第118話 屋上にて
――バルルがタンと言い争っている間、マオとミイナは屋上の訓練場にて待機していた。二人はバルルが戻るまで訓練場で自主訓練を行い、この時にマオは5つの的を用意して氷弾の訓練を行っていた。
「最後のはここに置く?」
「うん、ありがとう。危ないからミイナは下がってて」
「分かった」
ミイナと共にマオは的当て用の木造人形を配置すると、別々の位置に置いた5つの人形を確認する。人形の位置を全て把握するとマオは二又の杖を取り出す。
(よし、この距離と数なら……大丈夫なはず)
二又の杖を取り出したマオは無詠唱で瞬く間に5つの氷弾を作り上げ、狙いを定めた。複数の氷弾を同時に操作するのはかなりの集中力を必要とするが、連日の訓練でマオの魔力操作の技術は磨き抜かれていた。
今回行うのは「
(焦るな、落ち着いてそれぞれの人形の位置を捉えて……撃つ!!)
全ての人形の位置を把握するとマオは杖を突き出し、その動作に反応して氷弾が同時に発射された。それぞれの氷弾はマオが狙いを定めた木造人形に目掛けて突っ込み、見事に全ての人形の頭部に氷弾がめり込む。
「よし、当たった!!」
「おおっ……流石はマオ、略してさすマオ」
「えっ……な、なにそれ?」
ミイナのよく分からないボケに戸惑いながらもマオはそれぞれの人形の頭部に視線を向け、氷弾を当てる事に嬉しく思う。だが、ここでマオはある事に気付いた。
(……いつもだったら人形を貫通するのにめり込んでいるだけだ。当てる事に集中しすぎて肝心の威力が落ちてるのかもしれない)
全ての的に氷弾を当てる事には成功したが、木製の人形の頭部を貫けないようでは威力に難がある。せめて全ての人形の頭部を貫通させるほどの威力でなければ実戦では扱えず、もう少しだけ訓練を続ける事にした。
(今度は頭じゃなくて他の箇所を狙ってみようかな)
もう一度マオは魔法を作り出そうと杖を構え、今度は頭よりも頑丈な胴体の部分を狙い撃とうとした時、不意に屋上の扉が開いた。
「……何だ、お前等?何をしている?」
「え?あの……」
「……そっちこそ誰?」
屋上に上がってきたのは上級生の男子生徒であり、彼は屋上に辿り着いて早々にマオとミイナに気付くと驚いた表情を浮かべる。その一方でマオは男子生徒の顔に見覚えがあり、学園に入ったばかり頃にマオが三年生の授業を覗いた時に見かけた男子生徒だった。
男子生徒の名前はマオの記憶が正しければ「バルト」という名前で、彼は同級生からも一目置かれている存在だった。彼は風属性の魔法の使い手で中級魔法を習得しており、三年生の中でも一、二を争う魔術師だと噂されている。
「お前等……一年と二年か?なんでここにいる。もうとっくに下校の時間だろうが」
「えっと、僕達は……」
「私達はここで待っているように言われた」
マオが説明する前にミイナが理由を伝えると、バルトは二人の言葉に疑問を抱く。本来であれば下級生は学校の裏庭にある訓練場しか使用を許可されていないが、教師の許可があれば他の訓練場も使用する事が許されている。
教師であるバルルから許可を貰った上でマオとミイナは屋上で訓練を行っていたが、今回の場合は急に現れたバルトの方がここにいる事がおかしかった。下校時間を迎えているのにバルトが屋上に訪れている事もおかしく、仮に自主訓練を行うとしても屋上の訓練場は許可がなければ立ち入りは許可されていない。
「……まあいい、お前等はとっとと帰れ。ここは俺が今から使う」
「え、でも……」
「私達はここに待っているように言われた。それにここを使う許可は……」
「ちっ……うるせえガキ共だな、いいからさっさと出ていけ!!」
バルトはマオとミイナの話を碌に聞かずに屋上から退去させようとするが、この時に彼はマオに視線を向けてある事に気が付く。マオの胸元に取り付けられた「月の徽章」を見た途端、バルトは信じられない表情を浮かべた。
「お前、その徽章は……!?」
「えっ……ど、どうかしました」
「……まさか、そういう事か。お前が一年の癖に学園長から月の徽章を渡されたガキか!!」
「うわっ!?」
「マオ!?」
月の徽章を身に着けたマオを見てバルトは興奮した様子で彼の元に駆けつけ、力ずくで胸倉を掴む。その行為にマオは驚き、ミイナはそれを見て彼を止めようとした。
「なんでお前みたいなガキに学園長は月の徽章をやった!!言え、どんな手を使った!?」
「うぐぅっ……!?」
「止めて!!マオが苦しがってる!!」
「うるさい、退け!!」
「あうっ!?」
「ミ、ミイナ!?」
止めようとしてきたミイナに対してバルトは彼女を突き飛ばし、それを見たマオはバルと胸倉を掴まれながらも怒りを覚え、無理やりに引き剥がす。
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