第188話 ギンの正体
「アルルさん!?それにギンも……どうして二人が一緒に!?」
「クゥ〜ンッ?」
「ははは、驚かせたか?いや、実はな……お前等の前では惚けていたが、実はこいつは俺が飼っている猟犬なんだ」
「猟犬!?」
「たくっ、あたしにまで嘘をつかなくても良かったじゃないかい」
アルルはマオ達には白狼種の子供であるギンの事は知らないふりをしていたが、実を言えば彼等がここへ来る前からアルルはギンの世話をしていた事が発覚した――
――事の発端は数年前まで遡り、アルルは狩猟の際中に洞窟の中に白狼種の赤ん坊を発見した。何十年も追い求め続けた伝説の魔獣を発見したアルルだったが、彼が見つけたのは人間を前にしても全く危機感を抱かずに擦り寄ってくる赤ん坊の狼だった。
どんな獣だろうと子供を殺さない事を信念にするアルルは白狼種の赤ん坊を殺す事はできず、仕方なく拾う事にした。この時に彼は白狼種の親を探したがどういうわけか見つからず、赤ん坊だけが取り残されていた。アルルも白狼種の親を捜索したが結局見つかる事はなく、結局は何年も面倒を見る事になった。
白狼種の子供は成長するとアルルは猟犬として自分の狩猟の手伝いをさせるようになり、流石は伝説の魔獣の血を引くだけはあってそこいらの犬や狼よりも役立った。しかし、自分の元に人が来る場合は白狼種の存在を知られると面倒事になると思い、いつも離れた場所にある洞窟に隠していたという。
いつもならば他人を家に泊める時は夜を迎えると、アルルはこっそりと洞窟に赴いて白狼種の子供に餌を与えていた。しかし、マオ達が泊まった時は雨が降っていたせいで仕方なく止むまで待っていたのだが、いくら待っても訪れないアルルにじれったさを覚えた白狼種の子供の方から家に戻ってきてしまった。
人間であるマオを見ても白狼種の子供が襲わなかったのはアルルに飼育されていたからであり、この時にマオは彼に名前を名付けたつもりだったが、実を言えば「ギン」という名前はアルルが最初から白狼種の子供に与えてた名前だと判明する。
「まさかお前さんがギンと会ったという話をし出した時は本気で焦ったぜ。悪いがこいつの事は他の奴等には黙っててくれよ」
「はあっ……分かりました」
「クゥ〜ンッ」
「随分と懐かれたね、爺さんよりもマオの方が気に入ったのかい?」
ギンはマオに擦り寄って離れる様子がなく、そんな彼の頭を撫でながらマオはアルルに詳しい話を聞く。
「ギンの両親は見つからなかったんですか?」
「ああ、俺も何年もこの山を探し続けたが結局は見つからなかった。もしかしたらこいつは置いて行かれたんじゃなくて、捨てられたのかもな」
「捨てた?どうして?」
「あくまでも伝承だが、白狼種は本来は成長が早い魔獣だ。生まれてから数年で大人になって馬鹿でかくなるらしい。だが、こいつは成長はしているが伝承ほど成長が早いわけじゃない」
「ウォンッ?」
アルルが知る限りでは本来の白狼種は数年で成体に成長するらしいが、ギンの場合は伝承に記されている白狼種と比べると成長が非常に遅い。それでも並の魔獣と比べると高い能力を持ち合わせている事は間違いなく、特に牙の切れ味は赤毛熊をも切り裂く威力を誇る。
「こいつを人前に出すと騒がれちまうからな。伝説の魔獣の子孫が生き残っていた何て知られれば大変な事になる。だからお前等もこいつの事は内緒にしておくんだぞ」
「分かってるよ。何だかんだでうちの弟子達もこいつに助けられたらしいからね」
「ギン、あの時は助けてくれてありがとう」
「ウォンッ♪」
マオに褒められるとギンは嬉しそうに尻尾を振り、主人であるはずのアルルよりも彼に懐いている様子だった。昔からマオは動物に好かれやすく、特に犬や猫からは懐かれやすい(ミイナがマオを気に言っているのも彼が動物に好かれやすいのが関係しているかもしれない)。
「坊主、お前さんが倒した赤毛熊の事なんだが……実はもう解体は終わってるんだ。それでその素材を使ってお前さんの装備を整える代わりに余った分は儂にくれんか?」
「え?それはいいですけど、装備を整えるってどういう意味ですか?」
「赤毛熊の毛皮でマントを作ってやろう。赤毛熊の毛皮は熱に強いからな、これを身に付ければある程度の熱や炎を遮断してくれるぞ」
「そいつは便利そうだね、良かったじゃないかい」
「それと牙と爪を利用して武器を作り上げる事もできる。そっちの方はあの娘っ子の方に渡した方が役立つと思うがな」
「なるほど……じゃあ、お願いしていいですか?あ、マントは僕と先輩の分もお願いできますか?」
「ああ、問題ないぞ」
マオの依頼にアルルは承諾すると、彼は赤毛熊の素材を利用してマオ達が去る前に装備品を整える事を約束してくれた――
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