第164話 盗賊ギルド

――タンの前に現れたのは盗賊ギルドなる組織に所属する悪党だった。盗賊ギルドとは名前の通りに盗賊で構成された組織であり、犯罪者集団といって過言ではない。闇ギルドと称される事も多く、この数十年の間に大事件を起こした犯罪者の殆どは闇ギルドに所属していた人間だとも言われている。


どうしてタンが闇ギルドに所属する人物と顔見知りかと言うと、実は彼は過去に闇ギルドと繋がっていた人物と懇意の仲だったからである。その人物の正体は先代の魔法学園の学園長であり、彼に従っていたタンも盗賊ギルドとは縁があった。


学園長がどうして盗賊ギルドと関係を築いていたのかはタンも知らないが、彼は学園長という立場を利用して魔法学園に通う生徒達の中から才能ある人間を選び、を施して自分の手駒にしようとした。その企みを見破ったマリアは彼を告発し、学園長の座を退けた。


魔法学園から去った先代の学園長はその後は姿をくらまし、恐らくはもう生きてはいない。タンはどうにか彼と関係があった事を見破られずに済み、魔法学園の教師として残る事はできたが、そんな彼の前に十数年ぶりに盗賊ギルドの人間が姿を現わす。



「き、貴様……いったい何を考えている?こんな場所に堂々と出てくるなど、兵士に見つかったらどうする!?」

「落ち着け、大丈夫だ。周りを見みてろ」

「な、何!?」



タンは言われるがままに周囲を見渡すと、いつの間にか酒場の人間が姿を消している事に気付いた。先ほど話しかけてきた従業員も姿を消し、店の中にはタンと男しかいない。


男は全身をフードで覆い隠し、顔も良く見えないが声音から察するに大人の男性である事は間違いない。身長はかなり大きく、タンよりも頭一つ分は大きい。それだけにタンは圧倒され、慌てて脇に置いていた杖に手を伸ばす。



「き、貴様!!今更何の用だ!!いや、それよりも他の連中は何処に消えた!?」

「鈍い奴だな……最初からこの店に居たのは俺の配下達だけだ。従業員も客も全員が俺の部下だ」

「そ、そんな馬鹿な……」



小馬鹿にしたような男の言葉にタンは信じられない表情を浮かべ、彼はこの店に訪れたのは初めてではなく、何年も通い続けていた。それなのにまさか自分の通っていた店が盗賊ギルドが経営する店など全く気づきもしなかった。



「大分追い込まれているようだな?もうすぐ首になるそうだな?」

「何故、貴様がその事を……」

「俺達を誰だと思っている?この王都で起きた出来事なら何でも知ってるんだよ。今日のあんたが食べた朝食も知っている」

「ば、馬鹿な!?」

「嘘じゃない、こいつだろう?」



盗賊の男はリンゴを取り出すとそれを見たタンは顔色を青ざめ、彼は確かに朝はリンゴしか食べていなかった。自分の私生活を監視していたのかとタンは恐怖を覚え、慌てて逃げ出そうとする。



「くっ!!」

「おっと、逃げるのはやめておいた方がいい。外にも俺の部下を待機させている」

「お、おのれ……魔術師を舐めるな!!」

「無駄だ」



退路を封じられた事を知ったタンは杖を構えて魔法を発動させようとしたが、何故か杖が反応をしない。この時に彼は自分の持っている杖が偽物だと悟り、いつの間にか杖がすり替えられている事に気付いた。



「ば、馬鹿な……わ、儂の杖は!?」

「ここにある。あんたと話し合いをするならこんな物は必要ないからな」

「ひっ!?」



盗賊の男は何時の間にか杖を握りしめ、それを見たタンは自分の杖だと気付いて恐怖で表情を歪ませた。すり替えられた杖を落とすと、タンは後ろに下がる。


杖を手にした盗賊の男はタンの元に迫ると、彼は握りしめていた杖を差し出す。それを見たタンは目を閉じるが、予想に反して盗賊の男は杖で攻撃するわけでもなく、彼に差しだしていた。



「ほらよ、受け取れ」

「な、なに?」

「落ち着いて話を聞いてくれるならこちらも手荒な真似はしない。だが、下手な動きを見せれば俺の部下の矢がお前の頭を撃ち抜くと思え」

「うっ……!?」



渡された杖を受け取ったタンは周囲を警戒するが人の姿は見当たらず、だからといって盗賊の男の言葉が嘘だとは思えなかった。二人は向かい合う形で机に座ると、改めて盗賊の男は名を名乗る。



「そういえばあんたとは長い付き合いだが、名前をちゃんと名乗った事はなかったな……俺の名はリクだ」

「リ、リクだと!?まさか、あの賞金首の……!!」

「そうだ、俺の名前は知っているようだな」



リクという名前はタンも知っており、国が指名手配した賞金首の中でも金貨100枚の大物でもあった。ここでリクはフードを外して素顔を晒すと、狼型の獣人族である事が判明した。


年齢は30代前半、額の部分に獣の爪で引っ掻かれた様な傷跡があり、人というよりも猛獣を想像させる容貌だった。リクの気迫にタンは圧倒され、こうして彼の素顔を見るのは彼も初めてだった。

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