第191話 盗賊の切札

「へえ、無詠唱でも大分魔法の威力が安定してきたじゃないかい。大したもんだね」

「へへへ、俺だって成長してるんすよ」

「く、くそっ!!呑気に話してんじゃねえよ!!女の方から先に捕まえろ!!」

「今度は油断するなよ!!」



マオ達が魔術師だと知った盗賊達は急遽狙いを変更させ、バルルを取り囲んで武器を構える。彼女を捕まえて人質にすれば残りの3人も捕まえられると思っての判断だろうが、それは明らかに悪手だった。



「へえ、あたしの方から相手にする気かい?別にいいけどね、あんたら……覚悟はできたかい?」

「ひっ!?な、何だこいつ……やばそうだぞ!!」

「お、怯えるな!!相手はたかが人間だ!!俺達の敵じゃねえっ!!」



バルルの迫力に盗賊達は気圧されそうになるが、この時に人間よりも身体能力が高い獣人族の盗賊達が前に出た。彼等は人間離れした身体能力の持ち主のため、たかが人間のしかも女性に負けるはずがないと思い込んでいた。


先に仲間が二人も倒された事もあって最初から手加減はせず、獣人族の男達は彼女を捕まえようと近づく。しかし、それに対してバルルは拳を構えると、不用意に接近した男の一人に踏み込む。



「おらぁっ!!」

「ふん、こんなもので……ぐへぇっ!?」

「あ、兄貴!?」



拳を繰り出そうとしてきたバルルに男の一人が掌を構えて彼女の攻撃を受け止めようとしたが、拳が触れる寸前にバルルは止まり、男の脛を踵で蹴りつける。単純なフェイントに引っかかった男は蹴りつけられた足を抑え、その隙を逃さずにバルルは膝蹴りを顔面に叩き込む。



「ふんっ!!」

「ぶふぅっ!?」

「あ、兄貴ぃっ!?」

「くそ、このアマ!!」



兄貴分の盗賊がやられた他の獣人族の盗賊は、今度は二人がかりでバルルを抑えつけようと左右から挟み撃ちを行う。しかし、それに対してバルルは冷静に右側から近付いてきた男に拳を繰り出す。



「うらぁっ!!」

「うおっ!?あ、危な……うわぁっ!?」

「ば、馬鹿!!何してるんだ!?」



繰り出された拳を躱した盗賊だったが、バルルは拳を振り抜く勢いを利用して相手の腰にしがみつき、タックルの要領で相手を押し倒す。そして倒れた男の顔面に拳を叩き込む。



「二人目!!」

「ふげぇっ!?」

「よ、よくも兄貴たちを!!もう容赦しねえ……あいだぁっ!?」

「あっ……当たちゃった」



バルルが二人目の獣人族の盗賊を殴りつけて気絶させると、最後に残った獣人族の盗賊が彼女の背後から襲い掛かろうとした。しかし、攻撃を仕掛ける前に何処かから飛んできた氷塊が顔面に的中して脳震盪を起して地面に倒れる。


盗賊達はバルルに夢中になっていたが、離れた場所に立っているマオ達は普通に盗賊に攻撃する事ができた。武器を携帯していなかったバルルを先に仕留めようと彼女に注目し過ぎたせいでマオ達の存在を忘れていたのが敗因である。



「そ、そんな!?あの3人がやられるなんて……」

「や、やべえっ!!こいつらきっと腕利きの傭兵か冒険者だ!!」

「ずらかるぞ!!」

「逃がすと思ってんのかい!?あんたら、全員捕まえな!!」

「その台詞だと、まるで私達が盗賊みたい」

「あははっ……」

「たく、人間相手だと手加減が難しいってのに……」



逃げ出そうとする盗賊達をバルルは捕まえるためにマオ達に命じると、3人は仕方なく彼女の言う通りに動く――





――数分後、バルルにボコボコにされて顔が腫れあがった盗賊達が縄で縛りつけられた状態で橋の上で座り込む。宣言通りにバルルは盗賊達を一人残らず捕まえ、彼等の馬車の中にあった縄で縛り付ける。恐らくは人攫い用の縄であり、皮肉にも盗賊達は自分達の用意した道具で自分達が拘束される羽目になった。



「えっと……あ、あった。あんたらも賞金首だったんだね、といってもどいつもこいつも大した金額じゃないね」

『…………』



バルルは賞金首の手配書を取り出すと男達の顔を確認し、顔が腫れあがっているので調べるのに少し時間が掛かったが、盗賊の何人かが賞金首だと判明する。


値段の方は銀貨数枚程度でマオとミイナが以前に捕まえた盗賊と比べると値段は大幅に下がるが、それでも賞金首として指名手配されるほどの盗賊がどうしてこんな場所で人攫いをしているのかをバルルは尋ねる。



「あんたら、どうしてこんな滅多に人が来ない場所で人攫いなんてやってるんだい?」

「う、うるせえっ……」

「口の利き方がなってないね」

「ひっ!?や、止めてくれ!?」

「何だ、この女……本当に人間か?」

「女にしてはガタイがいいから、もしかしたら男じゃ……ぐふぅっ!?」

「どうやら殺されたいようだね!!」

「師匠!?駄目です、それ以上したら死んじゃいます!!」

「大丈夫、死んでも賞金額は変わらない」

「そういう問題じゃねえだろ!?」



生意気な口を叩く盗賊にバルルは鉄拳を喰らわせ、本当に盗賊が死んでしまうかもしれないのでマオとバルトは二人がかりでバルルを抑えつけた――

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