第187話 派手な魔法なんて必要ない
「ガァアアアアッ!!」
「だぁああああっ!!」
赤毛熊とマオは同時に右腕を振りかざし、相手に目掛けて放つ。赤毛熊はマオの身体を貫くため、一方でマオは確実に赤毛熊を仕留めるために杖を繰り出して魔法を放つ。
マオが杖を突き出した瞬間、先端部に高速回転していた氷弾が解き放たれる。バルトの魔法のような派手さこそはないが、今現在のマオが繰り出せる最強の魔法の一撃が繰り出された。
(――貫けっ!!)
マオの意思に従って氷弾が発射されると、赤毛熊の当分に目掛けて放たれる。しかし、この時に赤毛熊もマオに目掛けて攻撃を仕掛け、既に右腕は彼に迫っていた。その結果、氷弾の射線上に右腕が割り込む。
赤毛熊の頭部ではなく、先に右腕に氷弾がめり込む。氷弾は赤毛熊の腕を貫き、全く威力と速度を落とさずに腕を貫通すると赤毛熊の頭部に目掛けて迫る。赤毛熊は迫りくる氷弾に対して目を見開き、避ける暇もなく赤毛熊の眉間に的中した。
「ッ――――!?」
これまでのマオの人生で聞いた事がない悲鳴が白狼山に響き渡り、頭部が氷弾に貫通した赤毛熊は動きを止め、あと数センチでマオの身体に爪が届くという距離で赤毛熊は絶命した。
「はあっ、はあっ……」
「……し、死んだ?」
「ウォンッ……!?」
「うっ……な、何が起きたんだい!?」
「ど、どうなったんだ……?」
立ち尽くしたまま動かなくなった赤毛熊を見届けたのはマオだけではなく、彼の傍に居たミイナや意識を取り戻して起き上がったバルトやギンも確認する。バルトの方も目元の土砂をなんとか払いのけて赤毛熊の死体に視線を向け、何が起きたのか戸惑う。
「……勝った」
マオだけは絞り出すように声を上げると、その場に両膝をついて空を見上げる。最後の魔法で残された魔力を使い切ってしまい、彼は意識を失う――
――次にマオが目を覚めると彼はベッドの上だと気付く。目を覚ました時には既に朝を迎えており、部屋を出て食堂に向かうと朝食の準備を行うバルトの姿があった。
「師匠?」
「ああ、おはようさん……やっと目覚めたのかい」
「そっか、僕は気絶して……そうだ!!赤毛熊はどうなったんですか!?」
「安心しな、奴はくたばったよ。あんたの魔法のお陰でね」
バルルによればマオが意識を失った後、彼女は赤毛熊が本当に死んだのかを確認した。結果から言えば赤毛熊は頭部を撃ち抜かれた時に死亡し、彼女が意識を取り戻した時には既に死んでいたという。
マオが気絶した後にアルルもすぐに目を覚ましたらしく、とりあえずは赤毛熊は彼とバルルの手で解体した。バルトもミイナも疲労が激しく、二人とも未だに寝ているらしい。
「あんたが一番早く目覚めたのは魔力の回復が早かったからだね。ちゃんと精神鍛錬の修行はしていたようだね」
「ええ、まあ……でも、今回はちょっと起きるのが遅かったみたいです」
「それは仕方ないさ、あれだけの事があったんだからあんたの身体だってゆっくりと休みたかったんだろう」
魔力量が少ないマオは精神鍛錬で魔力の回復速度を速める修行を行っているため、他の二人よりも大分早く回復して目を覚ました。しかし、昨日の戦闘で無理をし過ぎたせいで完全に体力が回復するまで一晩も掛かってしまった。
「あいつらが起きるまでもう少しかかりそうだね。ほら、そこに座ってな」
「どうも……師匠、今日は優しいですね」
「まあ、昨日の戦闘で碌に役に立てなかったからね……本当に悪かった。不甲斐ない姿を見せたね」
「そんな!!師匠は怪我をしてたじゃないですか!!」
「だからって
バルルは昨日の戦闘では自分が赤毛熊からマオ達を守る事ができなかった事を恥じに思い、マオに深々と頭を下げた。しかし、彼女は戦う前に利き手の腕が痺れて碌に魔拳を使えない状態だった事を知っているマオは彼女を責めるような真似はしない。
「師匠、本当に気にしないでください。皆生き残る事ができたし、それに作戦通りにいかなかったのは……あっ!?」
マオはここで白狼種の子供であるギンを思い出す。当初の予定では赤毛熊を罠にある場所まで誘導させた後、マオ達が魔法で同時攻撃を仕掛ける予定だった。しかし、馬小屋に隠れていたギンがマオに鳴き声を上げた事で作戦は台無しになった。
結果的にはギンに作戦は邪魔をされたが、彼も赤毛熊との戦闘では役に立ち、バルルの代わりに囮役として十分に活躍してくれた。そのギンが今どこにいるのか気になったマオはバルルに問い質す。
「そ、そうだ!!師匠、ギンは!?白狼種の子供は何処ですか!?」
「ああ、それなんだけどね……」
「おお、坊主!!目を覚ましたのか!!」
「ウォンッ!!」
会話の際中に食堂の扉が開かれると、そこには包帯を巻いたアルルと彼の傍を歩くギンの姿があった。二人の姿を見てマオは驚き、バルルは少し呆れた表情を浮かべる。
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