第171話 白狼種の子供
「確かここに……あった、オークの肉だ!!」
「クゥ〜ンッ?」
馬車に戻ったマオは魔物の素材の中からオークの肉を発見する。どうやらバルルが保管し忘れていた代物らしく、彼はオークの肉を白狼種の子供に差し出す。
「えっと、食べてもいいよ」
「スンスンッ……」
マオから差しだされたオークの肉に白狼種の子供は鼻を近づけ、臭いを確認すると少し警戒した様子で口にする。しばらくの間は肉を咀嚼すると、安全だと判断したのか凄い勢いで肉を喰らう。
狼が肉を食べている姿を見てマオは幼少期に飼っていた犬の事を思い出す。その犬はマオが川に溺れた時に助けてくれた事もあったが、彼が適性の儀式を受ける少し前に死んでしまった。
(こうしてみてるとウルを思い出すな……)
ウルと名付けた自分の愛犬の事を思い出しながらマオは白狼種の子供を見下ろし、食べ終わるまで待つ事にした。冷静に考えればいくら子供とはいえ、魔獣を相手に餌をやるのは危険な行為なのだが、何となくだがマオは白狼種の子供から敵意は感じられなかった。
「お前、ここに住んでいるのか?」
「クゥ〜ンッ……」
白狼種の子供が食べ終わるとマオは声をかけたが、子供は首を傾げてマオを見つめる。その様子を見てマオはどうするべきか悩み、もしもバルル達に白狼種の子供の事を話したら面倒な事になりそうだと思う。
(師匠は常々魔物には警戒しろと言ってたしな……もしも報告したら怒られるだけじゃ済まないかも……)
元冒険者であるバルルは魔物に対して過敏に反応し、彼女が白狼種の子供の事を知れば始末するように命じる可能性もあった。普段の彼女は口は悪いが優しい性格だが、魔物相手となると決して容赦はしない。
猟師せあるアルルに至っては伝説の魔獣である白狼種を追ってこの山に暮らしているため、白狼種の子供を彼の前に見せるのは危険過ぎた。下手をしたら自らの手で殺そうとするかもしれず、マオは白狼種の子供に告げた。
「ここはお前のいるべき場所じゃないから、今日の所は帰りなよ……といってもこの雨だと厳しいか」
「クゥ〜ンッ……」
降りしきる雨の中で白狼種の子供を追い出す事に罪悪感を抱いたマオは、馬車の中で一晩だけ過ごす事を許す。
「仕方ない、雨が止むまでここにいてもいいよ。けど、荷物を漁ったりしたら許さないからな」
「ウォンッ」
「……本当に言葉が通じてるみたいだな」
マオの言葉に返事をするように白狼種の子供は鳴き声を上げ、マオはそんな彼を見て不思議に思う。その後はマオは白狼種の子供を残して自分の部屋へと戻り、少し心配だったが眠りにつく――
――マオは目を覚ますと窓の外を確認すると、雨が上がっている事に気付いた。彼は急いで馬車に向かうと、既に白狼種の子供の姿はなかった。特に馬車の内部が荒らされている様子もないため、マオが命じた通りに大人しく一晩過ごしたらしい。
「……夢、だったのかな?」
馬車の中を覗いたマオは昨夜の出来事が全て自分の夢であり、そもそも絶滅したはずの白狼種の子供が現れた事自体が現実味がない。そう考えれば辻褄が合い、マオは安堵した。
「そっか、夢に決まってるよね」
「……夢って?」
「わあっ!?びっくりした!!」
急に後ろから声を掛けられたマオは驚いて振り返ると、そこには寝ぼけ眼のミイナが立っていた。ミイナは枕を抱きしめており、どうやら寝ぼけている様子だった。彼女がいきなり現れた事にマオは驚いたが、一方でミイナの方は不思議そうに鼻を鳴らす。
「すんすんっ……」
「ちょっ……どうしたの?」
「……マオの身体から少しだけ嗅いだことのない匂いがする」
「えっ!?」
「多分、狼の臭い……魔獣でも狩って来たの?」
「いや、それは……」
獣人族のミイナは嗅覚にも優れ、ほんの僅かではあるがマオから臭いを嗅ぎ取った。その彼女の言葉にマオは昨日の出来事が夢ではなかったと悟る――
――同時刻、白狼山の麓に白狼種の子供が歩いていた。白狼種の子供は山頂の方を振り返り、大きな鳴き声を上げた。
「ウォオオオンッ――!!」
子供とはいえ、その鳴き声を聞いた白狼山の野生の動物達は震え上がった――
※これから白狼種の子供はどうなるのか……ご期待ください
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