第185話 白狼種の牙

「ガアアアッ!!」

「ひっ!?」

「バルト!?早く逃げてっ!!」



赤毛熊がバルトに迫ると、彼はあまりの迫力に足が震えて動けない。それを見ていたミイナは咄嗟に屋根から飛び降りて赤毛熊の元へ向かう。



「炎爪!!」

「ガアッ……!?」



ミイナが両手に火属性の魔力で構成した爪を纏うと、それを見た赤毛熊は彼女に注意を向けた。昼間にバルルに火達磨にされたせいで赤毛熊は炎に敏感に反応し、その隙を逃さずに彼女は赤毛熊の後ろへ回り込む。


獣人族の身体能力を生かして彼女は赤毛熊の背中に移動すると、態勢を屈めた状態で突っ込む。火耐性の能力を持つ赤毛熊に直接攻撃しても大した損傷は与えられないが、それでも彼女は攻撃を仕掛けるしかなかった。



「爪斬り!!」

「ガウッ!?」



赤毛熊の足元に振り払われた炎の爪が衝突すると、赤毛熊は怯んだが実際の所は火傷すら追っていない。火耐性を持つ赤毛熊には火属性の魔法は殆ど通じず、せいぜい少し熱いと感じる程度だった。



「今のうちに逃げて!!」

「あ、ああっ……」

「グゥウッ……!!」



バルトはミイナに言われて正気を取り戻し、赤毛熊が彼女に注意を引いている隙に距離を置く。一方で赤毛熊の方はミイナの攻撃が自分には効かない事を判断すると、彼女に目掛けて容赦なく攻撃を繰り出す。



「ウガァッ!!」

「にゃんっ!!」



振り下ろされた赤毛熊の爪に対してミイナは華麗に回避を行うと、彼女はあちこち動き回って赤毛熊を翻弄した。赤毛熊はすばしっこく動くミイナを見て狙いが定まらず、その間に他の者も動く。



「ミイナ!!下がって!!」

「マオ!?」

「ウォオオンッ!!」

「ガアッ!?」



マオとギンの声が響くとミイナと赤毛熊は声のした方向に顔を向けると、そこにはギンに跨ったマオの姿があった。ギンは彼を守るように立ち尽くし、その後ろでマオは既に杖を構えていた。


彼の周囲には無数の氷塊が作り出され、それらを組み合わせる事で巨大な氷塊を作り出す。賞金首の盗賊を捕まえた時に編み出した魔法の応用であり、巨大な氷柱を形成したマオは赤毛熊に放つ。



「喰らえっ!!」

「ガアアッ!?」



複数の氷塊を合体させて出来上がった氷柱をマオは赤毛熊に放つと、迫りくる氷柱に対して赤毛熊は咄嗟に両腕を広げて受け止める。今回の作り上げた氷柱は風属性の魔力が含まれていないため、単純に巨大な氷塊をぶつけただけだった。



「このぉっ!!」

「グゥウウッ!?」

「い、行け!!押し潰せ!!」

「マオ、頑張って!!」

「ウォンッ!!」



氷柱を操作してマオは赤毛熊の胸元を貫こうとするが、赤毛熊は持ち前の怪力で氷柱を抑え込む。それを見ていたバルトとミイナは声を上げ、ギンも応援する様に鳴き声を上げる。


しかし、赤毛熊は持ち前の怪力で氷柱を抑え込むと逆に氷柱に抱きつく。そして鋭い牙を繰り出して複数の氷塊が合体した氷柱を崩壊させた。



「ガアアアアッ!!」

「うわっ!?」

「そんなっ!?」

「くそっ、化物か!?」

「グルルルッ!!」



氷塊を破壊した赤毛熊を見てマオ達は唖然とするが、粉々に砕いた氷の破片を踏み潰して赤毛熊はマオの元へ向かう。先ほどの戦闘で赤毛熊はこの場の最大の脅威は彼だと判断して近付いたが、それを邪魔したのはギンだった。



「ウォオオオンッ!!」

「ガアアアッ!!」



ギンはマオを守るように立つと赤毛熊はそんな彼を払いのけようと腕を伸ばす。しかし、その攻撃に合わせてギンは鋭い牙を刃物の如く利用して赤毛熊の腕を斬りつける。



「ガウッ!!」

「ウガァッ!?」



赤毛熊の伸ばした腕にギンの鋭い牙が横切ると、オーク以上の強度を誇るはずの赤毛熊の体毛が斬り裂かれて血飛沫が舞い上がる。初めて赤毛熊は血を流し、それを見ていたマオ達も驚きを隠せない。



(切った!?師匠や先輩の魔法でも傷つける事ができなかったのに!?)



ギンの攻撃が通じた事にマオは驚きを隠せず、子供とはいえ彼が伝説の魔獣と恐れられた白狼種である事を思い出す。同時に斬撃が通用したのを見てマオは赤毛熊に破壊された氷塊に意識を向ける。


先ほど破壊されたように見えた氷塊は実際の所は盗賊との戦闘の時と同じく、合体していた氷塊同士が分離しただけに過ぎない。だからこそ散らばった氷塊はまだマオの意思で操作できたが、それを利用してマオは氷塊を変形させて赤毛熊を取り囲む。



氷刃ブレイド!!」

「ッ……!?」



無数の円盤型の氷塊が赤毛熊を取り囲み、丸鋸のように変化した氷塊に取り囲まれた赤毛熊は目を見開く。周囲を囲まれているので逃げ場はなく、多方向から同時に攻撃を仕掛けた。



「切り刻め!!」

「ウガァアアアッ!?」

「うわっ!?」

「にゃっ!?」

「ウォンッ!?」



多数の氷刃が同時に赤毛熊へと襲い掛かり、高速回転した氷の刃が赤毛熊の身体中を切り裂く勢いで迫る。赤毛熊は咄嗟に身体を丸めるがマオの作り出した氷刃は毛皮を斬りつけ、肉体を切り裂こうとする。

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