第177話 思わぬ再会
(そういえばあの子……何処に行ったのかな?)
昨夜に訪れた白狼種の子供の事を思い出したマオは窓に視線を向け、昨日の夜はここから白狼種の子供の姿を確認した。今回も同じように外を眺めてみるが、白狼種の子供らしき姿は見えない。
昨日は雨が降っていたので白狼種の子供は雨宿りする場所を探してここへ辿り着いたのかもしれず、今日は雨も降っていないので戻ってくることはないかとマオは思った時、窓の下の方から鳴き声が響く。
「ウォンッ!!」
「うわっ!?」
驚いたマオが窓の外の下側を見ると、そこには座り込んだ白狼種の子供の姿があった。どうやらマオの部屋の前で休んでいたらしく、彼が窓から身を乗り出すと嬉しそうに尻尾を振って見上げてくる。
「クゥ〜ンッ」
「お、お前……戻ってきたのか」
昨夜の出来事がやはり夢ではない事を証明され、戸惑いながらもマオは窓から身を乗り出して白狼種の子供の前に立つ。人間を前にしても白狼種の子供は怯える様子はなく、むしろ嬉しそうに擦り寄ってきた。
「よしよし、遊んでほしいのか?」
「ウォンッ」
「といっても今は遊んでいる暇はないんだけどな……」
昔からマオは動物に好かれやすく、特に犬などからは懐かれやすかった。そのために犬をあやすのが得意で白狼種の子供を撫でまわすと、嬉しそうに白狼の子供はお腹を見せつけてきた。
「ウォンッ!!」
「お~よしよし、可愛い奴だな」
「マオ、何してるの?」
「わっ!?びっくりした!!」
後ろから声を掛けられたマオは振り返ると、そこには隣室の部屋に寝泊まりしているミイナの姿があった。彼女は窓から身を乗り出してマオと白狼種の子供に気付き、自分も外に降りて白狼種の子供に手を伸ばす。
「この子が昨日、マオが見つけたと言っていた白狼種の子供?」
「うん、そうだけど……」
「ワフフッ(←くすぐったい)」
マオとミイナの二人がかりでお腹を摩られた白狼種の子供はくすぐったそうな声を上げ、伝説の魔獣と呼ばれた狼にしは人懐っこい性格らしい。しばらくの間は二人に撫でられながら戯れる。
バルルから早く帰り支度をするように言われているが、唐突に戻ってきた白狼種の子供にかまけて二人は準備を忘れる。ひとしきり撫でまわすとマオとミイナは並んで座り、白狼種の子供はマオの背中に乗っかった。
「クゥ〜ンッ」
「おっとっと……まだ遊び足りないのかな?」
「この子、甘えん坊。まだ子供みたい」
「子供か……お前の親は何処にいるんだ?」
「クゥンッ……」
ある程度の人間の言葉を理解できるのか、マオの質問に白狼種の子供は寂しそうな表情を浮かべて犬耳と尻尾が下げる。それを確認したマオは不思議に思いながらも白狼種の子供を抱きかかえると、この時に名前を付けようと思った。
「そうだ、名前を付けてあげるよ。えっと……ウルはどう?」
「クゥンッ?」
「ピンと来てないみたい」
「ならビャクかハクは?」
「ウォンッ……」
「それも嫌みたい」
「そうか……ん?」
名前を考えている時に白狼種の子供の毛皮を見て日の光に当たると白色というよりも銀色に見えたのでマオは名前を思いつく。
「それじゃあ……ギンでどうかな?」
「ウォオンッ!!」
「わっ……気に入ったみたい」
ギンと名付けた瞬間に白狼種の子供は嬉しそうな鳴き声を上げ、マオの顔を舌で舐め尽くす。これからは白狼種の子供の事を「ギン」と呼ぶ事に決めると、マオはギンを離して頭を撫でた。
「よろしくね、ギン」
「私もよろしく、ギンちゃん」
「ウォンッ!!」
「おい、お前等さっきから何を……うおっ!?お、狼!?」
騒ぎを聞きつけたバルトが顔を出すと、彼はギンの姿を見て驚いた。少し騒ぎ過ぎたかとマオは謝罪しようとした時、不意に彼はアルルとバルルの姿がない事に気付いた。
「あれ?先輩、アルルさんと師匠は?」
「あ、ああ……あの二人は周辺を見てくると言って出て行ったぞ。もしも赤毛熊がここまで乗り込んできた時に備えて罠を用意するとも言っていたな」
「罠?」
「あの爺さんは別に一人で大丈夫だと言い張ってたんだけどな、先生がどうしても一緒に行くと言い出して二人で出て行ったよ。まあ、心配する事はないだろ。すぐに帰ってくるさ」
「そうですか……」
「クゥ〜ンッ?」
アルルがバルルと共に出ていった事を知ってマオは安堵し、もしも彼が長年求め続けた白狼種の子供がここにいる事を知られたら厄介事に巻き込まれそうになる。アルルはどんな動物だろうと子供ならば手を出さないらしいが、もしもギンの親が生きているのならば彼にとっては標的の対象となりえる。
家を出て行ったアルルとバルルが戻ってくる前にマオはギンを逃がそうかと思ったが、山の中を子供だけで勝手に動き回る事は禁じられている。この山には魔物は住み着いていないが猪などは生息しているため、無暗に歩き回るのは危険過ぎた。仕方がないのでマオは二人が戻ってきた時はギンを馬車の中に隠し、自分達が家から出ていくときにこっそりと逃がす事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます