第136話 氷柱弾VSスライサー

「はぁあああっ!!」

「うわっ!?」

「な、何という魔力……」

「バ、バルト!!魔石の魔力を使い切るつもりか!?」



バルトは杖に取り付けられた魔石から限界まで魔力を引きだし、先ほどよりも巨大な風の渦巻を形成する。先ほどの2倍近くの大きさのスライサーを見てマオは冷や汗を流すが、彼も負けずに風の魔力を利用して氷柱の回転速度を上昇させた。



(もっと早く、回転力を高めるんだ!!)



お互いにこれが最後の攻撃になると予感しながらもマオとバルトは魔法に全力を注ぎ、そして二人は同時に杖を突き出す。



「スライサー!!」

氷柱弾キャノン!!」

『うわぁっ!?』



二人の放った魔法によって闘技台を取り囲む結界に衝撃が走り、渦巻状の風の斬撃と高速回転が咥えられた氷柱が衝突した。




――勝負は一瞬で終わり、風の魔力で超高速に回転していた氷柱は先ほどの氷刃ブレイドの威力の比ではなく、バルトの生み出したスライサーを撃ち抜く。そして闘技台を覆い込む結界に衝突し、先端の部分が結界を貫く。




闘技台を取り囲む結界は数名の教師が結界石と呼ばれる魔石を発動して作動した魔法障壁であり、本来であればでも簡単に打ち破れる代物ではない。それにも関わらずにマオの新たに生み出した「氷柱弾」は一部とはいえ結界を破壊したのは正に脅威と言える。



「ば、馬鹿な……け、結界が!?」

「有り得ない、何なのだ今の魔法は……ま、まさか上級魔法か!?」

「しかし、氷の魔法であのような上級魔法があるなど聞いた事もないぞ!?」

「……これは、流石に驚きね」

「は、ははっ……や、やりやがったあいつ」

「……凄い」



結界に突き刺さった状態の氷柱弾に誰もが視線を向け、バルルやミイナでさえも呆然と見上げ、一方でマリアの方は驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべて氷柱弾に手を伸ばす。



「この結界を貫通するなんて……素晴らしいわ」

「が、学園長!!闘技台を見てください!!」

「……何かしら?」



感動に浸っている時に話しかけられたマリアは若干不機嫌そうな表情を浮かべるが、彼女は闘技台に視線を向けると、そこには倒れたマオとバルトの姿があった。


二人ともどうやら先ほどの魔法で魔力を使い果たして意識が途切れたらしく、どちらも動ける状態ではなかった。これでは試合どころではなく、マリアは教師たちに結界を解除するように命じる。



「結界を解きなさい!!」

「は、はい!!」

「今すぐに解きます!!」

「いえ……もう壊すわ」

『えっ?』



教師たちが結界を解除するよりも前にマリアは氷柱弾が貫通した箇所に掌を構えると、彼女は無詠唱で手元に小さな火球を作り出す。それを見た者達は呆気に取られるが、すぐにバルルは驚愕の表情を浮かべてミイナを抱えて地面に伏せる。



「伏せな!!先生の魔法だよ!!」

「わっ!?」

「が、学園長!?お待ちくださ……」



マリアは下級魔法の「ボム」と呼ばれる魔法を作り出すと、結界を貫いたマオの氷柱弾に放つ。火球が触れた瞬間、マオの氷柱弾は蒸発して消え去り、直後に爆発を引き起こして結界に亀裂が走った。


下級魔法にも関わらずにマリアの放った火球は爆発した瞬間に結界全体に罅割れが走り、最終的には粉々に砕け散ってしまう。彼女の下級魔法は並の魔術師の上級魔法に匹敵し、結界を破壊した彼女は倒れている二人の元へ向かう。



「……二人とも気絶しているだけね、命に別状はないわ」

「せ、先生……驚かさないでくださいよ!!」

「あら、貴女は私の魔法をよく知っているでしょう?在籍中の時によく相手をしていたじゃない」

「あ、あの時は若気の至りで……」



バルルはマリアに文句を告げると、彼女は昔の話を語る。まだバルルが学生時代の頃、わけあって彼女はマリアに突っかかっていた。そして何度も彼女に返り討ちに遭い、最終的にはマリアに逆らえないようになってしまう。


マリアの指導のお陰でバルルは三年生まで進級できたのは確かだが、彼女にとってはマリアの魔法はトラウマで見ただけで身体が震え上がる。そのせいで倒れているマオの元へ向かう事ができず、先にミイナが駆けつけて彼を抱き起す。



「マオ、起きて!!」

「う、ううんっ……」

「良かった、生きてる……という事はマオの勝ち?」

「残念だけど、この状況だと引き分けね」



ミイナは少し期待した目でマリアに振り返ったが、彼女は状況を判断した上で今回の勝負は引き分けだと判断した。マオもバルトも最後の魔法で力を使い果たして気絶してしまい、結局は決着が付かなかった。


状況的に考えれば最後の魔法はマオが打ち勝ったが、彼の魔法はバルトを傷つける事はなく、彼の後ろの結界を貫いただけで終わった。そもそも氷柱弾をまともにバルトが受けていれば今頃は死んでいたのは間違いなく、むしろ生きているのが奇跡だと言えた。

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