第131話 試合の承認

「――貴女達は毎回騒ぎを起こさないと気が済まないのかしら」

「「「すいません……」」」



バルルが三年生の教室で騒ぎを起こした後、彼女とその生徒でしであるマオとミイナは学園長室に呼び出され、学園長マリアから説教を受けていた。


マリアが三人を呼び出したのは三年生の担当教師のタンから抗議があったからであり、授業を妨害されたのを理由に学園長であるマリアに処罰を与えるように申し付けてきたからである。彼女も立場上はバルルを叱らないわけにはいかず、一先ずはバルルと彼女の生徒達を呼び出す。



「本当にうちの師匠がすいません……せめて放課後まで待てばいいとは言ったんですけど」

「授業中に乗り込んだ方が派手で面白そうだと言って聞かなかった」

「ちょっ!?あんた達、師匠を裏切るつもりかい!?」

「つまり、悪いのは貴女というわけね……全く、これじゃあ来年のボーナスも無しね」

「先生!?そりゃないよ!!」



既に今年分のボーナスも前借りしているのにさらに来年分のボーナスも無しにされそうになるバルルは慌てふためくが、そんな彼女に対してマリアは珍しく怒った様子で語り掛ける。



「貴女の性格は把握しているつもりだったけど、それでも今回はやり過ぎよ。ちゃんと反省しなさい」

「は、はい……すいませんでした」

「あの師匠が謝ってる」

「流石は学園長」



素直に謝罪を行うバルルを見てマオとミイナは驚き、その一方でマリアの方はマオに視線を向けた。今回の発端はそもそもマオとバルトが原因である事もマリアは突き止めており、彼女は真剣な表情を浮かべてマオに告げる。



「今日の放課後、学園の屋上にて貴方とバルト君の試合を行う事を正式に許可します」

「えっ……試合?」

「今日の放課後?」

「先生……いいのかい?」

「仕方がないでしょう。タン先生も了承したわ」



学園長としてマリアはマオとバルトが試合を行う事を認め、これほど騒ぎを起こした以上は内密に処理するわけにはいかなくなった。既に生徒達の間でも噂になっており、しかも最近のバルトの行動のせいで彼がマオに執着している事は既に知れ渡っていた。


バルトとしてもマオと勝負をしなければ気が済まず、延々と彼を追いかけ続けると思われた。それならば彼の望み通りにマオと戦わせて決着を着ける方が良いと判断する。マオの方もバルルの助言を受けて既に戦闘の準備は整えている。



「生徒同士が争うのは悲しい事だけど、二人の意思を尊重して学園側は試合を許可します。但し、あくまでも試合であって決闘ではないわ。もしも二人のどちらかが命の危機に陥った場合、教師である貴方達が止めるように」

「ああ、約束するよ!!」

「もしもマオが試合に勝ったらご褒美が貰える?」

「可愛い顔をしてちゃっかりしているわね……そうね、考えておくわ」



ミイナの言葉にマリアは苦笑いを浮かべ、今回の問題の発端はマオとバルトの対立が原因なのだが、マリアはマオが勝利した場合はなんらかの褒美を与える事を約束した。



「良かったじゃないかい、先生の褒美となると期待できるよ。これは絶対に負けられないね!!」

「は、はい……」

「貴女は少しは反省しなさい。どうやらまだ説教が必要なようね……二人は先に教室に戻っていなさい。バルル先生はしばらく残って貰いましょうか」

「げっ……先生、そりゃないよ」



マリアはマオとミイナに一足先に教室に戻るように指示すると、二人は部屋を退室した。残されたマリアとバルルはしばらく無言だったが、やがてマリアが口を開く。



「正直に答えなさい、貴方は自分の弟子が勝つと思っているの?」

「……勝ってほしい、とは思ってるよ」

「はっきり言わせてもらうけど、あの子が勝てる可能性は低いわ」

「本当にはっきり言うね……」



バルルはマリアの言葉を聞いて苦笑いを浮かべ、ソファに座り込む。彼女はマオに絶対に勝つように告げたが、正直に言えば今回の試合は不安要素が大きい。


相手は上級生でしかも学園内のの生徒の中では指折りの実力を誇り、その力は天才と呼ばれたリオンにも見劣りはしない。リオンとの勝負ではバルトは敗北したが、実際に試合を見ていた者からすれば二人の間にそれほど大きな実力差はない。



「バルト君は強いわ、天才と言っても過言ではないわね」

「それなら先生はなんであいつに月の徽章を渡さないんだい?」

「……実力はともかく、彼の場合は精神面で問題があるのよ」



学園長としてもマリアはバルトの実力を高く評価しているが、それでも彼女が月の徽章をバルトに与えないのには理由があった。それは彼の性格が関わっており、もしも月の徽章を与えれば彼の成長の妨げになると彼女は判断した。



「あの子が強くなろうとする理由は月の徽章を手に入れる事、彼がここまで努力して強くなれたのは月の徽章を欲するがためよ」

「それは分かるよ。昔のあたしも似たような事をしていたからね」

「そうね、だけど彼の場合は月の徽章に対して執着心が強すぎる……もしも彼が月の徽章を手に入れた場合、きっと満足して向上心を失うわね」



バルトが月の徽章を求めていながら与えられなかった理由、それはバルトの強すぎる執着心が問題だとマリアは語る。

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