第162話 新たな杖と成長の証
――朝の走り込みの訓練が終わると、マオ達は屋上の訓練場に移動して事前に用意していた木造人形を相手に魔法の試し撃ちを行う。この訓練はマオとバルトだけが行い、その間にバルルとミイナは休憩を行う。
「坊主、的を外した方が今日の昼食を奢る賭けをするか?」
「あ、はい……いいですよ」
「よし、なら俺の番からだ!!」
杖を構えたバルトは一番遠くに離れた木造人形に狙いを定め、無詠唱で「スラッシュ」の魔法を放つ。彼もこの半年の間に訓練して魔法の腕を磨き、現在ではスラッシュを無詠唱で放てるようになった。
「おらぁっ!!」
「うわっ!?」
「へえ、前よりも狙いが正確になったじゃないかい」
「おおっ……」
杖を突き出した方向に風の衝撃波が放たれ、遠くに離れた木造人形を粉砕した。それを見たバルルは感心した声を上げ、隣のミイナも拍手を行う。
中級魔法を無詠唱で魔法を発動できる生徒はそう多くはなく、魔術師としてバルトは才能もあるのは間違いない。しかし、彼とは真逆の意味での才能を持つのがマオだった。
「じゃあ、次は僕ですね。師匠、思いっきりやってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「マオ、頑張って」
「俺の時も応援しろよ!!」
師であるバルルから許可を貰うとマオは木造人形に視線を向け、三又の杖を構えると意識を集中させる。これから行う魔法は現在のマオが扱える最強の魔法であり、失敗すれば大変な事態を引き起こす。
「――
杖を突き出した瞬間、三又の杖から三つの氷塊が誕生して瞬時に結合する。三回分の魔法を一度で発動させ、更には氷塊同士を結合させる事でより大きな氷柱を作り出す。
三又の杖によって形成された氷柱にさらに杖に取り付けられた風の魔石から魔力が流れ込み、氷柱は高速回転しながら放たれる。それは正に氷の砲弾と呼んでも過言ではなく、木造人形を破壊ではなく貫通した。
木造人形の胴体部分を抉り取った氷柱は空中に飛んでいくが、
「ふうっ……当てたから引き分けですね」
「……相変わらずとんでもない威力だな」
「ははは、威力だけなら中級魔法を越えてるね」
「凄い魔法……でも、作るのに時間がちょっとかかる」
マオの氷柱弾は並の魔術師の扱う中級魔法よりも威力が高い一方、発動までに少々時間が掛かる。それでも最初の頃と比べれば大分早く魔法が発現できるようになり、もっと慣れてくれば瞬時に魔法を発動できると思われた。
(こいつら、大分成長したね。この調子ならもしかしたら本当に……)
マオ達の魔法を見てバルルは改めて弟子(バルトは違うが)達の成長を実感した。この調子で彼等を鍛え上げればいつか魔法学園に戻ってくるリオンのために役立つと思ったが、その前に彼女は大きな問題を抱えていた――
――訓練を終えた後にバルルは職員室の自分の席に戻ると、彼女は教師としての仕事に取り組む。生徒達が休暇の間も教師であるバルルは仕事があるため、彼女は面倒そうに書類仕事を行う。
「はあっ……身体を動かす方がよっぽど楽だね」
「たくっ、人に手伝わせておいて何を言ってるんだ」
バルルの隣の席は彼女の幼馴染であるカマセの席で有り、同じ一年生の担当教師として二人の席は横並びだった。そして書類仕事の際はバルルは彼の力を借りる事が多く、彼女の分の仕事までやらされるカマセは不満を口にする。
「お前のせいでこっちは休日返上までしてるんだぞ、少しは有難く思えよ」
「分かってるよ。だから今夜は奢ってやると言ってるだろ」
「お前な、本当に大丈夫か?学園長にボーナスも給料も前借りしている状態なんだろ?」
「平気だって、
「稼ぎって……お前、まだあの子達に魔物と戦わせているのか!?」
「ガキのあいつらが金を手っ取り早く稼ぐ手段なんて他にないだろう?」
訓練と称してバルルはマオとミイナを王都の外に連れて魔物狩りを行い、狩猟した魔物の素材を売却して金を稼ぐ。この方法ならば子供のマオ達でも金を稼ぐ事はできるが、カマセは教師として子供達を危険な目に遭わせるバルルに注意した。
「お前、子供達を何だと思ってるんだ!?あの子達は冒険者じゃないんだぞ!!魔物となんかと戦わせるなんて……」
「あたしの教育方針に口を挟むんじゃないよ。それに魔物退治をしているのは別に金稼ぎだけが目的じゃない、あいつらだって金が必要なんだよ」
「たくっ、お前という奴は……この事が他の教師に気付かれたらどうするつもりだ?」
「どうせ何も言いやしないよ、皆知らん顔さ」
カマセの言葉にバルルは鼻を鳴らし、他の教師たちも薄々はバルルが生徒達に魔物を戦わせている事は知っているが、誰も口が挟めない。学園長を覗けば教師の代表格だったタンでさえもバルルには最近絡まずに避けているぐらいである。
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