第189話 赤毛のマント
「ほれ、できあがったぞ!!」
「おおっ、相変わらず仕事が早いね」
「わあっ……凄いですね」
「お、俺の分までいいのか?」
「おおっ……これ、良い感じ」
病み上がりにも関わらずにアルルは1日もせずにマオ達の装備を作り上げ、それぞれに渡す。約束通りにマオとバルトには赤毛熊の毛皮から剥ぎ取ったマントを渡し、一方でミイナの方は赤毛熊の爪を利用した鉤爪を渡す。
ミイナの「炎爪」は両手に火属性の魔力を纏わせて獣の爪の形にさせるが、実体はないので敵に切り付けても火傷しか負わせる事はできない。しかし、アルルが特別に加工した鉤爪は火属性の魔力に耐性があるため、炎を纏っても焦げ跡さえ残らない。
「お前等に渡したマントと鉤爪は熱に対して耐性があるからな。それを身に付けていればある程度の炎熱は防ぐ事ができるはずだ」
「流石はドルトンの師匠だね。良かったじゃないかい、あんたら」
「へえ、中々格好いいな」
「これ、気に入った」
「ありがとうございます!!」
アルルに渡された装備をマオ達は早速身に付けると、この時にマオは自分のマントにだけ刺繍が施されている事に気付く。刺繍は狼の顔が施されており、ギンと瓜二つだった。
「あれ、この刺繍は?」
「へへへ、ギンの奴が一番お前さんに懐いていたからな……これさえあれば何時でもギンの事を思い出せるだろう?こいつの事が恋しくなったら何時でも来い」
「クゥ〜ンッ」
ギンはマントに施された刺繍を見て嬉しそうに尻尾を振り、そんな彼にマオは頭を撫でる。装備を受け取るとバルルは馬車を運び出し、そろそろ戻る事を促す。
「さあ、行くよあんた等!!もうそろそろ長期休暇も終わるからね、それまでに王都に戻って宿題を終わらせな!!」
「げえっ……そういえばすっかり忘れてたな」
「宿題はもうやだ……」
「ま、まあまあ……手伝うから頑張ろうよ」
「何だ、もう戻るのか……また暇ができたらこっちに来いよ。お前等ならいつでも大歓迎だ!!」
「ウォンッ!!」
マオ達は馬車に乗り込むとアルルとギンに見送られ、白狼山から立ち去った――
――同時刻、王都の酒場にてタンは盗賊と密会していた。相手は盗賊ギルドの幹部である「リク」であり、彼等は定期的に顔を合わせて情報交換を行っていた。
「まだ奴の居場所は突き止められないのか?」
「む、無茶を言うな……あの御方の居場所を知っているのは学園長だけだ」
「ちっ……役立たずが」
タンから提示された資料を確認したリクは舌打ちし、彼が受け取った資料には月の徽章が与えられた二人の生徒の情報が記されていた。盗賊ギルドとしては現在は学園を休学している方の生徒の情報を知りたかったのだが、学園の教師であるタンも休学中の生徒の居場所は知らされていない。
盗賊ギルドの目的が分からないタンはどうして彼等が二人の生徒の素性と動向を調べようとしているのか分からない。しかし、追い詰められたタンは盗賊ギルドの言う事を聞くしかなく、彼等に頼み込む。
「れ、例の約束……忘れていないだろうな?」
「約束だと?」
「そ、そうだ……お前達に情報を提供する、その代わりに奴を始末すると言っただろう」
「ああ、その事か……安心しろ、約束は守ってやる。だが、この程度の情報しか集められないようであれば約束の実行はまだまだ先だな」
「そ、そんな!?」
リクの言葉にタンは席を立ちあがるが、この時に彼の周囲に座っていた客全員がタンに視線を向けた。その視線に気づいたタンは冷や汗を流し、この酒場にいる客全員が盗賊ギルドに所属する人間である事を思い出す。
「無暗に騒ぐな、いくらここにいるのが俺の部下達だと言っても外にまで声が響いたらまずい」
「す、すまん……」
「安心しろ、情報提供をしている間は我々はお前の味方だ。だが、次に会う時までに有力な情報を持ってこなければ……お前の命はないと思え」
「そ、そんな!?話が違うではないか!!」
「殺されたくなければ死に物狂いで情報を集める事だな……期限は三日、それまでに情報を集めて来い」
「く、くそぉっ……!!」
タンはリクの言葉に身体を震わせるが、もう彼は盗賊ギルドには逆らえない。もしも彼等を裏切ればどんな目に遭うのかは想像したくもなく、急ぎ足で酒場を立ち去った。彼がいなくなると盗賊の一人がリクに耳打ちする。
「リクさん、本当にあの男が有益な情報を盛ってきたら約束を果たすんですか?」
「ああ、約束したからな。約束は守らなければならないだろう?」
「しかし……」
「案ずるな」
リクは心配する盗賊に笑みを浮かべ、次の期限までにタンがどんな情報を持ってくる事を期待する――
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