第146話 魔力量が絶対ではない
「魔法を使う場合、こうして紅茶を飲む行為だと考えなさい。使用する魔法の魔力が大きいほどにカップの中身の紅茶も飲まなければならない」
「うんうん」
「但し、気をつけなければならないのはカップの紅茶を全て飲み干した場合は自分が死ぬという事よ。魔力を完全に失えばどんな魔術師だろうと例外なく死亡する……それを忘れてはいけないわ」
「こ、怖いですね」
考え無しに紅茶を飲み続ければカップが空となり、その場合は死亡してしまう。そう考えるとマオは紅茶を飲む事にためらいを覚えるが、マリアは空になる前に新しい紅茶を注ぐ。
「最も魔力量が大きい人間はこのカップよりも大きなカップを持っている事になるわ。場合によってはカップじゃなくて壺みたいに大きな容器に入れる事もあるわね」
「壺……ですか?」
「何だか重そう」
「それ、飲みにくいだろ……」
マオ達は自分達が紅茶の入った壺を飲む姿を想像して眉をしかめ、どう考えても紅茶を壺で飲むのはカップと比べて飲みにくい。紅茶を飲むだけならば小さなカップがあれば十分なのだが、マリアによれば人それぞれで紅茶を飲む容器が異なるという。
「魔力量が大きければ大きいほど、紅茶を注ぐための容器を大きくしなければならない。つまり、魔力量が大きい人間程に容器が大きくなるという事はそれだけ飲む人間にも負担が掛かるという事よ」
「という事は……まさか!?」
「どうやら気付いたようね」
リンダはマリアの言葉を聞いてはっとした表情を浮かべ、自分の手にした紅茶に視線を向けた。マリアの例えでは魔術師が魔法を扱う際、この自分が手にした容器の紅茶を飲まなければならないが、魔力量が大きい人間程により大きな容器を手にしなければならない。
今のマオ達が持っている小さなカップ程度ならば飲む事に何の問題はないが、これがもっと大きい容器、例えば「壺」などの場合は当然だが飲みにくくなる。下手をしたら壺が重すぎて中身をこぼしてしまうかもしれず、場合によっては床に落として割れてしまうかもしれない。
「容器が大きければ必ずしも優れているわけではないわ。小さな容器でも十分に紅茶を飲む事ができるのだから、無理に容器を大きくする必要はないわ」
「なるほどね、先生の言いたいことが分かったよ。だけど、小さすぎると何度も紅茶を飲む事になるのは面倒だろう?」
「それも考え方の一つね」
バルルは暗にマリアがマオの容器(魔力の器)が小さくても落ち込む必要はないと諭そうとしている事に気付くが、それでも彼女はある点が気になった。
「ちょいと待ちな!!確かバルトの奴は三年生の中で一番成績が良かったはずだね?あいつの魔力量はどれくらいあるんだい?」
「バルトですか?バルトは……10ですね」
「10!?私と同じじゃないかい?」
三年生の中で一番成績が優秀なバルトは魔力量が「10」であり、この数字は教員であるバルルと同じ数字を示す。しかも彼女の場合は元々の魔力量は現在よりも低かった事を考えるとバルトは学生時代のバルルよりも上回る魔力量を誇る。
魔力量が10を超える生徒は殆ど存在せず、これ以上に高い数値は学園内では数人しかいない。しかも先ほどのマリアの話によれば魔力量が大きい人間程に魔法を扱うのが困難だと言ったが、バルトの場合は平均よりも上の魔力量を持ち合わせていながら学年トップの成績を収めている。
「先生、どういう事だい?バルトの奴は魔力量が大きいのに成績優秀なんだろう?」
「簡単な話よ、彼の場合は努力して自分の魔力を使いこなせるようになったという事よ。先の例でいえばバルト君は自分の器に慣れたと言えば分かりやすいかしら?」
「慣れた?」
マリアは先ほどカップを「器」紅茶を「魔力」に例えたが、バルトの場合は本来であれば普通の人間よりも大きい器を所持しており、それを使うのは困難を極める。しかし、何度も同じ器を繰り返して使ううちに使い方を学び、慣れてしまえばどんな器でも扱いこなせるようになる。
彼が自分の
「魔力量が大きい人間程に魔力操作の技術を身に着けるのが困難になるのは事実だけど、諦めずに努力をすれば必ず魔力を制御できるようになるわ」
「バルト先輩……やっぱり凄い人だったんですね」
「彼は間違いなく、この学園の生徒の中でも指折りの魔術師よ」
「先生、あいつの事をそんなに評価してるなら月の徽章ぐらいあげたらどうだい?」
「こっちにも色々と事情があるのよ。そう簡単に月の徽章は渡す事はできないの」
自分達が思っていたよりもマリアがバルトを高く評価している事にマオ達は意外に思うが、マリアが月の徽章をバルトに渡さない理由は彼女なりの考えがあっての事だと判明する。
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