第142話 エルフの血筋

「くそっ……あいつ、本当に何処に消えたんだ」

「あの……リオンはどれくらい学校にいたんですか?」

「俺が謹慎を受けている時に出て行ったそうだからな……まあ、入学式から最初の一か月ぐらいは通ってたんじゃないか?」

「そうですか……」

「ちっ、あいつの話をしているとむかむかしてきた……よし、練習を再開するぞ!!」

「あ、はい」



バルトはリオンの事を考えているだけで苛立ち、それを紛らわすために次の練習を開始する――






――夕方を迎えるとマオとバルトは学生寮の食堂で食事を取り、最近は二人で食べる事が多い。少し前まではバルトは自分の取り巻きと食べていたが、最近の彼は他人を乏しめるような態度を改めたせいか、取り巻きの人間もいなくなった。


前に彼を褒め称えていた人間の多くはバルトを恐れ、目が付けられないように彼の傍で自分が味方だと演じただけに過ぎない。しかし、バルトが態度を改めた事で取り巻き達も安心して彼から離れた。



「先輩もここで食べるんですね。貴族の人は自分の部屋で食べる事が多いと聞いてましたけど……」

「ああ、俺は貴族と言っても実家からは追い出されたみたいなもんだからな。まあ、別にどうでもいいけどな……」



魔法学園に通う生徒の中には貴族も存在し、大抵の貴族は自分の部屋に食事を運ばせている。一応はバルトも貴族の出身ではあるが彼は特に身分など気にせず、学生寮の食堂で普通に食事を取る事が多い。


最近のマオはバルトと共に過ごす時間が長く、暇なときは指導だけではなくチェスなどで遊ぶ事もあった。年齢差はあるが同じ男性相手という事で変に遠慮する事もなく遊べる相手ができた事にマオは喜ぶ。



「そういえば先輩、聞きたいことがあるんですけど……」

「どうした?」

「えっと、水耐性を持つ魔物の事を教えてほしいんですけど……」

「水耐性?また変な事を聞くな、急にどうした?」



マオは以前に魔物を倒していた時、魔力量が全く伸びなかった話を行う。魔術師は自分の適性属性に耐性を持つ魔物を倒せば魔力量が伸びるという話をバルルから聞き、マオの場合は水属性と風属性の性質を持つ「氷属性」のため、風耐性か水耐性の魔物を倒せば魔力量が伸びると考えられた。


一時期はマオは毎日のように外に出向いて魔物を倒してきたが、その中にはファングなどの風耐性の魔物も含まれた。しかし、いくら風耐性の能力を持つ魔物を倒してもマオの魔力量は変わらない事からバルルはマオが風耐性よりも水耐性よりの魔力だと判断する。



「師匠によると僕は風属性と水属性の魔力を併せ持っているらしいんですけど、どうやら風属性よりも水属性の方が質が高いらしくて……」

「……ちょっと待て、つまりお前は風属性よりも水属性の方が適性が高いのか?」

「え?多分、そうだと思いますけど……」

「いや、それはおかしいだろ」



話を聞いてたバルトは疑問を抱き、彼はどうしてもマオの魔力が風属性よりも水属性の適性が高いとは思えなかった。その理由は彼の生み出した「氷柱弾」を見た時、バルトはマオが風属性の魔力を操作した事を思い出す。



「お前が試合の時に見せた魔法は……えっと、名前は氷柱弾だったな?あの魔法は自分の魔量で作り出した氷に魔石から引き出した風属性の魔力を加えて攻撃をしていたよな?」

「え?あ、はい……そうですね」

「それならお前は風属性の魔力を操れるわけだ。それなのに風属性よりも水属性の方が適性が高いのか?」

「あれ?言われてみれば……」

「おい、水属性の魔石は持っているか?ここで水属性の魔石から魔力を引きだせるか試してみろよ」



バルトに言われてマオは二又の杖を取り出し、この時に彼は風属性の魔石を杖から外す。そして意識を集中させて今回は水属性の魔石から魔力を引きだそうとした。



(アイスを作り出すんじゃなくて、風属性の魔石の時のように魔力だけを引きだすように……)



意識を集中させてマオは杖に取り付けられた水属性の魔石から魔力を引きだそうとした。しかし、風属性の魔石の時と違って魔石から魔力を引きだそうとしても上手くいかず、いくら念じても魔石から魔力を引きだす事ができなかった。



「あ、あれ?すいません、もう一度……ふんぬっ!!」

「……反応しないな」

「おかしいな……えいっ!!」

「おっ……光ったぞ」

「このっ!!」



無理に引き出さそうとすると杖先から水色の魔光が放たれるが、それ以上は何も起きなかった。風属性の魔石の場合は杖先から魔光も生み出さずに風を生み出す事はできたはずだが、水属性の魔石の場合はどうにも上手くいかない。


かなりの集中力を使ったのにマオは魔石から魔力を引きだせなかった事に衝撃ショックを受け、一方でバルトの方は腕を組んで考え込む。この時に彼はある結論に至る。



「そうか……マオ、お前の先祖にもしかしてエルフがいるか?」

「え?あ、はい……確か、教会の人によると僕は隔世遺伝で魔法が使えるみたいです」

「なるほど……お前はエルフの血が流れているから風属性の魔力が扱えるのか」



マオの先祖にエルフがいる事を知ってバルトは納得し、彼が人間にしては珍しい「氷属性」の魔法が扱える理由を知る。

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