第137話 マリアの実力

「先生、そりゃないだろ。どう見てもマオの方が優勢だったじゃないかい」

「駄目よ、確かに最後の魔法はこの子が打ち勝ったように見えたけれど、最初に定めた通りに相手を戦闘不能に追い込めば勝利と言ったはずよ。二人とも気絶したのであれば引き分けよ」

「……まあ、負けなかっただけ良しとするか」

「ば、馬鹿な……何故だ!?どうしてバルトの魔法が……!?」



バルルは勝負の結果が引き分けに終わった事に渋々と納得するが、一方でタンの方は気絶したバルトの事よりも彼の中級魔法が破られた事に理解が追いつかなかった。下級魔法しか扱えないはずのマオに三年生の中では最も才能と実力を持つバルトが魔法で敗れた事が彼は信じられなかった。



「き、貴様!!最後の魔法は何だ!?そいつはいったい何者だ!?」

「な、何だい急に……」

「教えろ!!最後にその子供が使った魔法は何なのだ!?中級魔法か、それとも上級……」

「下級魔法よ」



マオの師であるバルルにタンは迫り、最後に彼が扱った魔法の正体を問い質す。彼の目から見ればどう見てもマオが生み出した「氷柱弾」は下級魔法の域を越えていた。しかし、そんな彼に答えたのは学園長のマリアだった。



「あの子には中級魔法や上級魔法を扱う程の魔力はない……即ち、それはあの子が使った魔法は下級魔法という事になるわ」

「そ、そんな馬鹿な……有り得ませぬ!!あれが下級魔法などと……そ、そうだ!!魔石を使ったのだな!?」

「馬鹿言うんじゃないよ、魔石はあくまでも魔法を補助する効果しかない。術者の実力を大きく超える魔法なんて使えない事は知ってるだろう?」

「ぐぅっ……!!」



魔石の類はあくまでも魔術師が魔法を発動させる際の補助の効果しか持ち合わせておらず、実力が未熟な魔術師が魔石を使用した所で自分の限界を超える魔法を扱う事はできない。


魔力量の問題でマオは下級魔法以外の魔法は扱う事はできない。しかし、最後に使った彼の魔法は下級魔法の域を超えており、風属性の中級魔法の中でも高い威力を誇るスライサーを正面から打ち破った。更には上級魔法程の威力でなければ破壊できないと思われていた結界を貫き、威力だけならば中級魔法を越えた魔法を彼は生み出す。



「ふ、不正だ!!きっと杖か何かに細工を施したのだろう!?学園長、この試合は決して公平ではなかった!!我が生徒は嵌められたのです!!」

「はあっ!?舐めた事を抜かしてるんじゃないよ!!ぶっ飛ばすぞ!?」

「落ち着きなさい二人とも、それとタン先生もいい加減にしなさい」

「し、しかし!!」

「……?」



マリアが一言告げた途端、学園の屋上は静寂に包まれた。彼女の言葉を聞いただけで教員たちは黙り込み、ミイナの猫耳と尻尾が逆立つ。まるで大型の猛獣を前にした小動物のような気分を味わい、雰囲気が変化したマリアに誰もが声を出す事ができない。



(な、何て迫力だい……先生、マジで切れたね)



あまりのマリアの迫力に元冒険者で腕っ節には自信があるバルルでさえも言葉を発する事ができず、タンに至っては顔色を青ざめて身体を震わせていた。マリアはただの魔術師ではなく、この国で一番を誇る魔術師である事を嫌でも思い知らされる。


このマリアの威圧感の正体は彼女が内に秘めていた「魔力」を開放しており、この場に存在する全員が魔術師(魔拳士)であるため、彼女の放つ魔力を敏感に感じとる。マリアの魔力量は一流の魔術師の数倍、もしくは十倍以上の魔力を有していた。



「これ以上に我儘は聞いていられないわ。この試合は引き分けだと二人が起きたら伝えなさい」

「は、はい……」

「わ、分かりました……」



マリアの言葉にバルルとタンはどうにか声を絞り出して返事をすると、途端に彼女から放たれていた威圧感が消え去ってしまう。どうやらマリアが解放していた魔力を抑えていたらしく、彼女は一変して笑顔を浮かべて二人の肩を掴む。



「これからはもう喧嘩はしては駄目よ」

「「…………」」

「……返事がないわね?」

「「は、はい!!分かりました!!」」



最後にマリアが睨みつけるとバルルとタンは冷や汗を流しながらも必死に返事をすると、こうしてマオとバルトの試合は終わりを迎えた――

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