第186話 残された魔力で……

「やぁあああっ!!」

「ウガァアアアッ!?」

「い、いいぞ!!やっちまえっ!!」

「マオ、頑張って!!」

「ウォオンッ!!」



氷刃の攻撃を受けて赤毛熊は悲鳴を漏らし、身体中から血飛沫が舞う。このまま攻撃を続ければ確実に赤毛熊を倒す事ができると思われた時、マオの身体に異変が走る。



(くぅっ……頭が痛い!?)



複数の氷塊を操る程度ならばともかく、それらを小型の氷刃に変形させた状態での攻撃はマオの相当に高い集中力を必要とした。少しでも気が緩むと回転力が弱まり、威力が落ちてしまう。


予想以上に複数の氷刃を作り出しての攻撃はマオの精神力を削り、そのせいで徐々に氷刃の威力が落ちていく。回転が弱まった事で氷刃は切れ味が鈍ると赤毛熊の身体を切り裂く事ができず、そのまま身体に食い込んだまま動かなくなった。



「はあっ、はあっ……!!」

「マオ!?」

「お、おい!!どうしたんだ!?」

「ウォンッ!?」



遂に限界を迎えたマオは荒い息を吐きながら膝をつくと、それを見ていた他の者たちが心配した声を上げる。しかし、攻撃が中断された事で赤毛熊は目を血走らせて全身に氷刃が食い込んだ状態でマオに向かう。



「ガァアアアアッ!!」

「ひっ!?」

「グルルルッ……!!」

「や、やばい!!おい、マオを助けるぞ!!」

「言われなくても……!!」



赤毛熊は全身から血を流しながらも自分を攻撃したマオに迫り、それを見ていたバルトとミイナも彼を救うために動こうとした。ギンはマオの前に立って彼を庇おうとするが、それに対して赤毛熊は身体に食い込んだ氷刃の一つを器用に爪で引き抜くと、ギンに目掛けて放つ。



「ウガァッ!!」

「ウォンッ!?」



氷刃を放たれたギンは思いもよらぬ赤毛熊の行動に戸惑い、咄嗟に跳躍して攻撃を避けてしまった。しかし、空中では足場がないために逃げる事はできず、赤毛熊は空中に浮かんだギンを叩き落す。



「ガアアアアッ!!」

「ギャインッ!?」

「ギン!?」



ギンは赤毛熊の攻撃を受けて地面に叩き付けられ、あまりの怪力に地面にめり込んでしまう。まだ生きてはいると思われるが気を失ったのか動かない。厄介なギンを排除した赤毛熊は身体をふらつかせながらもマオへ迫る。



「グゥウウッ……!!」

「このっ……よくもギンを!!」

「駄目!!マオ、落ち着いて!!」

「ちくしょう、いい加減にくたばれよ!?」



自分を庇ったギンが攻撃されるのを見てマオは激高し、赤毛熊へ向かおうとしたがそれを止めたのはミイナだった。一方でバルトの方は赤毛熊に対して杖を構えて攻撃の準備を行う。


ここまでの戦闘で赤毛熊も損傷と疲労が大きく、最初の頃と比べて威圧感もなくなっていた。戦いに慣れてきた事もあってかバルトは今度こそ赤毛熊に攻撃を当てるために魔法を放つ。



「スラッシュ!!」

「ギャウッ!?」



初めて彼の魔法が赤毛熊の背中に的中し、三日月状の風の斬撃を受けた事で赤毛熊は倒れ込む。これで倒せたかと思ったが、赤毛熊は四つん這いの状態で起き上がると、血走った目でマオ達を睨みつけた。



「グゥウウウッ……!!」

「こ、こいつ……まだ動けるの!?」

「本当に化物……」

「くそがっ……それなら倒れるまでやってやる!!」



バルトは追撃を加えようと杖を構えた時、それに気づいた赤毛熊は咄嗟に後ろ足を繰り出して地面の土砂を放つ。バルトは土砂を浴びてしまい、視界が封じられる。



「ガウッ!?」

「ぐああっ!?」

「先輩!?」

「目潰し!?そんな知能まで……」



土砂を利用して赤毛熊がバルトに目潰しを仕掛けた事にミイナは驚き、一方でこの場で魔法をまともに扱えたバルトが視界を封じられた事で的に戦えるのはマオとミイナだけとなった。


マオの方は先ほどの氷刃ブレイドの攻撃で予想以上に魔力を消費し、恐らく次に扱える魔法は「氷弾」が限界だった。とても氷柱弾を作り出せる余裕はなく、ミイナに至っては彼女の魔拳は赤毛熊には通じない。



(次の攻撃で仕留めないと……)



赤毛熊を倒すためには次の攻撃で確実に急所を狙い撃つしかなく、朝方にマオは猪を仕留めた時のように氷弾の回転力を高めるだけではなく、を使用して回転力を限界まで高めた。



(もっとだ、もっと早く……!!)



氷弾はよりも規模が小さいため、魔石から使用する風属性の魔力は最小限で済む。回転力が増すと威力も命中力(安定性)も高まり、限界まで回転力を高めた状態で放つ準備を行う。



「ミイナ、下がってて!!」

「マオ!?」

「ガアアアアッ!!」



自分を守るように立っていたミイナを押し退けてマオは三又の杖を繰り出すと、赤毛熊はそんな彼に目掛けて突っ込む。傷を負いながらも最後の力を振り絞って自分を仕留めようとする赤毛熊に対し、マオも最後の魔力を振り絞って攻撃を放つ。

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