第192話 冒険者狩り

――捕まえた盗賊を連れて王都へ帰還すると、バルルは警備兵に盗賊を突き出す。賞金首も混じっていたので賞金の受け取りに多少の時間は掛かったが、昼前には報酬を受け取る事ができた。



「今回の賞金はあたしが半分貰うよ。あんたらは残りを三等分にしな」

「え、いいんですか?」

「先生が一人で捕まえたみたいなもんじゃないですか?」

「いいんだよ、一応はあんた等も手伝ってくれたからね」

「わぁいっ」



盗賊をほぼ一人で倒したのはバルルだが、彼女はマオ達にもしっかりと報酬を分配した。金額自体はそれほど多いわけではないが、両親の仕送りには十分な額だった。



(父さんと母さん、これで借金は返せるかな……)



これまでにマオが両親のために送った仕送りを考えると、マオを王都まで送り込むために必要な旅費の金額分は払う事ができたはずである。それでも念のために両親のため、毎月の仕送りを辞めないようにマオは頑張って稼ぐ事にした。


マオが最初はお金を稼ぎたい理由は両親のためだったが、魔術師というのは魔石や杖などの装備を整えるのにお金が掛かる事を知り、今後の事を考えてもっと稼がなければならない。特に魔石は高級品として扱われているので魔石を購入できるぐらいは稼げるようにならないといけない。



「師匠、これからも魔物を買って冒険者ギルドに売るんですか?」

「ああ、その事なんだけどね……実はその事に関してギルドマスターと話し合う必要があるんだよ」

「えっ!?ランファさんに!?」

「おいおい、お前等ギルドマスターと知り合いなのか?」



バルルの言葉にマオは驚き、一方でバルトはマオ達がギルドマスターと知り合いだった事に驚いた。バルルによれば王都へ戻ったらギルドマスターの元に赴く予定だったらしく、盗賊の件で遅れてしまったが今からでも冒険者ギルドに向かうらしい。



「あたしはギルドの方に顔を出してくるよ。あんたらはもう帰りな、宿題があるだろう?」

「げっ」

「……白狼山に戻りたい」

「戻ったって宿題がある事に変わりないんだよ。マオ、こいつらがサボらないように見張りな。逃げ出そうとしたらあんたが止めるんだよ」

「だ、大丈夫ですよ。ね、二人とも?」

「「…………」」

「無言は辞めてよ!?」



学生であるマオ達は長期休暇の宿題を行うために学生寮に戻ると、それを見送ったバルルは冒険者ギルドへと向かう――






――冒険者ギルドにバルルが到着すると、彼女は建物に中に入ると妙に騒がしい事に気付いた。冒険者やギルドの受付嬢が忙しなく動き回り、何事か起きたのかを問い質す。



「おい、何があったんだい?」

「すいません、忙しいんです!!後にしてください!!」

「いや、私が話そう」

「えっ……ギ、ギルドマスター!?」



通りすがりの冒険者に話を尋ねようとしたバルルだったが、何処からかギルドマスターのランファが現れて代わりに説明を申し出る。ギルドマスターはバルルを連れて奥へ連れて行くと、単刀直入にバルルは何が起きているのかを尋ねる。



「いったい何だってんだい、この騒ぎは?」

「実はな……冒険者狩りが現れた」

「冒険者狩り?なんだいそりゃ……」

「お前は知らないのも無理はない。お前が冒険者だった時には姿を現わさなかったからな」

「どういう意味だい?」



ランファの言い回しにバルルは気にかかり、話を聞くところによると「冒険者狩り」と呼ばれる存在はバルルが冒険者になる前から存在する犯罪者らしい。


場所をギルドマスターの部屋へと移動すると、ランファはとりあえずはバルルを座らせて詳しく説明を行う。冒険者狩りと呼ばれる存在が現れたのは今から数十年も前の話だと語る。



「冒険者狩りが現れたのは私がギルドマスターになる前、先々代のギルドマスターの時代に現れたらしい。名前の由来通り、冒険者狩りは冒険者を標的にする犯罪者だ」

「そいつは命知らずな奴だね……」



冒険者は魔物を狩る程の実力者揃いであり、並の傭兵よりも腕は立つ者が多い。しかも冒険者に手を出せばギルドが黙っているはずがなく、大抵の犯罪者は冒険者の事を避けている。それにも関わらずに冒険者狩りはこれまでに何十人もの冒険者を葬ってきたという。



「冒険者狩りの目的は分からないが、奴は銀級以上の冒険者を狙う事が多い」

「何だって!?じゃあ、これまでに殺された奴等は……」

「そうだ、一流と呼ばれる冒険者ばかりを奴は狙う。それでいながら銅級や鉄級の冒険者は今まで一人も被害が出ていない。奴が狙うのはあくまでも冒険者の中でも腕の立つ人間という事になる」

「ちっ、そんな奴がいたなんてね。でも、どうしてあたしは知らなかったんだい?」



バルルが冒険者になる前から存在した犯罪者ならば自分が知らない事に疑問を抱くが、ランファによれば冒険者狩りは一時期の間、姿を全く現さなかった事が判明した。

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