第159話 体力の重要性

「魔力を回復させるには体力を使うからね。正直に言って今の段階だと意識を失わない程度の魔力ぐらいしか回復できないんだろう?」

「はい、今の所は……」

「それならあんたもこれから身体を鍛えな。体力を身に付ければもっと魔力を回復させられるようになるし、他にも色々と役立つからね。その辺はあたしがきっちりと指導してやるよ」

「お、お願いします……」

「大丈夫、私も付き合う」



今後は魔法の指導だけではなく、身体の鍛え方もバルルが指導する事が決まるとマオは冷や汗を流す。そんな彼等を見てバルトは他人事にのように呟く。



「はあっ……お前、これから大変そうだな」

「何言ってんだい、ついでにあんたも鍛えてやるよ」

「えっ!?いや俺は……」

「あんた、一年生に二連敗しているのを忘れてないかい?このままだとマオに差をつけられるよ」

「うっ!?」



バルトは思いもよらぬ言葉に言い返す事ができず、彼はリオンにもマオにも敗北した事を思い出す。これまでは先輩としてマオに魔術師としての戦い方を教えていたが、どんどんと成長するマオに対して彼自身は特に変化はない。


このままでは先輩としての威厳が損なわれる可能性もあり、仕方なくバルトは覚悟を決める事にした。彼の担当教師はタンだが、別に他の教師から教えを受ける事は禁じられてはおられず、この機会に彼もバルルの指導を受ける事にした。



「ああ、もう……仕方ねえな!!それなら俺も身体を鍛えてやる!!」

「別に無理に付き合う必要はないけどね、まあ一流の魔術師を目指すならあたしに付いて来な!!」

「バルルは魔術師じゃなくて魔拳士」

「細かい事はいいんだよ!!とりあえず、全員今から腕立て伏せ100回だ!!」

「「ええっ!?」」

「今、文句を言った奴は20回追加!!」

「「そんなっ!?」」



こうしてマオ達はバルルの指導の下で身体を鍛え始め、3人共に魔法の腕だけではなく、体力を伸ばす訓練も同時に行う事になった――






――同時刻、とある山中にてリオンと彼に仕えるジイという名の騎士が洞窟の前に立っていた。洞窟の奥からは強い獣臭が漂い、奥の方から気配も感じ取られる。



「坊ちゃま……お気を付けください」

「誰に言っている?お前は下がっていろ、邪魔だ」

「し、しかし……」

「巻き込まれたくないのなら下がっていろ」



自分の傍から離れようとしないジイにリオンは睨みつけると、彼の気迫にジイは気圧されて黙って指示に従う。一方でリオンの方は洞窟に視線を向けたまま動かず、彼は腰に差している剣に手を伸ばす。


リオンの身に着けている剣の鞘にはの魔石が嵌め込まれ、剣の柄はの魔石が嵌め込まれていた。二つの異なる魔石を鞘と剣に装着したリオンは洞窟の奥に隠れている山の主を待ち構える。



「グゥウウッ……!!」

「出たか、赤毛熊!!」



洞窟から姿を現わしたのは全身が赤色の毛に染まった巨大熊であり、普通の熊よりも二回りは大きく、しかも両手両足の爪が異様なまでに研ぎ澄まされていた。赤毛熊は魔獣(獣型の魔獣)の中でも有名な存在で危険度はボアやオークをも上回る。



「グアアアッ!!」

「坊ちゃま!!」

「下がれと言っただろう!!邪魔をするな!!」



赤毛熊は洞窟から出てくるとリオンに対して威嚇を行い、それを見たジイが剣に手を伸ばして彼の元に向かおうとした。しかし、それに対してリオンは振り返りもせずに怒鳴りつけ、彼は自分の剣に手を伸ばす。


リオンの適性は風属性のみであるが、彼はこの数か月の修行で「魔法剣」を習得した。そしてリオンが鞘から剣を抜いた瞬間、新たに身に着けた魔法剣を発動させる。



「烈火斬!!」

「グアアアッ!?」



鞘から刃が引き抜かれた瞬間、刀身に炎が伝わって赤毛熊の身体を切り裂く。赤毛熊は斬りつけられた直後に炎が襲い掛かり、身体に火が燃え広がる。


魔法の力で生み出された火は簡単に消える事はなく、赤毛熊は身体に伝わる火を消そうとあがくが、いくら振り払おうとしても地面に擦りつけようとしても消えない。それを見たリオンは剣を振りかざし、止めの一撃を繰り出す。



「止めだ!!」

「グアアッ!?」

「おおっ……!!」



赤毛熊の頭部に目掛けて刃が貫かれ、それを見ていたジイは簡単の声を上げた。リオンの放った剣は赤毛熊の頭部を貫き、彼は勝利を確信した。しかし、赤毛熊は頭を貫かれながらもリオンに血走った目を向け、事切れる前に反撃を繰り出す。



「グアアアアッ!!」

「何っ……がはぁっ!?」

「リオン様!?」



勝利を確信して油断しきっていたリオンは赤毛熊の放った爪を避ける事ができず、回避も防御も間に合わずに攻撃を受けて吹き飛んだ――

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