第183話 赤毛熊の襲撃
「……うん、何となくですけど前よりも魔石から魔力を引きだしやすくなった気がします」
「本当かよ!?俺の杖も改造して貰えば良かったな……」
「それは爺さんが目を覚ました時に頼みな。さあ、それよりも今のうちに食事を済ませておきな」
「食事?こんな時に?」
「こんな時だからこそ食うんだよ。しっかり食べて体力を回復させておきな」
バルルは簡単な食事を用意するとマオ達に食べさせ、この時にマオは食べ物を口にした時にある事を考えてしまう。
(もしも赤毛熊を倒す事ができなかったら……これが最後の食事になるのかな)
もしかしたら自分の人生の最後の食事になるかもしれないと考えると、マオはしっかりと食べ物を味わう――
――時刻は夕方を迎えると、見張り役を行っていたミイナが鼻を鳴らす。彼女は家に近付いてくる強い獣臭を感じ取り、すぐに他の者に注意する。
「皆!!」
「……来たんだね?」
「くそっ……もうかよ」
「先輩、早く隠れて!!」
ミイナが声をかけるとマオ達は別々の場所に隠れて様子を伺う。この時にマオは馬小屋に隠れ、ミイナは屋根に隠れると、バルトは建物の裏に隠れる。そしてバルルは家の中に隠れて扉の隙間から外の様子を伺う。
しばらく時間が経過すると、遂に赤毛熊が姿を現わした。昼間の戦闘で赤毛熊は全身が火達磨と化したという話だったが、赤毛熊の肉体は所々が焦げているだけでそれほど大きな損傷は受けておらず、むしろ焦げ跡がより一層に不気味さを醸し出す。
――グゥウウウッ……!!
赤毛熊は鼻を鳴らしながらアルルの家の前に辿り着き、予想通りにマオ達の臭いを辿ってここまできた様子だった。マオは緊張した様子で杖を握りしめると、この時に彼の背後に近付く存在がいた。
「ウォンッ?」
「わっ!?」
「ガアッ!?」
マオの背後に現れたのは白狼種の子供のギンだった。彼はバルルが来た時に何処かに姿を消したが、どうやら馬小屋の中に隠れていたらしい。ギンに気付いたマオは咄嗟に声を上げてしまい、その声に赤毛熊は反応して振り返る。
(しまった!?こんな時に……)
完全に不意を突かれたマオは慌てて口元を抑えるが、赤毛熊は馬小屋に完全に注意を引き、それを見ていた他の者たちも焦る。
(あ、あの馬鹿……何してるんだい!!)
(このままだとマオが危ない!!)
(く、くそっ!!ここから狙うしかないのか!?)
同じ家に隠れている3人はマオが隠れている馬小屋に近付く赤毛熊を見て自分達が行動を移すべきか考えたが、この時にマオは既に行動を開始していた。
(こうなったら……!!)
馬小屋に隠れながらマオは三又の杖を取り出すと、音を立てないように無詠唱で三つの氷塊を作り出す。危険ではあるが馬小屋の入口を赤毛熊が覗き込んだ瞬間、攻撃を仕掛けて仕留める覚悟を決める。
杖の先端部に作り上げた三つの氷塊を結合させ、大きめの氷塊を作り出す。その状態から風属性の魔石から引き出した魔力を使用して氷塊の回転速度を上昇させようとした時、馬小屋の外にいる赤毛熊が思いもよらぬ行動を取った。
「ガアアアッ!!」
「うわっ!?」
「ウォンッ!?」
赤毛熊は咆哮を放つと馬小屋の中を覗き込む事もせず、全速力で体当たりを実行した。出入口からではなく、壁を破壊して突入してきた赤毛熊にマオとギンは驚いた声をあげるが、赤毛熊は馬小屋の中に入り込むとマオ達に視線を向けた。
「ガアアッ!!」
「まずい!?」
「キャインッ!?」
咄嗟にマオは身を守るために作り出した氷塊の形を変形させ、盾代わりにして赤毛熊の攻撃に備えた。赤毛熊は空中に浮揚する氷塊を見て一瞬だけ戸惑ったが、即座に鋭い爪を繰り出す。
「ウガァッ!!」
「うわぁっ!?」
「ウォンッ!?」
マオの作り出した氷の盾は赤毛熊の一撃を受けただけで罅割れ、続けて放たれた二撃目で破壊された。現在のマオは鋼鉄以上の硬度を誇る氷を作り出す事ができるが、赤毛熊の攻撃力はオークやボアの比ではない。
盾を破壊されたマオは逃げるしか手段は残されておらず、ギンと共に彼は赤毛熊が破壊した壁から外へ抜け出す。この際に赤毛熊は彼等を追って外へ出ようとした時、何処からか衝撃波が放たれた。
「ス、スラッシュ!!」
「ガウッ!?」
馬小屋から逃げ出したマオとギンを見て建物に隠れていたバルトも飛び出し、二人に追撃を加えようとした赤毛熊に風属性の魔法を放つ。彼の魔法の威力は鋼鉄をも簡単に切り裂ける程の威力を誇るはずだが、直撃したにも関わらずに赤毛熊は身体に生えている体毛が一部切れた程度で致命傷には至らない。
「そ、そんな!?効かないのか!?」
「馬鹿、あんたの魔法がへなちょこだったんだよ!!」
自分の魔法が通じなかった事にバルトは唖然とするが、それを見ていたバルルは我慢できずに家から飛び出す。彼女はバルトの魔法が通じなかったのは彼が集中力を乱し、魔法を完璧に発動できなかったからだと指摘する。
魔術師が魔法を扱う際、精神力が乱れている場合では本来の威力を発揮する事はできない。バルトはマオ達が襲われた光景を見て咄嗟に身体が動いてしまい、彼等を救うために無我夢中で魔法を放った。しかし、集中力が足らずに魔法の威力が半減してしまった。
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