第193話 冒険者狩りの目的

「冒険者狩りはさっきも言った通り、先々代のギルドマスターが健在の時に現れた犯罪者だ。当時は冒険者を狙う犯罪者として有名で当時の警備兵や冒険者が協力して冒険者狩りの捜索を行ったらしい」

「でも、駄目だったんだね」

「その通りだ。結局は冒険者狩りの手掛かりすら掴めず、冒険者狩りは姿を晦ました。だが、殺された被害者の共通点は鋭い刃物による切り傷である事は間違いない。しかも特徴的な殺し方をされていた」

「特徴的?」

「……全員が胸に十字の傷が刻まれていた」



ランファは殺された被害者の絵を記した羊皮紙を取り出し、それを見たバルルは眉をしかめた。被害者の胸元には文字通りに十字の傷が刻まれており、これまでに殺された全員が同じ傷跡が残されていたという。



「犯人の目的は不明だが、必ず被害者の胸元にはこの十字の傷跡を残す。何のためにこんな傷跡を残すのかは判明していないが、この傷跡が冒険者狩りが行ったという証拠だ」

「傷跡だけで同じ人間の仕業とは言い切れないだろう?もしかしたら複数人の犯罪者が手を組んで冒険者狩りとやらを行っているんじゃ……」

「いや……私も死体を見たがどの傷跡も全く同じように刻まれていた。これは相当に腕利きの剣士の仕業としか考えられない」

「剣士ね……だけど、話を聞く限りだと犯人が同一犯だとしたら相当な年齢じゃないのかい?」

「そういう事になるな」



最初に殺された被害者が数十年前に殺されたとなると、現在現れた冒険者狩りが同一犯だった場合は少なくとも「老人」と言っても過言ではない年齢である。しかも殺された死体に刻まれた十字の傷跡から考えるに相当に腕の立つである事は間違いない。


冒険者狩りが最後に犯行を行ったのはバルルが冒険者になる前の時代らしく、それまでに彼女が冒険者狩りの事を知らなかったのは無理はない。冒険者狩りが犯罪を行わなくなったので存在を忘れられていたが、今の時代になって再び冒険者狩りが現れた。



「たく、何が目的なのか知らないけど冒険者に喧嘩を売るなんて良い度胸だね」

「バルル、お前はもう冒険者ではないが……被害者の中には元冒険者の肩書きの人間も含まれている。お前も元は白銀級冒険者だったんだ、気をつけておいた方がいい」

「あたしが辞めたのは大分前の話だよ。まあ、一応は気をつけておくよ」

「そうか……それと、悪いがしばらくの間は冒険者ギルドは冒険者狩りの捜索に専念する。だから魔物の素材の売買は行えなくなることをあの子達にも報告してくれ」

「なるほど、そういう事かい」



バルルがギルドマスターに呼び出された理由は冒険者狩りのせいでギルドも忙しくなり、これまで通りの作業は行えなくなることを伝える。用件を終えたバルルは魔法学園に戻る事にすると、ランファは最後に忠告した。



「バルル、気をつけておけ。冒険者狩りと遭遇すれば今のお前では……」

「……分かってるよ。もしも遭遇したら逃げるさ」

「せめてお前の身体が万全ならば……」



ランファは辛そうな表情を浮かべてバルルの片足に視線を向け、彼女の片足はかつて仲間を失った時に共になくなってしまった。現在は特製の義足を身に付けているが、日常の生活は問題ないがもう昔のように動く事はできなかった。



「止してくれよ、仮にちゃんとした足があったとしてもあたしはもう引退した身だ。もう長い事戦ってないからね、きっとあたしなんかじゃ敵う相手じゃないさ」

「バルル……」

「じゃあ、もう行くよ」



ギルド長室を立ち去ろうとするバルルの後ろ姿にランファは寂し気な表情を浮かべ、もしも彼女が仲間を失わずに冒険者を続けていれば今頃は黄金級冒険者になっていてもおかしくはなかった。バルルの実力はランファはよく知っており、全盛期の彼女はランファをも凌ぐ強さを誇る。


王都の冒険者の間ではバルルは「拳姫」と呼ばれる程に有名であり、いずれは仲間達と共に黄金級冒険者になると期待されていた。しかし、ある事件で彼女は仲間と片足を失ってしまい、冒険者を引退せざるを得なかった。



「あの事件さえなければ……」



バルルが冒険者を辞める切っ掛けとなった事件を思い返し、ランファは悲しさと悔しさが入り混じった表情を浮かべた――






※次回はバルルの過去編です。

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