第145話 魔力数値
「触るだけでいいんですよね?」
「ええ、緊張する必要はないわ」
皆に見られながらもマオは慎重に水晶玉に手を伸ばすと、彼の掌が水晶玉の表面に触れた瞬間、水晶玉の内部に異変が起きる。水晶玉の中心部に小さな竜巻とその竜巻に取り囲まれた水の球体が出現した。
「えっ……こ、これは?」
「……随分と小さいね」
「私の炎の5分の1ぐらい?」
「それに水の塊と竜巻が同時に現れたようですが……」
「……なるほど、面白い結果ね」
水晶玉の中心に出現した小さな竜巻とそれに取り囲まれる形で現れた水の球体を見て全員が呆然とする中、マリアだけは興味深そうに水晶玉を覗き込む。
先ほどバルルが触れた時は水晶玉の内部を埋め尽くすほどの炎が誕生し、ミイナが触れた時は水晶玉の半分程の大きさの炎が生まれた。しかし、マオの場合はミイナの5分の1程度の竜巻と水の塊しか生み出せなかった。バルルと比べると10分の1か、あるいはそれを少し下回る。
「数値で表すとバルルは10、ミイナちゃんは5、マオ君は……おまけ込みで1といった感じね」
「そ、それは多いのですか?」
「中級魔法を扱える魔術師の魔力量は最低でも3は必要……つまり、マオ君が中級魔法を扱う場合は今の3倍の魔力量がなければ使えないという事ね」
「そ、そうですか……」
自分の魔力量が少ない事は知っていたが、まさか「1」しかない事に彼は酷く落ち込む。単純な魔力量はマオはバルルの10分の1、ミイナの5分の1という事が明かされた。
「ま、まあ落ち込む必要はないよ。魔力量が少ない事は前から知っていたし、これから魔力量を伸ばせばいいんだよ」
「大丈夫、魔力量が少なくてもマオは十分に強い」
「そ、そうですね。バルトと互角に戦えるのですから落ち込む必要はありません。それに今日は魔力量を伸ばす方法を教えて貰えるのですから……」
「どうも……」
バルル達の慰めの言葉を掛けられてもマオの気分は晴れず、改めて自分の魔力量の少なさに落ち込む。しかし、そんな彼に対してマリアは思いもよらぬ言葉を告げた。
「マオ君、落ち込む事はないわ。魔力量が低い事も立派な才能なのよ」
「えっ!?」
「才能って……どういう意味だい先生?」
思いもよらぬマリアの言葉にマオは驚愕したが、彼女は羊皮紙を取り出して机の上に並べる。そこには全校生徒の名前と数字が記されており、どうやら学校の生徒の魔力量の数値を示しているらしい。
「これを見なさい、この学園の生徒達の魔力量よ」
「ええっ!?」
「ちょ、そんなの見せていいのかい?」
「本当なら問題があるけれど、貴方達が他言しなければ問題ないわ。それよりもこれを見て何か気付いた事はあるかしら?リンダ、貴方なら分かるでしょう?」
「私なら?」
リンダはマリアの言葉に不思議に思い、彼女は三年生の生徒の名前を確認する。彼女が同級生の魔力数値を把握した途端、驚いた表情を浮かべた。
「こ、これは!?」
「気付いたようね」
「いったいどうしたんだい?」
「何か分かったんですか?」
「早く教えて」
羊皮紙を握りしめたリンダは焦った表情を浮かべ、彼女は名簿と魔力量の数値を把握して戸惑いながらも自分が気づいた事を告げる。
「ま、魔力量が少ない生徒の殆どが……成績が優秀な生徒です」
「えっ!?」
「そ、それは本当ですか!?」
「はい、間違いありません。数値が少ない生徒全員が優秀な成績を残しているというわけではありませんが……明らかに魔力量が多い者の方が成績が低い人間が多いです」
「同級生全員の成績も把握しているなんて流石は生徒会の副会長ね」
意外な事に魔力数値が少ない人間程に成績が優秀な者が多く、リンダは戸惑いを隠せなかった。基本的には魔術師は魔力量が多い人間程より多くの魔法が扱えるため、魔力量が大きい人間程に優れた魔術師だと思われていた。
しかし、マリアが調べたところによると魔法学園の成績が優秀な生徒の殆どは魔力量が比較的に少ない人間の方が圧倒的に多い。普通ならば魔力量が多い人間の方がより魔力消費の大きい魔法を使えるので優れているように思われるが、マリアは魔力量が多い人間が必ずしも優秀な魔術師になれるとは限らないと明かす。
「魔力量が多い人間は確かに魔力量が少ない人間よりも魔法を多く扱えるかもしれない。けれど、魔力量が多い人間程に自分の魔力を操作するのが困難になるのよ」
「先生、それはどういう意味だい?」
「そうね……例えばこのカップに入っている紅茶を魔力だとすると、人間は器その物だと考えなさい」
「紅茶が魔力でカップが人間……」
マオ達は自分の持っているカップに視線を向け、マリアは自分のカップの中身の紅茶を口の含み、改めて説明を行う。
※台風のせいで予定がずれたので1話分多く投稿します。
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