第141話 バルトの指導
――月日は流れ、マオが学園に訪れてから二か月以上の時が流れた。放課後を迎えると彼はバルトと共に魔術師の戦い方を教わり、屋上の訓練場にて指導を受ける。
「いいか、魔術師の基本は相手との距離を保つ事だ。魔術師の長所は遠距離から攻撃や支援を行える事だという事を忘れるな。近付こうとする相手を見逃さず、時には動いて相手に距離を詰められないように気をつけろ!!」
「は、はい!!」
「杖を構えたまま動く事に慣れろ!!相手から目を反らさずに動け、但し周囲の状況を把握しておかないと痛い目を見るぞ!!」
お互いに杖を構えたままマオとバルトは移動を行い、相手が近付こうとしたらその分だけ距離を取り、逆に相手が離れようとしたら自分も近づく。
魔術師の長所は遠く離れた相手でも魔法の射程圏内であれば攻撃を仕掛けられる事だったが、高過ぎる威力の魔法は逆に危険性を伴い、もしも相手に近付けられれば魔法を放とうとしても威力が大き過ぎて自分も巻き込まれる危険性もある。
「敵に近付かれた場合、威力と規模が大きい魔法は絶対に使うな!!自分も巻き込まれる可能性もあるからな……といってもお前の場合は別にそんなに心配する必要ないか」
「え?そうなんですか?」
「お前の扱う魔法はどれも接近戦でも十分に利用できるからな。特に氷刃が一番使い勝手が良さそうだな。相手が近付いて来てもあれを自分の傍に置いておけば迂闊に近づけないし、逆に攻撃に利用できるしな」
マオの魔法はバルトは全て把握しており、接近戦において一番役立つと思われるのは「氷刃」だと語る。氷刃の利点は規模を自由に変化させる事ができる点であり、小型の氷刃を作り出して近付いてきた相手を切り付ける事もできるという点では「氷弾」や「氷柱弾」よりも優れている。
氷刃の利点は相手が近付こうと距離を取ろうと攻撃が行える点であり、接近戦でも遠距離でも十分に有効活用できる点だった。氷弾や氷柱弾の場合は遠距離はともかく、接近戦の場合だと使いにくい点があり、しかもどちらも攻撃の軌道を変化する事はできない。
「お前、確か複数の氷を作り出す事もできたよな?」
「あ、はい。今の所は10個ぐらいが限界ですけど……」
「それだけあれば十分だ。そいつを全て小型の氷刃に変えて四方八方から繰り出せば……俺との試合の時も一瞬で終わったな」
バルトはマオが複数の氷刃を作り出して攻撃を行っていれば自分には勝ち目はなかったと正直に話す。10個の氷刃が同時にしかも別々の方向から迫ってきた場合、バルトではどうする事もできずに敗れていただろう。
「でも、先輩なら氷刃を壊せますよね?」
「まあ、一つや二つぐらいなら俺のスラッシュで何とかなるとは思うが……お前と違って俺の場合は間を挟まないと次の魔法は使えないんだよ」
複数の氷刃が接近した場合、バルトはスラッシュで迎撃を行ったとしても全ての氷刃を破壊する事はできず、破壊を免れた氷刃に襲い掛かられたらどうしようもできなかった。
マオはかつてリオンが「ウィンドウォール」という魔法で風の障壁を作り出し、自分と彼を守った事を思い出す。あの魔法ならば全方向からの攻撃を防ぐ事ができるのではないかと思ったが、バルトにその話をしてみると意外な返答が帰ってきた。
「先輩はウィンドウォールは使えますか?」
「ああ、確かにあの魔法を使えば周囲からの攻撃を防ぐ事はできるが……あの魔法、実はそんなに防御力は強くないんだよ」
「え、そうなんですか!?」
「あの魔法は自分の周囲に風の魔力で障壁を作り出すけど、これがきついんだよ。俺の魔力量だとせいぜい普通の魔術師の下級魔法を受けれるぐらいだな……まあ、お前の下級魔法を防ぐ事は無理だろうな」
ウィンドウォールの魔法の効果は使用者の魔力量によって大きく変化するらしく、魔力が大きい人間程に効果が高くなり、逆に魔力量が少ない場合は簡単に破られてしまうという。
バルトの魔力量は三年生の中ではトップクラスだが、それでもリオンには及ばない。本人もその事は自覚しており、彼は悔し気な表情を浮かべた。
「俺が前に敗れたリオンという奴……悔しいが、あいつは俺よりも魔術師としての才能は上だ」
「リオン……」
「そういえばお前、あいつの友達だったな?あいつとは連絡は取っていないのか?」
「いや、友達という程じゃ……」
マオはリオンに命を救われ、小杖を受け取っているが決して親しい間柄とは言えない。リオンが魔法学園に通っていた事も知ったのは最近の話であり、しかもバルトにとって因縁の相手だと知ったのも彼から指導を受けた後に聞いた話である。
「たくっ……一年生の癖に休学なんて何を考えてんだ」
「先輩はリオンの事を知ってるんですか?」
「いいや、何度か調べようとしたが結局は分からずじまいだ」
バルトはリオンに敗れた後に彼の正体を確かめようとしたが、結局は分からずじまいだった。教員に話を聞こうとしても教えて貰えず、それどころか調べようとする事を禁じられた。
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