第147話 魔石の重要性

「バルトの奴がそんなに凄い奴だったとはね……それならバルトを倒したマオも天才というわけかい」

「そうね、確かにそれは否定しないけれど……マオ君の場合はバルト君とは真逆の存在ね」

「真逆?」

「どういう意味?」



マリアの言葉にマオは不思議に思うと、彼女は少し考えた様子で腕を組み、机の中から硝子瓶を取り出す。どちらも青色の液体が入っており、前にマオも飲んだ事がある「魔力回復薬マナポーション」と呼ばれる薬だった。



「この瓶をよく見て頂戴」

「それは……魔力回復薬かい?」

「ええ、この大きい方の瓶がバルト君、そして小さい方がマオ君だと思って見なさい」

「……ちっちゃい」



机の上にマリアは二つの硝子瓶を置くと、片方は飲み物の瓶のように大きく、もう片方は掌にも収まり切れる程の小さな丸い瓶だった。こちらの小さい方がマオの魔力量を示し、大きい方がバルトの魔力量を現わしている。


こうしてみ比べるとマオの魔力量はバルトと比べて小さく、実際に先ほどの説明によればマオの魔力量は彼の10分の1もあるかどうか怪しい。それにも関わらずにマオがバルトに勝てたのは条件が揃っていたからだとマリアは答えた。



「魔力量が少ないと言っても、必ずしも不利になるとは限らないわ。どれほど大きな魔力を持ち合わせていようと、相手の隙を突いて先に魔法を当てる事ができれば勝つ事は不可能じゃない」

「それもそうだね、どれだけ魔力を持て余そうと大抵の人間なら魔法一発でぶっ倒せるからね。魔物を相手にするよりはずっと楽な相手だよ」



マリアの言葉にバルルも賛同し、いくら魔力量に優れていようとそれを扱うのは非力な人間である。強靭な肉体を持つ魔物ならばともかく、人間の場合はいくら身体を鍛えようと限界があり、魔法を受ければ無事では済まない。



「魔力量が大きい相手でも戦い方を工夫すれば十分に勝ち目はあるし、それに少ない魔力を補う方法もある。それはマオ君も既に知ってるはずよ」

「あっ……まさか、魔石の事ですか?」

「その通りよ。魔石を使えば少ない魔力を補う事もできる、場合によっては自分の限界以上を越える魔法だって生み出せるわ」



小さな硝子瓶の傍にマリアは他の小瓶を置くと、この小瓶が魔石を示している事を察した。だが、マリアの話を聞いていてマオはある疑問を抱く。



「でも、魔石ならバルト先輩も使っていたんじゃ……」

「いいえ、彼の場合はあくまでも魔石をとしての機能しか使いこなせていなかった。自分の魔法を強化するのではなく、身体の負担を減らすためだけにしか扱っていなかったのよ」

「ど、どういう意味ですか?」

「要するに自分が使用する魔力を魔石に肩代わりしてもらっていたのさ。だけど、あんたの場合は自分の魔力と魔石の魔力を組み合わせた上で魔法を強化していた。それだけの話さ」



バルルによればバルトは戦闘中に魔石を使用した際、彼は自分の魔法を強化するのではなく、魔法を使用する際に消費する魔力を魔石に肩代わりしてもらったという。試合の際に彼が披露した魔法はあくまでも彼が引き出せる限界の威力の魔法でしかなく、魔石を利用して強化したとは言えない。


一方でマオの場合は魔石の力で魔力消費を抑えるだけではなく、自分の作り出した氷塊に風の魔石から引き出した風の魔力を利用し、最大限に回転を高めて威力を強化した。そういう意味ではマオはバルトよりも魔石を使いこなしていたと言えるらしい。



「あの試合でもしもバルト君が魔石の力を使いこなせていれば……勝敗は違ったかもしれないわね」

「そんな事はない、マオだって氷弾を使ってたら一発で勝てた」

「まあ、あの魔法を使えば大抵の魔術師は倒せるだろうけど……死人が出るね」

「こ、怖い事を言わないでください……」

「氷弾?」



マリアの見立てではバルトがもしも魔石をもっと上手く使いこなせれば最後の勝負はバルトが勝っていたかもしれないと予想するが、そもそもマオが氷弾を使っていれば試合は一瞬で終わっていた可能性も十分に有り得た。


彼の扱う氷弾は獣人族以外の存在には対処しきれない攻撃速度を誇り、仮にバルトに使用していれば人間である彼では反応できず、一発で致命傷を与えられたかもしれない。試合という形式ではなく、実戦であったとしたらマオは確実に勝利していた(マオの性格的に悪人ではない人間に魔法を使えるかどうかは別問題として)。



「説明が長くなってしまったけど、必ずしも魔力量が少ない人間が魔力量が多い人間に劣るというわけではない事は分かってくれたかしら?」

「ああ、よく分かったよ。けど、先生……」

「話はまだ終わっていないわ。もう少しだけ聞いていなさい」



バルルが質問する前にマリアは彼女を制すると、今度は彼女が少し前に告げた「魔力量が少ない才能」という言葉の真の意味を説明する。

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