第163話 バルルの立場
バルトとマオの決闘の後、タンは試合前にバルトに自分の杖と魔石を与えていた事が判明する。バルルもマオに杖と魔石を与えていたのでその事に関しては文句は言えないが、問題なのはタンが用意した杖の性能に関してであった。
タンが用意した杖は特殊な細工が施され、術者から魔力を吸い上げる機能が取り付けられていた。この機能は術者から魔力をより多く吸収する事で魔法を強化する仕組みだが、術者に大きな負担を与えるという理由で魔法学園では使用を封じられている。
その事が判明したのは試合の後であり、本来であれば使用禁止の杖を生徒に貸し与えたという事でタンは罰として減給される。彼はバルルに負けたくないばかりに自分の生徒を蔑ろに扱い、その事が問題となって現在は他の教師からも距離を置かれている。
「タン先生……今年で引退するそうだぞ」
「そうかい、それは清々するね」
「お前な……一応、あの人は俺達の世代の教師だったんだぞ」
「ああ、よく覚えてるよ。あたしの進級を反対した先生だって事もね」
バルルとカマセが学生時代の頃からタンは教師を勤め、彼は当時の学園長の教育方針に則って魔力量が少ないという理由でバルルの進級を反対した教師でもある。昔からタンはバルルとは犬猿の仲であり、お互いに嫌い合っていた。
問題が多い教師ではあるがタンは魔術師としての実力は確かなので学園側も解雇できなかったが、数か月前の試合の一件でタンは他の教師からの人望を失う。そのせいか最近は元気がなく、以前の様にバルルに突っかかる事もなくなり、職員室の隅で大人しく過ごす事が多い。
「今年で引退とかほざいてないで今すぐに辞めちまえばいいのに」
「バルル!!タン先生は俺よりも長くこの学園の教師を勤めている人だぞ!?」
「はいはい、分かった分かった。それよりもさっさと仕事を済ませて飲みに行くよ」
「たくっ、相変わらずお前という奴は……もういい、さっさとやるぞ」
タンの事を毛嫌いにしているバルルにとっては彼が学園を辞める事などどうでもよい話であり、そんな彼女にカマセはため息を吐きながらも書類仕事を手伝う――
――その一方で話題に上がっていたタンは学園を離れて酒場に赴いていた。今日は休日であるため、彼は昼間から酒を飲む。
「くそっ……何故、この儂が学園を去らなければならん!!それもこれも全てあの女のせいだ!!」
「お客さん、飲み過ぎだよ……もう帰った方が良いですよ」
「うるさい!!いいからもっと寄越せ!!」
酒場の従業員が気を遣って彼に変えるように促すが、タンは聞く耳持たずに新しい酒を頼む。既に机の上には空の空き瓶が何本も置かれているが、いくら飲んでもタンの聞は晴れない。
彼が苛立っている理由はバルルと彼女の弟子達のせいで有り、数か月前の試合でタンは自分の生徒の中でも最も優れたバルトをマオと試合させた。しかし、結果は引き分けに終わった。
(バルトめ……あいつが最初から本気を出していればこんな事にならずに済んだというのに!!)
タンの怒りの矛先はバルトにも向けられ、彼は試合の時にバルトが手加減をしていたと思い込んでいた。実際はバルトは本気で戦っていたが、魔力量が圧倒的に劣っているはずのマオと彼が引き分けた事に未だに納得していない。
(もしやバルトはわざと手を抜いていたのか!?あんな子供にバルトが負けるはずがない、きっとそうに違いない!!)
マオとバルトが引き分けた理由は二人の実力が拮抗していたからだが、タンは魔力量が少ないマオの事を見下していた。バルトは性格はともかく、間違いなく「天才」と呼んでも差し支えない魔術師としての才能と魔力量を誇り、そんな彼がマオと相打ちという形で試合が終わった事に未だに彼は理解できなかった。
優秀なはずの自分の
(おのれ、おのれおのれおのれ!!どうして儂が学園を辞めなければならん!!あの女狐め……!!)
タンは長年魔法学園の教師として勤めていたが、先日の試合の一件で他の教師からの人望を失い、学園長からの信用もなくなった。このままでは来年を迎えるまでに彼は学園を辞めざるを得ず、そのせいで彼は荒れていた。
(許さん!!絶対に許さんぞ、あの女も、その弟子も!!必ず報いを受けさせてやる!!)
酒を飲みながらもタンは自分を嵌めたと思い込んでいるバルルとマオに怒りを抱き、必ずや何らかの形で復讐をしようと考えていると、不意に彼の前に見知らぬ人物が現れた。
「随分と荒れているようだな、タン」
「何だと!?貴様、儂を誰だと思って……待て、お前は!?」
声を掛けられたタンは苛立ちながらも振り返ると、自分の前に現れた人間の顔を見て驚く。その人物はタンも良く知る顔であり、昔からの付き合いがある相手だった。
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