第148話 魔力量が少ないという才能
「マオ君は間違いなく、この学園の生徒の中で一番魔力量が低いわ」
「うっ……やっぱりそうなんですか」
「ちょっと先生!!いくらなんでもずばっと言い過ぎじゃないかい!?」
「マオを泣かせたらいくら学園長でも許さない」
「流石に今の言い方はどうかと……」
「……いいから最後まで話を聞きなさい」
マリアの言葉にマオは落胆すると、他の者たちが彼を庇うようにマリアに抗議した。そんな彼女達にマリアはため息を吐き出し、改めて説明を行う。
「さっきも言ったけれど、マオ君の魔力量が低いというのは才能なのよ。決して恥ずかしく思う必要はないし、むしろ誇りに思ってもいいくらいだわ」
「魔力量が少ない事が……才能?」
「さっきの話を思い出してちょうだい。魔力量が大きい人間ほど魔力を操作する技術が困難を極める。それなら逆に言えば……魔力量が少ない人間なら魔力を操作する技術の難易度が下がるという事よ」
「え?」
「……ああ、なるほど!!そういう事かい!!」
マオはマリアの言葉に呆気に取られるが、ここでバルルが合点がいくように大声を上げた。彼女はマオの肩を掴み、今まで抱いていた疑問が解消されて嬉しそうな表情を浮かべる。
「ずっと前にあたしも同じ事を考えたのを思い出したんだよ。あんたがどうしてこんなに早く魔力操作の技術を身に着ける事ができたのか……あんたは魔力が少ない。でも、だからこそ魔力を制御する術を他の奴等よりもずっと早く覚える事ができたんじゃないかってね」
「え、えっ!?」
「なるほど、納得した」
「そういう考え方もありますか……盲点でした」
魔法学園に入学してからマオは瞬く間に魔力操作の技術を身に着けた理由、それは彼が魔力量が少ないお陰で魔力の制御が他の生徒ほど難しくはなく、短期間で魔力操作を完璧に覚える事ができた。
彼の魔力は確かに他の生徒と比べると少ないが、それは決して欠点とは言い切れず、むしろ長所と言えた。普通であれば魔力操作の技術を完璧に身に着けるには相当な時間を労するが、マオの場合は最初の一か月程度で身に着けたのも魔力量が少ない彼だからこそ可能な芸当だと判明する。
「マオ君は魔力量が少ない分、他の魔術師よりも魔力を制御しやすいという事よ。だから他の一年生と比べて成長が早いと言えるわ」
「なるほど、納得したよ」
「先ほど先生が魔力量が少ない生徒ほど成績優秀な人間が多いと言っていたのはこの事だったんですね」
「ええ、そうよ。魔力量が少ない人間ほど、魔力を制御しやすい体質だと言えるわ」
先ほど生徒の魔力数値を記した羊皮紙を見たリンダは成績優秀な生徒の多くが魔力量が少ない事を知り、マリアの説明を聞いて納得した。魔力の制御が上手い人間ほど好成績を残すのは当たり前であり、そういう意味ではマオは落ちこぼれなどではなく、魔力量が少ないという才能を持つ生徒の一人と言える。
「マオ君、貴方は魔力量が少ない事を気にしているようだけど落ち込む必要はないわ。貴方は決して落ちこぼれなんかじゃない」
「あっ……」
「それにあの試合で見せた貴方の魔力操作の技術、あれは才能だけで到達できる領域じゃない。相当に努力を積み重ねたのね……よく頑張ったわ」
マリアはマオの頭に手を伸ばして頭を撫でると、これまでに自分の魔力量の少なさを欠点だと思い込んでいたマオは彼女の言葉を聞いて感動する。今まで自分が魔術師として欠陥を持っていると思っていた彼だったが、まさか自分の魔力量の低さを褒められる日が来るとは思いもしなかった。
「あ、ありがとうございます……ううっ」
「マオ、泣いてる?」
「悪かったね、あたしがもっと早く気付けば良かったよ……」
「遠慮する事はありません、私の胸で泣いていいですよ」
涙を流すマオを見てバルルは申し訳なさそうな表情を浮かべ、彼女は師としてマオが抱えていた不安に気付く事ができなかった事を恥じる。ミイナはマオを心配し、リンダはそんな彼を優しく抱き寄せる。それを見ていたマリアは微笑ましい光景に笑みを浮かべるが、彼女はここから先の話を子供達に聞かせるわけにはいかなかった――
――しばらくの間はマオが泣き止むまで待つ事になり、彼が落ち着くと学園長は子供達を先に退室させた。残ったのはマリアとバルルだけであり、バルルは神妙な表情を浮かべて自分だけを残したマリアに話しかける。
「先生……さっきの話、まだ続きがあるんだろう?」
「…………」
バルルはマリアに対して質問すると、彼女は黙って後ろを向いたまま振り返ろうとしない。しかし、そんな彼女にバルルは率直に尋ねた。
「バルトの奴が努力して自分の魔力を使いこなせるようになったという事は……他の奴等も時間は掛かるけど努力し続ければいつかは完全に魔力を扱えるようになる。その場合、魔力量が低い人間は唯一の取り柄を失う」
「……その通りよ」
振り向かずにマリアはバルトの言葉を肯定し、彼女はマオにとって残酷な事実を伝える事ができずにいた。魔力量が少ない事は確かに才能だが、一流の魔術師になるためにはどうしても魔力量が少ない事は欠陥になりかねない。
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