第158話 修行の成果
――これまでにマオはがむしゃらに吸魔腕輪から奪われる魔力を体内に抑えようとした。しかし、いくら頑張っても両腕に腕輪を装着した状態で魔法を使用すれば強制的に魔力を奪われた。
吸魔石以上の魔力の吸収力を誇る吸魔腕輪を装着した状態で魔法を使った場合、杖に送り込む魔力を吸い取られる。だが、この一週間の間にマオは自分の体内の魔力の流れを掴み、どのような原理で魔力を奪われるのかを理解した。
吸魔腕輪が発動するのは杖に魔力を送り込もうとするときであり、腕から掌の部分に体内の魔力が集まった瞬間、吸魔腕輪が反応して魔力を奪い取る。しかも吸魔腕輪は連動するらしく、片方の腕輪が発動すれば近くにある吸魔腕輪も反応して魔力を奪う。
マオが吸魔腕輪の原理に気付いたのは最近の話であり、いくら魔力を体内に収めようとしても不可能に近い。例えば蓋をした鍋(器)から中身(魔力)を汲もうとすると、別の手が現れて勝手に水を汲むような感覚に近い。マオはこれまで勝手に自分の鍋から中身を救い取ろうとする腕を払いのけようとしていたが、彼の力が弱くて鍋から腕を無理やり引き剥がす事はできなかった。
そこでマオが考えたのは掬い取られる水の分だけ新しく水を追加する方法を考える。例にするならば鍋から勝手に救われた水の量だけ新しく水を注ぎ込み、元の状態へと戻す。そしてこの戻す方法というのがマオが最近の間やっていた精神鍛錬の修行の成果だった。
「吸魔腕輪はあくまでも杖で魔法を発動した時にしか反応しない。なら、魔法を一旦解除すれば吸引は止まる……それでも凄い勢いで奪われていたから僕の魔力量では一回の魔法を使う分の時間だけでも殆どの魔力を奪われていたんだよ」
「なるほど、それにしてもよく気づいたな……」
「でも、それならどうして今のマオは平気なの?」
「簡単な話だよ。失った魔力の分だけ新しい魔力を作ったから」
「「新しい魔力?」」
マオの言葉にミイナとバルトは首を傾げるが、そんな二人にバルルがマオの説明の補足を行う。彼女は最初からマオが何をしていたのか理解していたらしく、具体的にどうやってマオが魔力を回復させたのかを話す。
「こいつは吸魔腕輪に魔力を奪われて意識を失いかけた時、身体を動かさずに休んでいただろう?」
「あ、ああ……そういえば」
「あの時は心配した」
「鈍いねえ……あれがマオの魔力を回復させる方法さ。こいつは無駄な動きを止めて失った魔力の回復、というよりも新しい魔力の生成を行っていたのさ」
「生成?」
「そ、そんな事ができるようになったのか?」
「はい、まだ完璧に使えるわけじゃないんですけど……」
魔力を失ったマオが取った行動とは身体を動かさず、失った魔力の分だけ新しい魔力の生成に集中した。魔術師の体内には魔力を生み出す機能が存在し、その機能を意識的にマオは強めて新しい魔力を生成する。
この方法は精神鍛錬で魔力の流れを感じ取った時に思いつき、ある時にマオは自分の体内に魔力の「溜まり場」がある事に気付く。それは自分の身体の中心、心臓に近い部分に存在し、身体の中に流れる魔力は元を辿れば心臓付近の魔力の溜まり場に繋がっている事に気付いた。
「魔法を使った時、体内の魔力は減少するけど時間が経過すれば回復しますよね?でも、実際は魔法を使った後は魔力の流れが乱れるんです」
「魔力の流れ……?」
「乱れる?」
「えっと、つまり魔法を使うと体内に流れている魔力が腕とかに集中して他の箇所に魔力が届かなくなるんです。勿論、魔法を解除すればすぐに魔力の流れは戻るけど、魔力を使いすぎると体内の魔力の流れが乱れてそれが原因で疲れやすくなったり、頭痛に襲われると気付いたんですよ」
「その通りだよ。魔力というのは常に全身に流れているんだ。頭痛に襲われるのは頭に流れる魔力が少なくなったせい、身体の疲れは全身に回っていた魔力が切れかかっている証拠さ」
「そういえば前に授業で魔力は生命力その物だと習った事があるけど……まさか、本当の話だったのか」
「私も習ったような……気がしないでもない」
魔術師が魔力を消耗すると頭痛や疲労を引き起こす原因は魔力の流れが乱れたせいで有り、魔力に余裕があればすぐに乱れは戻って解消される。しかし、マオのように魔力量が少ない人間の場合は魔力の流れが乱れても肝心の魔力が不足して簡単には治らない。
そこでマオが考えたのは自分の体内の魔力が乱れた時、新しい魔力を生成して体内に送り届ける方法を思いつく。その方法とは自分の魔力の流れを完璧に把握し、体内の何処から魔力が生まれているのかを知る必要があった。
「この一週間の精神鍛錬のお陰で僕は身体の何処から魔力が生まれているのか分かりました。後は魔力を生成する方法を模索してみた結果、こうして動かずにじっとしているだけで新しい魔力を作れるようになったんです」
「そ、そんな事ができるのか!?」
「なら、もうマオは魔力切れをいくら起こしても平気なの?」
「いや、流石にそれは無理だね……どんな人間も一度に生み出せる魔力量は決まってるし、無制限に魔力を生み出そうとすれば必ず人体に悪影響を及ぼす」
「はい……この方法だと魔力の回復に時間もかかるし、それにすぐにお腹がすくんですよね」
「は、腹が減るのか?」
マオは空腹を堪えるようにお腹に手を押し当て、そんな彼の行動にバルトは呆れるべきか感心するべきか悩む。
※マオの魔力の回復方法はゲームで例えるとHPをMPに変換する感じです。なので無限に魔力を回復する事ができるわけではなく、体力を消耗する代わりに魔力が回復する感じです。
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