第117話 因縁の教師

「――それで、わざわざ学園長の名前まで出してあたしを呼び出したのはあんただったのかい?」

「ふん……ようやく来たか」



魔法学園に戻ったバルルは学園長室ではなく、職員室に訪れていた。最初は彼女も学園長に会うために向かおうとした時、他の教師に止められて職員室に案内される。そこには三年生の担当教師を任されているタンが待ち構えていた。



「いったい何のつもりだい?学園長の名前を語ってギルドに連絡を送るなんて……この事が学園長に知られたらまずいんじゃないかい?」

「勘違いするな、儂はギルドに連絡したのはと伝えただけだ」

「なるほど、それで勘違いさせたわけかい」



バルルは自分が呼び出したのは学園長ではなく、タンである事を知ると許可もなく彼の向かいの席の椅子に座り込む。そのバルルの態度にタンは怒りを抱くが、怒っているのはバルルも一緒だった。


仮にも魔法学園の教師ともあろう人間が学園長の名前を利用して呼び出しなど有り得ず、彼のやり方にバルルも静かな怒りを抱く。彼女は尊敬する学園長の名を利用して自分を呼び出したタンに問い質す。



「それで用件は?こっちも色々と忙しくてね、弟子共を待たせてるんだよ」

「貴様、上の者に対する態度がなっていないようだな!!」

「今は立場は同等のはずだよ、昔と違ってね……

「ちぃっ……」



タンはバルルの言葉を聞いて舌打ちし、一方でバルルの方はタンを睨みつける。二人の険悪な雰囲気に職員室内の他の教師は巻き込まれないように距離を置く。



――実を言えばバルルがまだ魔法学園に通っていた時代からタンは教師を勤め、彼女に指導を行っていた時期もあった。しかし、彼は当時の教育方針で魔力量が少ない生徒は成績に関わらずに進級させないという学校の教えに則り、彼女の進級を認めなかった教師の一人だった。


この教育方針のせいでバルルは成績は問題なかったのに三年生の時点で進級が認められず、怒った彼女は当時の学園長を殴り飛ばして退学になった。彼女が退学だけで済んだのは教師の中でたった一人だけ味方してくれたマリアのお陰であり、彼女がいなければバルルは下手をしたら捕まっていたかもしれない。



「相変わらず性格は変わっていないようだね。そんなんじゃ生徒に嫌われるよ」

「やかましい!!話をすり替えるな!!今日呼び出したのはお前の普段の態度と生徒の指導が問題なのだ!!」

「問題?別に今回は何も仕出かしてないだろう?誰にも迷惑なんてかけてないし、あいつらが何か問題を起こしてもいないはずだよ」

「よくもそんな口を叩けたな!!貴様が毎日のように学園外に生徒を連れ出しているのは知っているぞ!!」



タンが学園長の名前を利用してまでバルルを呼び出したのは彼女の教育方針に問題があると説教するためであり、タンは連日のようにバルルがマオとミイナを連れ出して外に出向いている事を叱責する。



「本来であれば学園の生徒は学校内で指導を受ける習わしとなっている!!それにも関わらずに貴様は生徒を連れ出し、あまつさえ魔物と戦わせていると聞いているぞ!!」

「それの何が問題なんだい?この学校だって生徒と魔物を戦わせる授業はまだ残ってるんだろう?」

「生徒が魔物と戦うのはからだ!!まだ魔法の腕も知識も未熟な1、2年生を魔物と戦わせるなど危険が大き過ぎる!!」

「大丈夫だって、あたしの頃は1年の時から魔物と戦わされてたよ。それにあたしが傍にいるんだからあいつらに危険な目なんて遭わせないよ」

「うぬぼれるな若造が!!」



遂に我慢の限界を迎えたタンが椅子から立ち上がると、杖を手に取ってバルルの顔面に構えた。バルルは動じた様子もなく突きつけられた杖を見つめ、そんな彼女にタンは怒鳴りつけた。



「学園長が何と言われようと儂は貴様の事など認めはせん!!この学園の秩序を乱す貴様の教育法を改めぬ限り、儂も他の教師も貴様と貴様の生徒も認めはせん!!」

「他の教師ね……文句があるのはあんただけじゃないのかい?」

「おのれ!!」



バルルの挑発じみた言葉にタンは杖を強く握りしめるが、それを見たバルルは素早い動きで彼の持っている杖を掴み取る。自分の杖を掴まれるとは思わなかったタンだったが、バルルは杖を握りしめた告げる。



「教育がどうとか、態度がどうとか言う前に……人様に杖を突きつけるなんて野蛮な行為をするあんたの方が問題あるんじゃないのか?」

「ぐぐっ……は、離せっ!!」

「あんたが謝らない限りは離さないよ」

「き、貴様……!!」

「タン先生、そこまでです!!おい、バルル!!お前も頭を冷やせ!!」



流石に他の教師も黙って見ていられず、今にも喧嘩を勃発しそうな2人を引き留めようとカマセが仲裁に入った。それを見た他の教師も慌てて集まり、どうにか2人を宥めた。


この日を境にバルルとタンは対立し、さらに二人の生徒が同時刻に問題を引き起こしていた――

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