第180話 魔石の粉末
「こ、この化物!!あたしが相手だよ!!」
「や、止めろ!!お前だってもう限界だろう!?」
バルルは必死に立ち上がって拳を構えるが、先ほどの攻防で彼女は限界を迎えている事はアルルでも分かった。バルルの「爆拳」は赤毛熊には通じず、その理由は赤毛熊が「火耐性」の能力を持つからである。
魔物の中には各属性の魔法に対する耐性を持つ種が存在し、今回の場合は赤毛熊は火属性の魔法に対して強い耐性を持つ。それはバルルも承知していたが、それでも彼女は火属性の魔法拳以外に攻撃手段はないため、これに賭けるしかなかった。
(化物が……くそ、どうすればいい!?)
まともに攻撃を受けても赤毛熊は一瞬だけ怯ませる程度の攻撃しかできず、それでも手を打たなければアルルが殺されてしまう。バルルは周囲を振り返って使える物を探す。
(何でもいい、何かないか……待てよ、これは!?)
バルルは先ほど赤毛熊が破壊した倒木に視線を向け、これを利用すれば赤毛熊に攻撃を与えられるのではないかと考えた。しかし、考えている間にも赤毛熊はアルルに襲い掛かった。
「ガアアッ!!」
「うおおっ!?」
「爺さん!?」
アルルに目掛けて赤毛熊は腕を振り払うと、彼は咄嗟に頭を下げた。
しかし、幸運はそう何度も続かず、赤毛熊の空振りした爪はアルルの後方に生えていた樹木を破壊した。再び樹木が地面に倒れ込み、この時にアルルは逃げ切れずに樹木に押し潰されてしまった。
「ぐああっ!?」
「じ、爺さん!?くそったれが!!」
「ガアッ……!?」
倒木に押し潰されたアルルを見てバルルは居ても経ってもいられず、彼女は倒れている倒木に拳を振りかざす。その様子を見ていた赤毛熊は何をするつもりなのかと警戒すると、彼女は樹木を爆発の力で派手に吹き飛ばす。
「吹っ飛べ!!」
「ガウッ!?」
地面に倒れ込んだ樹木にバルルは全力で殴りつけると、彼女の拳から爆炎が発生して樹木が派手に吹き飛ぶ。粉々に殴りつけられた樹木の残骸が炎に包まれ、無数の残骸が赤毛熊に襲い掛かった。
炎に対しては赤毛熊は強い耐性を誇るが、爆発によって吹き飛んだ残骸の場合は耐性は関係ない。残骸を受けた赤毛熊は一瞬だけ怯み、その隙を逃さずにバルルはアルルの元へ向かう。
「爺さん、生きてるかい!?」
「ぐっ……こ、これを使えっ!!」
「こいつは……!?」
木に押し潰されたアルルは必死に腕を動かし、駆けつけてきたバルルに小袋を渡す。それを受け取ったバルルは戸惑いながらも受け取り、中身を確認すると驚いた声を上げる。
「こいつはまさか……!?」
「う、上手く使え……お前ならできる」
「ああ、分かったよ!!」
「グゥウッ……!?」
残骸の破片が目に入ったのか赤毛熊はバルル達を見失い、その隙を逃さずにバルルは小袋の中身を赤毛熊に振りかける。アルルが所有していた小袋の中には綺麗に光り輝く赤色の粉末が入っており、それを彼女は赤毛熊の背中に放つ。
「これでも喰らいな!!」
「ガアッ……!?」
「はあああっ!!」
赤毛熊の背中に振りかけたのは火属性の魔石を磨り潰して作り上げた粉末であり、赤毛熊の背中に粉末を放つとバルルは拳を振りかざす。
魔石は魔術師に魔力を分け与えるだけではなく、魔法に反応して効果を発揮する。火属性の魔石の場合は超高温に反応して爆発を引き起こす性質を持ち合わせるため、それを利用してバルルは赤毛熊に攻撃を加えた。
「爆拳!!」
「ギャアアアアッ!?」
バルルの拳が赤毛熊の背中に触れると、爆炎が再び発生した。しかも今回は事前に赤毛熊の背中に振りかけた火属性の粉末が反応し、全身に赤毛熊の身体が炎に包まれた。
火耐性の能力を持つと言っても完全に炎を無効化できるというわけでもなく、全身が燃えた赤毛熊はその場を駆け出して逃げ出す。それを確認したバルルは倒木の下敷きになったアルルを救い出す。
「爺さん、しっかりしな!!すぐに助けてやるよ!!」
「ううっ……」
下敷きになったアルルを救うためにバルルは爆拳を繰り出して倒木を破壊し、彼を救い出した。小髭族であるアルルは普通の人間よりも身体が頑丈であるため、まだ辛うじてだが生きてはいた。
アルルを背負ったバルルは赤毛熊が戻ってくる前にその場を離れ、自分も傷を負いながらも山頂の家に戻る事に成功した――
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