して警備兵に通報し、彼女は即座に治療を施された。連絡を受けた魔法学園の学園長のマリアは夜中にも関わらずに学園に所属する治癒魔導士を派遣させ、彼女の治療を行う。
元冒険者であるバルルが斬られた事は冒険者ギルドにも報告が入り、ギルドマスターのランファは冒険者狩りの仕業だと断定した。そしてバルルが意識を絶つ前に残した証拠によって冒険者狩りの正体が判明した。彼女が襲われた現場にはこのような文字が壁に刻まれていた
『犯人はエルフの女』
この文章から冒険者狩りの正体が女性だと判明し、種族がエルフだと確定した。人間よりも長命のエルフであれば数十年前に引き起こした事件の犯人と同一人物であってもおかしくはなく、老人の剣士の線はなくなった――
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