第130話 売られた喧嘩は買う
「マオ!!しっかりしな、何があったんだい!?」
「……駄目、完全に気絶している」
「これは……魔力を使いすぎたようだね」
マオが目を覚ます様子がない事に気付いた二人はマオが魔力切れを引き起こして倒れた事を知る。魔力切れを起こした魔術師はしばらくの間は意識が戻らず、魔力が回復するまでは目を覚ます事はない。
二人が訪れる前にマオは自分の魔力を使い果たす程の厳しい訓練を行ったのは間違いないが、いったいどんな魔法を練習していたのか二人にも分からない。マオの事はミイナに任せてバルルは壊れた木造人形の破片を拾い上げて呟く。
「何だい、これは……いったい何をどうしたらこんな風に砕け散るんだい?」
「もしかして、またマオが新しい魔法を思いついた?」
「いや……それは分からないね」
粉々に砕かれたと破片を拾い上げたバルルは考え込み、いったいここで何が起きたのか彼女にも分からなかった。但し、一つだけ言える事はマオがまたもやとんでもない事を仕出かしたのは間違いない。
(こいつめ、今度は何を思いついたんだい?)
マオの身を案じながらも彼がどのような手段で木造人形を破壊したのかがバルルは気にかかり、この時に彼女は落ちているマオの二又の杖に気が付いた。そして彼女は杖に嵌め込まれている魔石を見ると、信じがたい光景を目の当たりにした。
「な、何だいこれは!?」
「……どうしたの?」
「魔石の魔力がどっちも切れちまってるじゃないかい!!」
慌ててバルルは杖を拾い上げると、彼女はマオに渡した魔石の魔力が完全に使い込まれている事に気付く。昨日までは確かに魔石には魔力が残っていたはずだが、現在は魔力が完全に切れて色が失われていた。
魔石が魔力を失うとただの砕けやすい水晶玉と化し、試しにバルルが杖に嵌め込まれた魔石を摘まみ取ると、少し力を込めただけで簡単に砕けてしまう。これでは使い物にならず、訓練の最終日だというのにマオは魔石の魔力を使い切ってしまった事を意味する。
「この馬鹿、自分の魔力だけじゃなくて魔石の魔力も使い切るなんて……いったい何をしてたんだい!?」
「バルル、怒らないで……きっとマオにも考えがあるはず」
「怒ってなんかいないよ、こいつの事だから何か思いついたのは分かってるんだ」
興奮した様子でバルルはマオに視線を向け、彼女は魔石の魔力を使い切った事は特に怒っておらず、むしろマオがどんな使い方をしたのかが気になった。彼の発想力はバルトの想像を超え、いったいどんな方法でマオが木造人形を破壊したのかが気になって仕方がない。
「とりあえず、今の所はこいつをゆっくりと休ませるしかないね……流石に寝ている間に薬を流し込むわけにもいかないからね……」
「でも、明日になったらマオは……」
「ともかく、今はそいつを休ませておきな。今日の訓練は無しだよ、それと新しい魔石は明日用意してやると伝えておきな」
ミイナはマオに膝枕すると彼は深い眠りについたまま起きる様子はなく、恐らくだが今日は起きたとしてもまともに訓練ができる状態ではない。今日の内はゆっくりと身体を休ませておくようにバルルは注意すると、彼女は屋上を後にした――
――屋上から離れたバルルが向かった先は授業中の三年生の教室だった。タンが生徒達に魔法の術式を教えている中、彼女はノックもせずに扉を開いて教室に入り込む。
「お邪魔するよ!!」
「なっ……何だ貴様!?」
「え、誰?」
「確か新任の先生じゃ……」
「ど、どうしてここに?」
急に入り込んできたバルルに誰もが戸惑い、授業を行っていたタンに至っては自分の授業の邪魔をしてきたのかと杖に手を伸ばす。そんな彼を無視してバルルは教室を見渡すと、不貞腐れた態度で授業を受けるバルトを発見した。
「あんたが噂に聞くバルトかい?」
「……誰だ、おばさん?」
「ま、待て!!貴様、うちの生徒に何をするつもりだ!?」
「あんたは黙ってな」
バルトは自分の目の前に訪れたバルルに少し驚いた様子を浮かべ、一方でタンはバルルを止めようと彼女に近付く。しかし、この時にバルルは鋭い目つきでタンを睨みつけた。
彼女の迫力にタンだけではなく、教室中の生徒の背筋が凍り付く。彼女の気迫だけで生徒達は声を上げる事もできず、一方でバルルの方はバルトを見下ろして淡々と告げる。
「うちの生徒に最近ちょっかいをかけているそうじゃないかい?」
「せ、生徒?」
「マオの事だよ。それともあんたの欲しがっている月の徽章を持つ生徒と言った方が分かりやすいかい?」
「っ……!?」
バルルの言葉にバルトは彼女が自分が追いかけているマオの担当教師だと気付くと、怒りを含んだ表情を浮かべた。そんな彼に対してバルルは笑みを浮かべ、堂々と宣言した。
「あたしは売られた喧嘩は買うのを信条にしている。そしてあたしの
「な、何だと!?」
「喧嘩を売ってきたのはそっちの方だからね。明日の正午、屋上に来な。そこにあいつが待っているよ」
「ま、待て!!何を勝手な事を……」
「あんたも教師なら自分の生徒の面倒ぐらい見たらどうだい?タン先生」
「ぐぬぬっ……!?」
言いたいことだけを伝えるとバルルはそのまま背中を向けて教室の扉へ向かう。残されたタンは悔し気な表情を浮かべ、一方でバルトの方は唖然とするが、彼女の言われた言葉を思い出して冷や汗を流しながらも笑みを浮かべる。
「上等だ!!自分の弟子がぶちのめされるのを楽しみに待ってろ!!」
「……あんたには無理だよ」
去り際のバルルにバルトは挑発めいた言葉を継げるが、そんな彼にバルルは笑みを浮かべて立ち去る――
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