第167話 白狼山

――倒した魔物の素材回収を忘れずに行った後、馬車は再び出発する。そして夕方を迎えた頃に遂に目的地に辿り着く。



「ここがあたしの知り合いの猟師が管理する山だよ」

「山っていうか……岩山じゃねえか!!」



山に行くと聞いていたマオ達はてっきり緑豊かな場所に向かうと思っていたが、バルルが連れてきた場所は岩山だった。彼女によるとこの岩山の頂上付近に知り合いが暮らしているらしく、そこに温泉が湧いているという。



「この山は白狼山と言ってね、大昔には白狼種が暮らしていたと言われてるんだよ」

「白狼種!?あの伝説の魔獣がこの山で暮らしていたのか!?」

「ちょっと信じられない」

「白狼種……」



白狼種とはこの世界では伝説として語り継がれている魔獣であり、狼型の魔獣ではあるがファングやコボルトと異なる点は全身が白く美しい毛皮に覆われ、その毛皮の価値は計り知れない。


しかし、白狼種は現在は絶滅したと語られており、最後に姿を目撃されたのはマオ達が暮らす国ではなく、獣人族が管理する国家で発見された。しかも発見されたのは100年以上前の話であるため、魔物の専門家の間では白狼種は既に絶滅したと認定されている。



「この白狼山に暮らす猟師は変わり者でね。腕は確かなんだけど、白狼種を狩る事を夢にしてここで暮らしてるんだよ」

「え?でも白狼種は絶滅したんじゃ……」

「伝説の魔獣を狩る事が夢らしくて、今も諦めきれずに白狼種が暮らしていたこの場所で留まって探しているらしいんだよ。まあ、ここいらは滅多に魔物が寄り付かないからね。爺さんが一人で暮らしても問題ないのさ」

「お爺さんなの?」

「あたしの3倍ぐらいは生きてそうな小髭族の爺さんだよ。昔、世話になった事もあるから失礼な態度を取るんじゃないよ」



白狼山に暮らす猟師は老人らしく、しかも人間ではなくて小髭族だと判明した。バルルは子供の頃に世話になっていた人物らしく、彼女は老人が暮らす岩山の頂上部へ向かう。


老人が暮らすには岩山は過酷な環境ではないかと思われたが、バルルによれば白狼山には滅多に魔物は近づかないらしく、安全地帯と言えなくもない。それに老人と言っても未だに現役の猟師を務める程の力を持て余しているらしい。



「爺さんは元気かね……案外、ぽっくり逝ってるかもね」

「えっ!?連絡を取って来たんじゃないんですか?」

「連絡も何もここは人が簡単にこれるような場所じゃないんだよ。だからこうして直に会いに行くしかないのさ」

「おいおい、大丈夫かよ……」

「ちょっと不安になってきた」



バルルも猟師と会うのは久しぶりらしく、彼が生きているかどうか分からぬままに岩山の頂上部へ向かう。道中で魔物の姿は一切見当たらず、マオは本当に魔物が寄り付かない場所なのだと思い知らされる。



(本当に魔物が見かけないな……どうしてだろう?)



白狼山の付近には魔物が近付かないらしいが、その理由は誰も分からない。白狼種が暮らしていた住処だったため、野生の魔物達は恐れを為して近付かないのかもしれないという説を唱える魔物専門家もいたという。


ここまでの旅路でマオ達は何十回も魔物の襲撃を受けたが、ここ最近は世界中で魔物が数を増やしているという噂が流れていた。実際に年を重ねるごとに魔物の被害が増えているのは間違いなく、以前よりも傭兵や冒険者の数も増えていた。それでも白狼山の付近だけは魔物は姿を見せない当たり、この場所を住処にしていた白狼種の凄さが思い知らされる。



「白狼種か……どんな魔獣だったんだろう」

「さあね、そんな事よりも見えてきたよ。あそこが爺さんの家さ」

「へえっ、意外と立派な建物だな……」

「おおっ」



馬車は岩山の頂上部に辿り着くと、そこには木造製の立派な建物が立っていた。ここには猟師が一人で暮らしいるはずだが、その割には大人数でも住めそうなほどの大きな建物が立っていた。


こちらの建物も猟師が一人で作り上げたらしく、鶏や牛などの家畜も飼育している様子だった。マオ達は馬車から降りると、バルルが大声を上げる。



「爺さん!!まだ生きてるかい!?あたしだよ、バルルだ!!」

「マオ、見て。鶏がいる」

「わっ、本当だ。王都じゃあんまり見かけないよね」

「こんな場所によく一人で暮らしてるな……うおおっ!?」

「先輩!?」



バルトが唐突に大声を上げ、他の者が驚いて視線を向けると彼の足元に矢が突き刺さっていた。何事かとマオは矢が刺さった角度から放たれた方向に視線を向けると、そこには建物の屋根の上でボーガンを構える老人の姿があった。



「……何だ、人間か。驚かせやがって」

「お、お、驚いたのはこっちだ!!何しやがるんだ爺!?」

「こら、失礼な口を利くんじゃないよ。この人があたしの言っていた猟師だよ」



急に矢を放たれたバルトは老人に怒鳴りつけるが、そんな彼を宥めながらバルルは老人に手を振る。すると老人はバルルに気付いて少し驚いた表情を浮かべた。

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