第122話 バルトの目的
「――これが私の知っている限りの彼の事情です」
「そ、そんな事があったんですか……」
「……話しを聞く限り、別にマオは何も悪くない」
「ええ、その通りです」
マオはバルトの事情を聴いて驚いたが、その隣で話を聞いていたミイナは眉をしかめる。確かにバルトがマオに突っかかった理由は分かったが、別にマオ自身がバルトに対して何か失礼な真似をしたわけではなく、一方的にバルトがマオに絡んできた事に変わりはない。
バルトが月の徽章を持つ生徒に強い
「今日の事は本当に申し訳ございません。私の方からバルトに注意しておきます……少し前の彼はあんな性格じゃなかったんです。誰よりも努力して強くなるために頑張って、何時の日か月の徽章を持つのに相応しい生徒に成ろうとしていたのに……」
「そういう事情はどうでもいい」
「ミイナ……ちょっと厳しくない?」
リンダが語り始めようとするのをミイナは遮り、彼女に至っては何の関係もないのにバルトに突き飛ばされてしまった。そのせいでミイナはバルトに同情など一切せず、彼の知り合いであるリンダに忠告する。
「もしもさっきの人がまたマオを襲ったら……その時は私が懲らしめる」
「え、ええっ……分かりました。彼には私から厳しく注意しておくのでご安心下さい」
「しっかり叱って」
「ありがとう、ミイナ」
自分の分まで怒ってくれるミイナにマオは感謝すると、彼女は少し照れくさそうな表情を浮かべ、一方でバルトは同級生のリンダは彼の代わりに謝罪を行う。
「もしもまたバルトが貴方達に構ってきたら私に教えてください。その時は私が彼を止めてみせます」
「どうしてリンダさんはそこまでするんですか?」
「はっ……もしかしてバルトの事が好き?」
「いえ、それはあり得ません」
きっぱりとリンダはバルトに対して好意を抱いていない事を伝えると、二人に頭を下げてその場を立ち去った。その様子を見送った後、マオとミイナはこれからどうするべきか考える。
「マオ……バルトの奴がまた来たら今度は私が戦う」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。きっと話せば分かってくれるかも……」
「本当にそう思ってる?」
「……うん、やっぱり無理があるかな」
バルトの態度を思い出したマオは到底話し合いが通じるような相手には思えず、彼の月の徽章を持つ生徒に対する怒りや憎しみはひしひしと伝わった。
優秀なはずの自分が持つ事が許されない月の徽章を下級生の生徒が持っているだけでバルトにとっては屈辱らしく、しかも彼に心の傷を負わせた一年生は学校に通っていない。そして現在通っている月の徽章を持つ一年生はマオしかおらず、当然だがバルトの次の標的はマオになる可能性が高い。
「師匠に相談するしかないかな……」
「それが良いと思う」
もう少し待てばバルルが迎えに来てくれるはずのため、彼女に相談してマオはバルトに絡まれない方法を見つけるしかないと思った。しかし、この時のマオは彼女がバルトの担任教師のタンと決定的な対立をしていたとは夢にも思わなかった――
――しばらくすると何故か酷く怒った様子のバルルが屋上に到着し、彼女は苛立った様子で腕を組んで壁に背中を預けて考え込む。そんなバルルの様子を見てマオとミイナは不思議に思い、恐る恐る彼女に質問する。
「あの師匠……どうかしました?」
「……ちょっとむかつく事があってね。たくっ、あのくそ爺!!」
「にゃうっ!?」
怒りを抑えきれずにバルルは校舎の壁に拳を叩き付け、その行動にミイナが後ろに隠れる。そんな彼女にビビりながらもマオは先ほど起きた出来事を話す。
「あ、あの……師匠、実はさっき三年生のバルトという人がここへ来て……」
「バルト?誰だいそいつは……いや、ちょっと待ちな!!三年生と言ったのかい!?」
「え?あ、はい……三年生です」
バルルは三年生という単語に反応し、詳しい話をマオから聞く。彼女が嫌う
「何だいその話は!!あのくそ爺、自分の生徒にどんな教育をしているんだ!?偉そうにあたしに言ったくせに碌に指導も行き届いていないじゃないかい!!」
「し、師匠?」
「よし、マオ!!今度そのバルトとかいう奴が突っかかって来た時は……遠慮する事はない、あんた一人の力でぶっ倒しな!!」
「えっ……えええええっ!?」
「バルル!?何を言ってるのか分かってる!?」
予想外の言葉にマオは驚愕の声を上げ、ミイナでさえも珍しく大声を上げて驚く。そんな二人に対してバルルは真剣な表情を浮かべて話を続ける。
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