第184話 赤毛熊との戦闘

「ガアアアアッ!!」

「くっ!?」

「グルルルッ!!」

「うわわっ!?」



赤毛熊が咆哮を放つだけでマオ達は震え上がり、あまりの迫力にバルルでさえも足元が震えてしまう。それでも逃げる事は許されず、覚悟を決めて戦うしかない。



「ちっ、完全に怒らせたようだね……ミイナ、あんたも降りな!!もうこいつには罠は通じない!!」

「わ、分かった」



ミイナでさえも緊張感を隠せず、バルルに言われて彼女は屋根から降りたが着地の際にふらついてしまう。獣人族の彼女は学校の屋上から飛び降りても大丈夫なほどの身体能力を誇るが、赤毛熊の迫力のせいで恐怖のあまりに身体がまともに動かない様子だった。


実戦経験が豊富なバルルでさえも赤毛熊の迫力に気圧されそうになるが、ここで自分が取り乱すと子供達に不安を与える。そう考えた彼女は敢えて自ら赤毛熊に踏み込み、最後の策を実行する。



「この化物!!これでも!!」

「ガアッ……!?」



小袋を手にしたバルルを見て赤毛熊は慌てて防御の態勢を取った。昼間に彼女に火達磨にされた事を思い出した赤毛熊は小袋の中身を警戒するが、今回の彼女が取り出したのは火属性の魔石の粉末などではなく、アルルが大事にしていた「ぬか漬け」だった。



「おらよ、好きなだけ食べな!!」

「ウガァッ!?」



小袋の中身はぬか漬けにされた野菜がぱんぱんに詰まっており、それをぶちまけられた赤毛熊は困惑する。しかし、ぬか漬けの臭いに赤毛熊は鼻を抑えた。



「ガウッ……!?」

「どうだい、爺さん特製のぬか漬けは!?これであんたの鼻は封じたよ!!」



アルルが作っていたぬか漬けは特別製で臭いがきつく、赤毛熊の優れた嗅覚を一時的に封じ込める。鼻が鋭いミイナは事前に鼻をつまみ、ギンに至っては嫌がるようにマオの背中に隠れた。



「キャインッ!?」

「ギン、下がってて……先輩、今です!!」

「あ、ああっ……よし、行くぞ!!」

「さっさとしな!!そう長くは持たないよ!?」

「グゥウウッ……!?」



強烈な臭いで鼻を封じられた赤毛熊は立ち尽くし、その間にバルトとマオは魔法の準備を行う。バルトは杖を天に構えると円を描くように振り回し、彼の誇る最強の魔法「スライサー」の準備を行う。


その一方でマオの方も確実に赤毛熊を仕留めるため、試合の時にバルトの魔法を撃ち破った「氷柱弾」の準備を行う。二人の魔法が決まれば如何に赤毛熊であろうと無事では済まず、魔法を当てれば勝利は確定する。



(急げ!!もっと早く!!)



二人の魔法は威力が大きいが故に発動までに時間が掛かり、赤毛熊が怯んでいる好きに魔法を撃たなければならない。もしも赤毛熊が勝機を取り戻せば避けられる可能性があり、何とか赤毛熊が勝機を取り戻す前に放たなければならない。



「喰らいやがれっ!!」

「ッ――!?」



先に攻撃を仕掛けたのはバルトだった。彼は赤毛熊に目掛けて杖を突き出すと、彼の頭上に渦巻いていた風の魔力が放たれる。渦巻状の風の斬撃が赤毛熊へと迫り、直撃すれば赤毛熊とて全身を切り刻まれて死に至る




――ガァアアアアアッ!!




しかし、攻撃が届く寸前に赤毛熊は正気を取り戻すと上空へ向けて飛び込む。3メートルを超える巨体でありながら凄まじい跳躍力を誇り、バルトが放ったスライサーを回避した。


赤毛熊の思いもよらぬ行動に誰もが呆気に取られ、バルルでさえも理解が追いつかなかった。バルトが放ったスライサーはそのまま通り過ぎると徐々に小さくなって最終的には消え去り、一方で上空に跳んだ赤毛熊は地面に目掛けて突っ込む。



「ウガァッ!?」

「うわっ!?」

「くっ!?」

「ウォンッ!?」



地面に落下した最初の衝撃で土煙が舞い上がり、赤毛熊の身体が土煙に紛れて隠れてしまう。位置的にマオとギンも土煙に巻き込まれてしまい、バルル達は姿を見失ってしまう。



「そ、そんな……避けやがった!?」

「落ち着きな!!取り乱すんじゃない、まずは土煙をあんたの魔法で掻き消して……」

「バルル!!危ない!!」



自分の魔法を避けた赤毛熊にバルトは愕然とするが、そんな彼にバルルは注意しようとした時にミイナが彼女の声をかける。ミイナの言葉を聞いてバルルは土煙に顔を向けると、そこには何時の間にか赤毛熊が土煙を振り払って自分の元に迫る姿が視界に映し出された。



「ガアアッ!!」

「ぐああっ!?」

「先生!?」

「そんなっ!?」



赤毛熊はバルルに目掛けて突っ込み、体当たりで彼女を吹き飛ばす。まるでボアの突進を想像させる勢いでぶつかったバルルは派手に吹き飛び、彼女は地面に倒れ込む。


バルルが吹き飛ばされた姿を見て他の者たちは取り乱し、自分達に指示を与えていた人間がいなくなった事でミイナもバルトも次に何をすればいいのか分からなくなった。一方で赤毛熊はバルトとミイナに視線を向け、先ほど自分に脅威を感じさせたバルトに怒りを抱いた赤毛熊は彼を標的に定めた。

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