第121話 もう一人の一年生
――時は遡り、入学式が行われた日の夕方にバルトは月の徽章を持つ新入生と対峙した。自分でさえも手に入れる事ができない月の徽章を入学の時点で手にしていた少年にバルトが突っかかったのが全ての発端だった。
バルトは自分が月の徽章を持つ人間として選ばれないのは実力不足だからだと判断していた。だからこそ彼は月の徽章を手に入れるために勉学に励み、魔法の練習を行ってきた。そのお陰で彼は学年トップの成績を誇り、将来的には月の徽章を与えられるに相応しい人物だと他の生徒からも思われていた。
しかし、彼が三年生になった時に入学式にて月の徽章を持つ新入生が紹介された。それを知ったバルトは自分よりも年下でしかも入学したばかりの子供が月の徽章を持つ事に衝撃を受け、彼は今まで自分の実力が不足していたからこそ月の徽章を得られないと思っていた。だが、その考え方が正しい場合、バルトは入学したばかりの一年生よりも実力が劣っている事を認めなければならない。
当然だが入学したばかりの生徒よりも自分が劣っているとは認めたくはないバルトは教師を問い質し、どうして一年生に月の徽章を与えたのかを尋ねた。しかし、返答は月の徽章を持つに相応しい生徒だと学校側が判断したとしかいわれず、その答えに納得がいかないバルトは入学式の夕方に一年生を呼び出す。
『お前のような子供が俺よりも優っているだと……ふざけるな!!』
『……文句があるのなら証明してやろうか?』
『な、何だと!?』
『どちらが上なのか……ここで決めればいい』
バルトに呼び出された少年は年齢の割には大人びており、上級生の彼から呼び出されても全く動じた様子がない。そして彼は杖を取り出すとバルトに構え、今この場で自分と戦ってどちらの実力が上なのかを決めるように促す。
『決闘だ。お前が本当に自分の実力に自信があるというのなら……掛かってこい』
『な、舐めるな!!』
一年生から決闘を申し込まれた事にバルトは激怒し、そして彼は一年生と決闘を行った――
――結果から言えばバルトは一年生との決闘に惜敗した。三年生の魔術師の中でもバルトは一、二を誇る実力者だったが、結局彼は一年生に傷をつける事もできずに倒されてしまう。
一年生は彼と同じく「風属性」の魔法の使い手だったが、バルトよりも年下にも関わらずに彼以上の魔法の精度を誇り、決闘は5分も経たないうちに終わってしまった。
『そんな、馬鹿な……!?』
『それがお前の限界か?』
『くっ……くそぉおおおっ!!』
下級生に決闘で敗北した事にバルトは悔し涙を流し、その一方で相手をした一年生はその場を立ち去った――
――この敗北を切っ掛けにバルトは性格が荒み、より一層に強くなるための方法を選ばなくなった。彼は魔法の授業だけではなく、独学で新しい風属性の魔法の会得を試みる。時には自分のためならば他の人間に迷惑を掛けるような事も躊躇せず、そのせいで彼を恐れる生徒も増え始める。
一年生に敗北してからもバルトは月の徽章に執着心を抱き、何度も教師に直談判した。自分こそが月の徽章を持つ生徒に相応しいと掛け合うが、それでも彼に月の徽章を与えられる事はない。
バルトが自分に月の徽章を与えられない原因は例の一年生に敗北したせいだと判断し、あの一件で学校側の自分の評価が下がったと考えた。そこで彼は自分の実力を見せつけるかの様に授業の際には誰よりも目立つ行動を取り、誰よりも大きな成果を得ようとした。
そんなバルトにとっては因縁の相手である月の徽章を持つ一年生は何故か姿を見なくなり、ここ最近は学校に登校もしていない。魔法学園の生徒は寮で暮らす事が義務付けられているが、バルトが調べた限りではその一年生は寮に暮らしていない事が発覚する。
『ふざけるなよ、ガキが……どっちが上なのか、今度こそ思い知らせてやる』
自分を敗北させた一年生に対してバルトは執着し、また彼が魔法学園に訪れた時にバルトは決闘を申し込み、今度こそ自分の本当の実力を思い知らせると誓う。前回の時は怒りで我を忘れていたから実力を発揮できずに敗れたと彼は思い込んでいた。
バルトは何時の日か戻ってくるであろう一年生を待ち続け、その時までに自分自身の腕を磨き、そして彼を打ち倒す事で自分が月の徽章を持つ生徒に相応しい事を証明するつもりだった。だが、そんな彼の耳にもう一人の月の徽章を持つ生徒の話が届く。
『もう一人、一年生の中に月の徽章を持つ奴が現れただ……!?』
月の徽章を与えられた一年生がまた現れたという話を聞いた時、バルトは愕然とした。自分を打ち破った生徒の他にまたもや月の徽章を持つ生徒が現れた事に彼は激しく怒りを抱いたが、その生徒の存在を知ったのはごく最近の話である。
理由としては月の徽章を貰った生徒は普通の生徒とは違い、新任の教師と空き教室で授業を受けていたせいであまり話題にならず、しかも最近は学園の外に出向く事が多かったのでバルトも会う機会がなかった。そのせいでバルトも一年生を探し出す事ができず、仕方なく訓練に励もうとしていた時に彼は偶然にも屋上で月の徽章を与えられた
彼が自分の探していたもう一人の月の徽章を持つ生徒だと知ると、バルトは我慢できずに手を出してしまう。それを止めたのが同級生のリンダであり、彼女がこなければバルトは冗談抜きでマオに何をするのか分からなかった――
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