第172話 山合宿

――白狼種の子供と遭遇した件はマオは他の者に話すと、その話を聞いたアルルは非常に驚いた。彼は伝説の魔獣である白狼種を狩るためにこの白狼山に住み着いたらしいが、何十年もここで暮らしていたが白狼種に会った事はないという。



「……本当に白狼種の子供がここへ来たのか?」

「寝ぼけて夢でも見てたんじゃないのかい?」

「でも、マオから狼の臭いがした」

「狼ね……けど、白狼種はもう100年前に絶滅したんだろ?子供がいるはずないだろ」

「でも、本当に見たんです!!」



白狼種は100年前に絶滅したと国に仕える魔物の専門家が発表したが、マオは昨日の出来事は夢ではないと思った。話を聞かされた者達は半信半疑といった表情を浮かべるが、アルルは複雑そうな表情を浮かべる。



「もしも本当に坊主が見たのが白狼種だとしたら……」

「爺さんの目標が生きていたという事になるね。猟師の血が騒ぐかい?」

「ああ、そうだな……だが、俺はどんな獲物だろうと子供は殺さねえと決めてるんだ」



猟師としてアルルはこれまでに様々な動物や魔獣を狩ってきたが、彼の信条は獲物であっても子供は殺さないと決めていた。親だけではなく子供まで殺してしまうと生態系に乱れが生じてしまうため、彼は絶対に子供を殺さないと決めていた。


白狼種が生きていたとなればアルルは夢を叶える好機だが、マオが発見した白狼種は小さな子供であるのならば彼の信念に則って殺す事はできない。しかし、夢にまで見た白狼種が今の時代も生きていた事にアルルは嬉しく思う。



「坊主の話が本当なら白狼種は生きていたという事になる……しかも、会ったのが子供という事は親もいるという事だ」

「良かったね、というべきかね……爺さん、どうするつもりだい?」

「とりあえずは山を調べてくる。その間、お前達はここにいろ。ついでに今日の獲物を狩ってきてやる」

「あ、あの……僕も一緒に付いて行っていいですか?」

「ん?お前さんもか?言っておくが遊びじゃないぞ」

「あんまりうちの弟子を舐めるんじゃないよ。課外授業の一環でよく外に出ているからね。森も山も何度も言った事があるよ」



山の様子を調べてくると言い出したアルルにマオは咄嗟に同行を申し出る。彼としてはアルルが白狼種の子供を殺すつもりはないと聞いて安心したが、その親が生きているとしたら彼の標的となりえる。


白狼種の子供と出会ったのは昨日の晩だけだが、できればマオとしては仲良くなった白狼種の子供を悲しませるような事態は避けたい。もしもアルルが白狼種の親を発見して殺してしまえば残された子供はどれほど辛い目に遭うのか考えるだけで心が苦しい。



(やっぱり言わなかったほうが良かったかも……でも、相手が伝説の魔獣なら簡単に殺される事はないかもしれな。むしろアルルさんの方が危ないかも)



どうしても白狼種の子供が気になったマオはアルルに同行を申し出ると、バルルの助言もあって彼は仕方がないという風に自分に付いてくる事を許可した。



「しょうがねえな、それなら一緒に付いてこい。但し、あしでまといになるようならすぐに家に帰すからな」

「それならあたしも付いて行ってやるよ」

「当然、私も」

「うえっ……それだと俺も行かないと駄目だろ。一人で残って何をしろってんだよ」

「皆……ありがとうございます」



マオが行くのならば他の3人も同行する事を決め、アルルは面倒そうな表情を浮かべながらもマオ達を連れて山の見回りへ向かう――






――白狼山は岩山ではあるが意外と住んでいる動物は多く、理由としてはこの場所には魔物が寄り付かない事が原因である。動物達は魔物を恐れるため、魔物が近付かない場所を好んで住処を形成する。


アルルは岩山だけではなく、岩山の近辺に移動して獲物を狩る事も多い。時には魔獣を狩る事もあるらしく、彼によればこれまで討伐した獲物の中で一番の大物は赤毛熊という魔物らしい。



「お前さん達は赤毛熊を知っているか?」

「赤毛熊、ですか」

「ああ、何度かぶっ倒した事があるね。だけど、タイマンでやるにはちょっときつい相手だったね」

「赤毛熊は火耐性持ちだからな」

「それなら私と相性が悪そう。もしも見つけたら先輩が囮になって」

「嫌に決まってんだろ!?」



冒険者時代にバルルは赤毛熊を何度か討伐した事があるが、赤毛熊は火属性の魔法に耐性を持つらしく、彼女としてはもう二度と遭遇したくない程の厄介な相手だと語る。



「赤毛熊はオークやボアを捕食する程の危険な魔獣だからね、それに熱に強い耐性があるから火属性の魔法は殆ど通じないし、並の武器じゃ傷一つ付ける事もできない」

「そんなに強いんですか?」

「今のあたしでも油断したらどうしようもないね……まあ、この辺には住んでないから安心しな」

「いや、それがな……実を言えば最近、熊がこの山に住み着いたかもしれん」

「熊?ここに熊なんていないと言ってたじゃないかい」



アルルの発言にバルルは驚き、昔に彼女はアルルから白狼山には熊は生息していないという話を聞いていた。しかし、彼によると最近熊らしき動物が山の中に入り込んだ形跡が見つかったという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る