第135話 二つの魔力

「うわぁっ!?」

「おおおおおっ!!」



マオが試合場の床に落ちた瞬間にバルトのスライサーが氷刃を打ち砕き、そのまま結界に衝突して消散した。それを見ていた教師たちは驚きの声を上げ、一方で氷刃を正面から破られたマオは悔し気な表情を浮かべる。



(この人、やっぱり強い……!!)



事前に聞いてはいたがマオは三年生のの中で最強の魔法使いを相手にしている事を思い知り、改めてバルトの実力に背筋が震える。一方でバルトの方は汗を流しながらも杖をマオに構え、攻撃の手を緩めずに追撃を行う。



「このっ……いい加減に諦めやがれ!!」

「うわっ!?」



バルトが杖を振り下ろしただけで斬撃スラッシュを放ち、それを見たマオは咄嗟に横に転がって攻撃を避ける。流石のバルトも疲労が蓄積されたのか杖を地面に突いて攻撃を一旦中止する。


どうにかバルトの攻撃を躱したマオだったが、次も上手く避けられる保証はない。彼はバルトの様子を伺い、だけでは到底かなわない相手だと認めた。



(今の僕の魔法じゃこの人には勝てない……けど、絶対に諦めない!!)



自分の魔法の力だけでは及ばないのであればとマオは二又の杖に取り付けられた魔石に視線を向け、この二つの魔石はバルルから託された代物である。彼女がボーナスを使い果たしてまで購入してくれた魔石を使い、最後のを発動させた。



「……氷刃ブレイド!!」

「ちっ、性懲りもない奴だ……そんなちゃちな魔法で俺に勝てると思ってるのか!?」



再び同じ魔法を繰り出したマオを見てバルトは悪態を吐き、先ほどの攻防でマオの氷刃は彼のスライサーに及ばない事は証明された。それでもマオは同じ魔法を使用し、二つの氷塊を結合させてを生み出す。



「また同じ魔法か?」

「さっき敗れたというのにまた同じ方法で挑むつもりか?」

「やはり、まだ子供か……」

「うるさいね、あんたらは黙ってろ!!」

『ひぃっ!?』



教師達はマオが同じ魔法を使う光景を見て落胆するが、それに対してバルルは怒鳴り散らす。彼女の一喝に教師達は身体をびくつかせ、一方でミイナの方は心配そうな表情を浮かべてマオを見守る。



(マオ、頑張って……)



心の中で応援しながらもミイナはマオの様子を眺めていると、この時に彼女は異変に気付いた。それはマオが所持する二又の杖を見て違和感を抱き、彼女は目元を細めて観察すると、彼の杖に嵌め込まれた魔石が妙な輝きを放っている事に気付く。


マオが所持する二又の杖にはバルルが渡した魔石が嵌め込まれているが、その内の風属性の魔石だけが輝いている事が判明する。マオは集中するように二又の杖を握りしめ、目の前に浮かぶ氷刃を見つめ続ける。



(もっと早く……もっと、もっと!!)



氷塊を作り出したマオは二又の杖に取り付けられた魔石の魔力を引きだす。但し、今回の場合は彼が引きだした魔力はからのみであり、水の魔石は全く反応を示さない。



(思い出せ、あの時の感覚を……!!)



深淵の森でリオンから渡された小杖でマオは初めて魔法を使った夜の事を思い返し、あの時に彼から教わったのは「アイス」の魔法だけではなかった。彼はマオがどの系統の魔法を扱えるのかを確かめるため、各属性の下級魔法を教えてくれた。


この時にマオは風属性と水属性の下級魔法である「ウィンド」と「アクア」を唱えた時、確かに自分の中に流れる魔力を感じ取った。魔法の発現自体は失敗したがマオは魔力を感じ取ったのは彼が風と水の魔力の性質を併せ持つ「氷」の魔法の使い手だからである。



(師匠は言っていた……僕のアイスは風と水の魔力で構成されているって!!それならこの二つの魔力を操る事だってできるはず!!)



バルルからマオは自分の扱う魔法が水と風の魔力を合わせた性質だと知り、魔石を使用する訓練で彼は無意識に二つの魔石から魔力を引きだしている。それは既にマオが風と水の魔力を自由に引き出せる事を意味しており、今回の場合は風の魔石からのみ魔力を引きだして力を使いこなす。



(バルト先輩みたいに風を上手く操れる自信なんてないけど……これを使えばもっと早く動かせる!!)



マオは作り出した氷塊を「氷柱」のように変形させると、この状態で横回転を加える。そして風の魔力を利用して氷柱全体に渦巻を纏わせ、回転力を高めていく。それを見たバルトは彼が先ほどの「氷刃ブレイド」とは違う攻撃を行おうとしている事に気付き、慌てて杖を構えた。



「なっ……何の真似だ!?」

「バルト……先輩、これが僕の全力です!!」

「くそっ……舐めるな!!」



再びバルトは杖を上空に構えるとスライサーを発動させる準備を行い、この時にマオは彼の邪魔をせずに待機する。今のうちに攻撃を仕掛けるのが得策だろうが、敢えてマオはバルトがスライサーを発動させる準備を与えた。それは決して彼を舐めているわけではなく、これから行う魔法を無防備に受ければバルトはしてしまうからだった。

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