第168話 山の猟師

「お前、もしかしてバルルか!?久しぶりだな、何年ぶりだ!?」

「15年ぶりぐらいじゃないかい?爺さんは相変わらず元気そうだね」

「はははっ、よく来たな!!」

「わっ!?危ない!!」



老人は二階建ての建物の屋根の上から飛び降りると、それを見たマオは焦って声を上げるが老人とは思えぬ強靭な足腰で彼は地上に降り立つ。


小髭族は成人しても人間の子供程度の身長しかないが、筋肉質は人間を遥かに勝り、巨人族に次ぐ怪力を誇る。それでいながら人間離れした器用さも身に着け、歴史に名を刻む鍛冶師の殆どは小髭族だった。



「本当に久しぶりだな、昔は毎年来てたのに急に来なくなったから心配してたんだぞ!!」

「わ、悪かったね。こっちも色々とあってね……」

「まあいい、それよりもそっちガキ共はなんだ?お前のガキ……というわけでもなさそうだな」

「あたしの弟子共さ。ほら、挨拶しな」

「ど、どうも。マオと言います」

「……バルトだ」

「ミイナ」



バルルに促されてマオ達は挨拶を行い、この時にちゃっかりとバルトも弟子扱いされたが、最近の彼はマオ達と共に指導を受けているのでバルルからすれば彼も弟子の一人という認識だった。



「マオにバルトにミイナちゃんか……儂の名前はアルルだ。アル爺さんと呼んでもいいぞ」

「アル……爺さん?」



三人が自己紹介すると老人は手にしていたボーガンを置いて改めて自分も自己紹介を行う。気さくな人物らしく、急に子供達を連れてきたバルルに対して特に不満を抱いた様子はない。



「それにしてもお前が弟子を連れてくるとはな、今日はどうした?儂に何か作ってほしいのか?」

「いや、単純に遊びに来ただけさ。久しぶりにここの温泉も入りたくてね」

「おう、そうか!!それなら今日は生きの良い猪を捕まえたからな!!猪鍋をご馳走してやる!!」

「猪?ここには猪がいるんですか?」

「ああ、ここは魔物は寄り付かないが動物はいる。むしろ魔物に襲われない場所だから動物の方が多いんだ」



アルルによれば白狼山は野生の魔物は寄り付かないが、その代わりに動物は数多く暮らしているらしく、彼は動物を狩って生活しているという。この時にバルルは道中で倒した魔物の素材を彼に渡す。



「爺さん、これが土産だよ。しばらく世話になるからね、宿代と思って受け取ってくれるかい?」

「おいおい、水臭い事を言うな!!儂がお前から金銭を要求した事があったか?」

「今回はうちの弟子達も世話になるからね。ここにいる間はあんたらも家事を手伝うんだよ」

『ええっ!?』



旅行と聞いて付いて来たのにまさか家事を手伝わされるとは思わなかったマオ達は驚きの声を上げるが、一方でアルの方はマオ達に視線を向け、何事か考え込む。



「ふむ……三人ともただの子供じゃなさそうだな」

「おっ、流石だね。見ただけでわかるのかい?」

「儂を誰だと思っておる」



一目見た時からアルルはマオ達が普通の子供ではない事を見抜き、彼はマオ達が身に着けている装備に視線を向けた。特に彼が注目したのはマオが腰に装着した三又の杖であり、普通の魔術師が身に着ける小杖とはまた違った形をした杖に興味を抱く。



「坊主、それがお前さんの杖か?」

「え?あ、はい!!」

「ふむ、これは儂の弟子が作った物だな?」

「弟子?」

「よく分かったね!?そいつは確かにドルトンの作品だよ!!」

「えっ!?という事はアルルさんはドルトンさんの……!?」



王都で鍛冶屋を営むドルトンはアルルの弟子である事が判明し、猟師でありながらアルルは鍛冶も得意とするらしく、彼はマオの杖を見ただけで弟子の作品だと見抜いた。


自分達を見ただけでただの子供ではないと見抜いたり、杖を確認しただけで誰の作品なのか見抜く程の観察眼を持ち合わせたアルルにマオは驚き、一方でアルルの方はマオの杖を借りて性能を確かめる。



「こいつはまた変わった杖だな。この三つの先端から魔法を作り出すのか?」

「ああ、その通りだよ」

「中々の代物だが、儂の目からみればまだまだ甘いな。坊主、儂がもっと良い改造をしてやろうか?」

「えっ、でも……」

「してもらいな。爺さんがこんな事を言うなんて滅多にないからね。それに予備の杖は持ってきてるんだろう?」



バルルの言葉にマオは頷き、彼は予備の小杖は持ち合わせているので魔法は問題なく扱えた。ドルトンの師匠であれば彼に作って貰った杖も預けても問題ないかと判断し、三又の杖をマオはアルルに託す。



「じゃあ、お願いします」

「うむ、しっかりと仕上げてやるわい」

「爺さん、こいつらも疲れてるから部屋を貸してくれるかい?」

「よかろう、空いている部屋を好きに使ってくれて構わんぞ」



アルルは三又の杖を受け取るとバルル達を建物の中に通し、この時に白狼山の上空に黒雲が迫り、雨が降りそうな気配が漂っていた――

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