第129話 バルト対策
(バルト先輩に勝つには今まで生み出した魔法だけじゃ駄目な気がする。あの人の魔法は本当に凄かったし、何か対策を考えておかないと危険だ)
マオはバルトが魔法を使った場面を思い返し、彼は三年生の魔術師の中でも1、2を争う魔術師だともリンダから聞いていた。自分よりも先輩でしかもリオンと同じく風属性の魔法の使い手だと知り、本当に勝てるのか自信はなかった。
風属性の魔法でマオが知っているのはリオンが使用していた「スラッシュ」と「ウィンドカーテン」そしてバルトが三年生の授業の際に「スライサー」なる魔法を生み出した事を思い出す。
(あのスライサーという魔法が一番恐ろしいな……)
マオの「氷刃」を作り出す切っ掛けとなったバルトの「スライサー」はリオンが扱う「スラッシュ」よりも威力自体は上であり、もしも人間がまともに喰らえば無事では済まない。
風属性の魔力を渦巻状に変化させて相手に攻撃を仕掛け、まるで竜巻の如く敵を粉砕する恐ろしい魔法だった。しかし、この魔法は発動の際に時間が掛かり、バルトの場合は杖を振り回す行為を事前に行う。
(あの魔法は発動に時間が掛かるらしいから、その時が攻撃を仕掛ける好機だと師匠は言ってたけど……問題なのはスラッシュの方だな)
スライサーは発動に時間が掛かるという弱点はあるが、もしもバルトがリオンと同じく「スラッシュ」を扱えた場合は非常に厄介な敵と化す。しかもスラッシュはスライサーよりも難易度は低いのでほぼ確実に彼が覚えていると考えた方がいい。
リオンのスラッシュの魔法は鋼鉄以上の強度を誇る肉体を持つオークを一刀両断し、恐らくだがバルトも彼と同じぐらいかそれに近い威力魔法が扱えると思われた。バルトはかつてリオンに敗れはしたが、それでも三年生の中でも指折りの実力者である事に間違いない。
(スラッシュを僕の
鋼鉄を容易く切り裂く程の威力を持つスラッシュをマオの作り出した氷塊が受け切れるかどうかは分からず、下手をしたら氷塊ごと破壊してマオが敗れる可能性もあった。しかもスラッシュはスライサーと違って魔法を発動させるのに予備動作は行わず、瞬時に発動できるという点も厄介である。
(スラッシュとスライサー……この二つを打ち破る方法を考えないと勝てないかもしれない)
マオは自分の
(まともに受ければ僕の魔法じゃ勝ち目はない。だけど、新しい攻撃法を考える時間も試す暇もないか……)
これまではマオは窮地に立たされた時は「
師匠の願いを聞けなければマオは破門され、もう彼女に教えを受ける事はできなくなる。ここまでマオが成長できたのはバルルの指導のお陰であるため、彼は何としてもバルルの弟子でいるために彼女に失望されないように頑張らなければならなかった。
(考えろ、新しい魔法を作り出す時間がないのならやるべき事は――)
腕を組んで立ち尽くしたマオは考え事にふけっていると、この時に強風が発生してマオは危うく倒れそうになり、慌てて彼は踏み止まった事で転倒は免れた。
「うわっ!?危なっ……今日は風が強いな」
転ばないように踏み止まったマオは自分が口にした言葉に目を見開き、ある事を思いつく。彼は二又の杖に取り付けられた魔石に視線を向け、空を見上げて時間を確認した。
(まだ1日猶予はある……やってみる価値はあるかもしれない!!)
新しい訓練法を思いついたマオは今日中に自分が考えた魔法の使い方を試すため、急いで準備を行う――
――それからしばらく時間が経過すると、屋上にミイナを連れたバルルが訪れる。彼女は欠伸をしながら寝ぼけ眼のミイナを連れ出して屋上に到着すると、マオが倒れている姿を見て目を見開く。
「マオ!?あんた、どうしたんだい!?」
「マオ!!」
「うっ……」
二人は慌ててマオの元に駆け寄ると、彼女達はここで異変に気付いた。それはマオから正面の位置に粉々に砕けた木造人形の破片が散らばっていた。
ここで何が起きたのかは分からないが、マオが魔法で木造人形を破壊した事に間違いない。しかし、彼の扱う魔法の中で木造人形を木っ端みじんに破壊できる程の威力がある彼の魔法などバルルには心当たりがなかった。
(何だい、あの壊れ方は……!?)
氷弾でも氷刃でも木造人形を壊す事はできるが、今回の場合は原型が留めていない程に粉々に砕け散っていた。一流の魔術師(魔拳士)であるはずのバルルでさえもマオが何をしたのか分からず、一先ずは彼の容体を調べる。
※午後にも投稿します(勢いあまって一話分多く書いたので)。
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