第166話 旅行
――長期休暇の間もマオ達は訓練漬けの日々を送っていたが、流石に毎日訓練させるのは問題があるという事でバルルは旅行を提案する。
「実は王都から少し離れた山にあたしの知り合いが暮らしていてね、そこには温泉も湧いているから一緒に行くかい?」
「温泉!?僕、入った事がないです!!」
「私も温泉は好き」
「そうかい、なら一緒に行くかい?」
「お、俺も一緒に行っていいんすか?」
「当たり前だよ。こっちも人手が多い方が助かるからね」
バルルの提案に乗ったマオ達は彼女の知り合いが暮らしているという山へ向かう。王都から北の方角にあるらしく、早速だが馬車を手配したバルルはマオ、ミイナ、バルトを連れて出発した。
今回の遠出は冒険者の護衛を付けず、魔物が襲って来ても自分達だけで対応するようにする。本当ならば外に出向く場合は傭兵や冒険者を雇うのが安全なのだが、今のマオ達ならば王都近辺に生息する魔物など大した脅威ではなかった。
「ガアアアッ!!」
「ヒヒンッ!?」
「ちっ、また現れたのかい!!今度はファングの群れだよ!!」
「またかよ!!」
「面倒……私は寝てていい?」
「ミイナ、真面目に戦って!!」
馬車の前にファングの群れが現れると馬は怯えて立ち止まり、バルルがマオ達に声をかけた。移動中はマオはミイナの膝枕をさせられていたが、魔物が現れたとなると悠長に休んではいられず、全員が外に飛び出す。
「グルルルッ……!!」
「ガアアッ!!」
「ガウッ、ガウッ!!」
「随分と興奮している様子だね、油断するんじゃないよ」
「たくっ、これで今日何度目の襲撃だ?」
「最近、魔物が数を増やしているとは聞いてましたけど……」
「面倒くさい……二人が何とかして」
ファングの群れが馬車の前に立ち塞がると、マオとバルトは杖を取り出すがミイナの方は欠伸を行う。全くと言っていいほどに彼女は緊張感を抱いておらず、一方でファングの群れは獲物を発見して我慢できずに一斉に襲い掛かる。
『ガアアッ!!』
「来るよ、まずはあんたからだ!!」
「分かってるよ!!」
前方から突っ込んできたファングの集団に対してバルトが前に出ると、彼は杖を振り払う動作を行う。この数か月の間にバルトも腕を磨き、彼は杖を振り払うだけで中級魔法を発動させる事ができるようになった。
「おらぁっ!!」
『ギャインッ!?』
「先輩、流石!!」
杖を振り払っただけで衝撃波が発生し、空中に飛び上がったファングの集団が吹き飛ぶ。バルトが使用したのは「スラッシュ」であるが、効果範囲を広げる事で同時に複数の敵を倒す事ができた。
しかし、ファングは「風耐性」の能力を持つので彼の風属性の魔法では致命傷は与えられず、吹き飛んだファングの群れの中には何事もなかったように地上に着地する個体もちらほらといた。それを見たバルルはマオに援護する様に促す。
「マオ、面倒だからあんたの魔法で仕留めな」
「はい!!」
「時間稼ぎは任せろ!!」
「それぐらいなら任せて」
バルルの指示を聞いてマオは杖を構えると、彼を庇うようにバルトとミイナが前に立つ。二人がファングの群れを引き付けている間にマオは三又の杖から魔法を発動させ、三つに分かれた杖の先端部から同時に三つの氷塊を作り出す。
(焦るな、練習通りにやればいいんだ。二人がいれば大丈夫)
何があろうとバルトとミイナが守ってくれると信じてマオは魔法を発動させる事に集中し、次々と氷塊を作り出す。数か月前まではマオが一度に作り出せる氷塊の数は10個が限界だったが、現在では時間に余裕があればその倍以上の数を作り出せる。
(敵の数は……10体ぐらいか、ならこれだけあれば十分かな)
ファングの群れを一瞥してマオは自分の周囲に10個の
『ガアアアッ!!』
「今だ!!」
敵が飛び掛かってきた瞬間、マオは杖を振り下ろすと彼の周囲に浮揚していた氷弾がそれぞれに目掛けて放たれる。これまでのマオは動きを止めた相手しか狙えなかったが、数か月の間に氷弾の精度も上がって動き回る相手も狙えるようになっていた。
放たれた氷弾は適確にファングの頭部を撃ち抜き、飛び掛かろうとしたファングの群れが地面に倒れ込む。一瞬にしてマオは10体近くのファングを倒す事に成功し、それを見届けた者達は唖然とする。
「ふうっ……師匠、終わりました」
「あ、ああ……腕を上げたじゃないかい」
「ははっ、凄すぎて何も言えねえよ……」
「試合の時に使ってたら先輩も死んでたかも」
悲鳴を上げる暇もなくファングの群れは絶命し、それを確認したマオは杖を収める。もう彼の下級魔法は中級魔法にも劣らぬ威力を誇り、ファングやコボルト程度の相手ならば苦戦する事もなくなった――
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